職場におけるハラスメントとは、通常、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、そして妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ・ケアハラ)の3つです。

なぜこの3つに限られているかというと、法律で事業主になんらかの対策を義務付けているのが、この3つだからです。

通常、就業規則は、法律で規制されているものについては規定していることが多く、たいていの会社の就業規則(ハラスメント防止規程)では、この3つが禁止されています。

しかし、マスコミやネット記事ではこの3種類以外にもいろいろなハラスメントが取り沙汰されていますね。
モラハラ、スメハラ、アルハラ、レイハラ、スモハラ、テクハラ等等等という感じです。
これらについては、職場では考えなくていいのでしょうか。

名前はついていなくても就業規則に入っているハラスメント

職場で、ハラスメントの被害を受けているという申告や苦情があると、まず事実を確認し、就業規則に該当する条文があるか、該当する場合は懲戒はどうするのか、判断することになります。

就業規則には、個別の内容の後に「その他一切」等、包括的な条文を置くことが多くあります。
ハラスメントについては、下記のような文言が入っていることが多いでしょう。

同じ職場で働く他の社員等に対して、職場環境を悪化させ、個⼈の⼈格や尊厳を侵害する⾔動や、⾁体的または精神的苦痛を与えるなどの⼈権を侵害する⼀切の⾏為

とくに名前はついていませんが、こういう条文があると、セクハラ・パワハラ・マタハラ等に当てはまらない行為で苦痛を受けたという訴えも、広く考慮されることになります。

とくにジェンダーハラスメントについては、雇用機会均等法での規制はないものの、多くの判例で不法行為とされており、当然、職場でのハラスメント該当性の判断にも影響してきます。

ジェンダーハラスメントとは、性別役割分担意識に基づいて相手を侮辱したり差別したりすることです。
具体例としては、次のようなものが当てはまります。

  • 男性は姓で呼ぶのに、女性を名(例「○子さん」「○○ちゃん」など)で呼ぶ
  • 女性を姓名でなく、「うちの女の子」「事務の女の子」等と呼ぶ
  • 服装・髪型・化粧などについての意見を頻繁に言う
  • 婚姻や出産や年齢により「女の子」「おくさん」「おばさん」「おかあさん」などと呼び方を変える
  • 女性だという理由から、お茶くみや雑用をさせる
  • 女性だという理由から、昇進の対象として考慮しなかったり、重要なプロジェクトのリーダーの役割をさせない
  • 女性だという理由から、適性や本人の希望も考慮せず、いわゆる男性の仕事とされていた職種につかせない
  • 「女のくせに」「この仕事は女性には無理」などの発言

就業規則でセクハラの一部として扱われていることも

また、セクシュアルハラスメントについての規定の中に、ジェンダーハラスメントが含まれていることもあります。

たとえば、人事院(国家公務員の人事を司る役所)では、セクハラの定義の中にある「性的な言動」について、次のように説明してます。

●性的な言動の内容

「性的な言動」とは、➀性的な関心や欲求に基づくものをいい、②性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、③性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動も含まれます。

www.jinji.go.jp/sekuhara/1homu.html(太字は引用者)

また、その具体例については、次のように書かれています。

  •  「男のくせに根性がない」、「女には仕事を任せられない」、「女性は職場の花でありさえすればいい」などと発言すること。
  • 「男の子、女の子」、「僕、坊や、お嬢さん」、「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
  • 女性であるというだけで職場でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。

多くの地方公共団体や、行政の外郭団体も、人事院の規定をもとに、就業規則等を作成しています。
また、一般の企業でも、このように、セクハラの中にジェンダーハラスメントを入れているところもあるようです。

ジェンダーハラスメントの判例

最高裁判例(海遊館事件)では、「ジェンダーハラスメント」という言い方はしていませんが、このような発言で懲戒されたことは正当であると認定されています。

「いくつになったん」「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」

「30歳は,二十二,三歳の子から見たら,おばさんやで」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」

「精算室にAさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな」

「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ」

「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん」

(平成27年2月26日/最高裁判所 第一小法廷/判決/平成26年(受)第1310号)

判決においては、上の発言はこのように評価されています。

同一部署内において勤務していた女性従業員らに対し、管理職らが職場において1年余にわたり繰り返した発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであった(太字は引用者)

他の判例を見ても、容姿を侮辱するような発言は、不法行為として評価されるのが一般的です。

「この程度のことで?」と思ったあなたに

同僚や部下の女性社員に対して、「女の子」「おばさん」という言い方は、いまでもよく聞かれるところです。

「自分もよく言っているけど、うちの女性たちはべつに嫌な顔もしないし、その程度のことでハラスメントだなんておおげさでは?」と思う方も多いのではないでしょうか。

しかし、表だって嫌な顔はしなくても、「言ってもしかたない人」「無神経な人」と思われている可能性は大です。

また、そのような環境で、女性社員は仕事に打ち込めるでしょうか。

ジェンダー・ハラスメントが、女性の就業意欲や心身の健康に及ぼす影響は小さくない。結婚、体型・容姿、服装等に関する発言や、「女のくせに」「この仕事は女性には無理」などの発言を受けた女性の16.81%が「仕事をやる気がなくなった」、7.56%が「自分に自信をなくした」と回答したという(佐野・宗方1999)。また、ジェンダー・ハラスメントを受けると、女性のストレスを高め、職務満足度を下げるとされている(Lim and Cortina, 2005)。

コラム:職場のジェンダー・ハラスメント/労働政策研究・研修機構(JILPT)

あなたが無意識に行っているジェンダーハラスメントが、女性社員の意欲に影響し、ひいては、生産性の減少や離職の増加につながっているかもしれません。

ジェンダーハラスメントという名称を知らなくても、職場の同僚や部下に対して、「大切な仲間であり、意欲をもって働いてほしい」という意識を持っていれば、ハラスメントに該当するような言動はなくなってくるはずです。

とくに管理職であれば、ジェンダーハラスメントをしないよう意識することが、自分がハラスメントの行為者(加害者)になってしまうことを防ぐだけでなく、自分の部署の営業成績にダイレクトに影響するということを頭に入れておきましょう。