従業員からハラスメントをされているという相談があり、事実の調査をし、懲戒や配置転換等の処分を行いました。
ひととおりやるべきことが終わると、人事労務担当者としては、「やっと終わった~!」という感慨を持つのではないでしょうか。

神経を使い、時間を使い、関係各方面に働きかけ、場合によっては残業が増えてしまっていたかもしれません。
ほんとうに「お疲れ様でした」と言いたくなる状況です。

しかし、ほっとしたのもつかの間、まだまだやるべきことが待ち構えています。

ハラスメント事案が起こったので、その後始末のためにやるべきことがたくさんあるのではありません。

そのようにとらえると、「ハラスメント事案の相談=仕事が増えてたいへん」という意識になり、この忙しいのに余計な仕事を増やしてしまったということで、行為者や、場合によっては被害者にもいい感情が持てなくなったりします。
担当者がそのように感じていると、ハラスメント相談窓口の周知がおざなりになったり、「寝た子を起こす」ハラスメント防止研修に消極的になったりしてしまい、ハラスメントを引き起こした社内風土もいっこうに変わらないということになります。

ハラスメント事案の調査の過程で、いままで目に見えなかった社内の問題点が喫緊の課題として浮かび上がってきているのです。
「よけいな仕事が増えた」ではなく、「取り組むべき本質的な課題が明確になった」と言うべきでしょう。

さて、ハラスメント事案後に対策が必要な「本質的な課題」は、多くの会社で共通しています。
3点にしぼって見ていきましょう。

1.コミュニケーションの課題

会議や面談や情報共有がなされていなかった。
または、きちんと行っていたはずなのに機能していなかった、という状況ですね。

「会議は毎週開催している」「気になることがあれば、上司が声をかけ、ひんぱんに面談している」、このような会社でも、内実を詳しく見てみると、ルーティンとして行っているだけで、目的意識が欠けてしまい、「会議や面談をやっていればOK」という安易な意識を管理職が持っていることがあります。

ハラスメント事案が起こってしまった部署は緊急に、その他の部署についても、社内コミュニケーションの方法や成果について、一度検証する必要があります。

2.管理職・リーダーの教育の課題

多くの中小企業では、管理職に対して、マネージャーとして、リーダーとしてどのように行動すればよいのか、という研修を行っていません。
そうすると、管理職は部下の指導にあたって、自分が育てられたときの方法をそのまま繰り返すことになります。
ほかにやり方を知らないのですから、これはいたしかたのないところです。

管理職が行為者だった場合、「管理職としての行動が適切に行われていなかった」と個人の問題にするのではなく、会社として管理職教育をどのように行っていたか、顧みるべきでしょう。

3.長時間労働の課題

ハラスメント事案には、多くの場合、長時間労働がからんでいます。

残業が多く、疲れから互いにいたわることができず、職場の雰囲気がギスギスしている。
眼の前の仕事に忙殺され、長期的な視点を持てない。
部下に教えて育てるより、「自分がやったほうが早いから」と、仕事ができる人に細かい業務まで集中してしまう。
こんな状況が多々見られます。

これも、ハラスメント当事者や、管理職の意識の問題ではありません。

業務の効率化、外注化、場合によっては新たな機器の導入等、設備投資を考えるべきです。

ハラスメント事案で浮き上がってきた課題について、人事労務担当者は経営層に進言し、社内の改革を進めていきましょう。
起こってしまったハラスメント事案を「やっかいごと」にするか、苦いけれども良薬にするかは、その後の担当者や経営者の行動次第です。