外部相談窓口を担当していると、「私自身が受けているわけではないのですが」と切り出される相談に、一定数出会います。被害を受けている本人ではなく、その様子を近くで見ている同僚が、心配して相談してくるケースです。実際に、被害者本人ではなく周囲にいた同僚のほうが精神的に耐えられなくなり、退職に至った例も複数経験しています。目撃し続けること自体が、決して軽くない負荷になるのです。

ハラスメント対応というと、被害者本人からの申告を受けて調査に入る、という流れをイメージする人が多いのではないでしょうか。しかし実務では、本人が声を上げられないまま、周囲の同僚が先に会社に伝えてくることがあります。むしろこのルートを軽視すると、事案そのものが会社の目に触れないまま埋もれてしまいます。

この記事では、ハラスメント対応を専門とする社会保険労務士として、被害者本人ではなく同僚から相談があった場合、上司や人事労務担当者としてどのように受け止め、どう対応につなげればよいのかを解説します。

目撃者が抱える負担も見過ごせない

同僚からの相談というと、あくまで被害者本人の問題を伝えに来ているだけ、と捉えられがちですが、実際には相談者自身も相応の負担を抱えていることが多いものです。理不尽な言動を日々目にしながら、自分には止める権限もなく、かといって見過ごすこともできない、という板ばさみの状態が続くからです。

冒頭で触れたとおり、そうした状態に耐えきれず、被害を受けた本人よりも先に、周囲の同僚のほうが辞めてしまうという事例も一つや二つではありません。目撃者からの相談は、被害者のためだけでなく、相談者自身の心理的な負荷を軽くするという意味でも、真摯に受け止める必要があります。

目撃者からの相談で気をつけたいこと――伝聞ではなく本人の見聞きを聞く

同僚からの相談を受けるときにまず徹底すべきは、「伝聞」と「本人が直接見聞きしたこと」を区別することです。

「Aさんが〇〇と言っていました」という又聞きでは、事実関係を把握できません。誰が、いつ、どこで、何を見聞きしたのかを、相談してきた本人の一人称で聞き取ることが重要です。

たとえば「よく怒鳴られていると聞きました」という話と、「先週の会議で、上司が資料のミスを理由に、本人の人格を否定するような言葉を大声で浴びせているのを、直接見ました」という話とでは、調査における価値がまったく異なります。前者は伝聞であり、確認すべき対象を示すきっかけにはなっても、それ自体を事実として扱うことはできません。後者は目撃者本人の体験であり、独立した証言として調査に組み込むことができます。相談を受ける側は、この違いを意識しながら質問を重ね、相談者が実際に何を見聞きしたのかを丁寧に切り分けていく必要があります。

相談者が「被害者から受けた相談」を持ち込んだ場合の一線

同僚からの相談の中には、目撃した内容ではなく、被害を受けた本人から打ち明けられた話を持ち込むケースもあります。

このような場合、被害者本人が、その内容を会社に伝えてよいと明示的に許可したかどうか、必ず確認してください。

本人の許可がないまま、相談者を信頼して打ち明けた内容をそのまま会社に伝えてしまうと、重大なプライバシーの侵害になります。さらに、相談者の話だけを頼りに会社が動き出すと、被害者本人の意向を無視した介入になりかねません。結果として、本人が望まない形で事態が公になり、二次被害につながるおそれもあります。相談を受ける側は、「本人の許可がなければ、会社としてその内容を扱うことはできない」と、相談者にはっきり理解してもらう必要があります。

これは相談者の善意を否定するものではありません。むしろ、善意で動いてくれている相談者だからこそ、なぜ本人の許可が必要なのかを丁寧に説明し、納得してもらうことが大切です。

本人の頭越しに事が進めば、被害者本人と相談者の信頼関係が壊れてしまうこともあります。

相談者に対しては、「まずは本人に、会社に伝えてよいか確認してもらえますか」と伝え、そのうえで改めて相談に来てもらう、という一手間を惜しんではなりません。

そのうえで、通常の相談ルートに乗せる

本人の許可が得られた場合、あるいは目撃者自身が実際に見聞きした内容であった場合は、そこから先は通常のハラスメント相談と同じ流れになります。被害を受けたとされる本人を呼び出してヒアリングを行い、調査に進むかどうかの意思を本人に確認します。同僚からの相談は、あくまで事案を会社が把握するための入口であり、そこから先の手続きを特別なものにする必要はありません。

ここで注意したいのは、本人を呼び出す際の伝え方です。「同僚から相談があった」という事実をそのまま伝えると、誰が相談したのか本人に推測されてしまう場合があります。相談者の特定を避けたい場合は、「最近の職場の状況について確認したいことがある」といった形で切り出し、相談者の存在を前面に出さずにヒアリングを進める配慮が求められます。

「何もしなかった」が最多という現実

令和5年度に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、パワハラを受けた労働者のうち、その後の行動として「何もしなかった」と回答した人が36.9%と最も多くなっています。セクハラでは51.7%にのぼります。何もしなかった理由としては「何をしても解決にならないと思ったから」が突出して多くなっています。

つまり、被害者本人からの申告だけを待っていては、相当数のハラスメントが会社に届かないまま終わってしまいます。同僚が異変に気づき、会社に伝えるという行動は、被害者本人が声を上げられない状況を補う、重要な情報のルートなのです。

目撃者からの相談を「余計なお節介」にしない

会社の立場からすると、当事者ではない同僚からの相談は、扱いに迷う場面です。しかし、前述の調査結果が示すとおり、本人からの申告を待つだけでは、ハラスメントの多くは見過ごされてしまいます。同僚からの相談を正式な相談として受け止め、適切な手順で事実確認に進める体制を整えることこそが、ハラスメントを未然に、あるいは早期に発見するための現実的な手段です。

被害者本人からの申告を待つだけの体制は、統計が示すとおり、多くのハラスメントを取りこぼします。声を上げられずにいる本人の代わりに、周囲の同僚が最初の一歩を踏み出してくれることがあります。会社としては、その一歩を無下にせず、かつ本人の意思を飛び越えないという、二つのバランスを取りながら受け止める体制を、あらかじめ整えておきたいものです。