だれかに「だいじょうぶ?」と声をかけたことがある人は多いでしょう。
また、自分がそのように声をかけられた経験もあるはずです。
そのときに、なんと返事が返ってきたか、または、返事をしたでしょうか。
たいていは、反射的に「はい、だいじょうぶです」と答えたのではないでしょうか。
実際はかなり困った状態で、だいじょうぶではないにしても、こう聞かれて「いいえ、だいじょうぶではありません」とか、「実は、これこれで困ってまして」と返事できる人は少ないでしょう。
しかも、相手が上司となるとなおさらですね。
「だいじょうぶ?」と言われて否定できない理由
仕事中、多くの人は、「周りの人に見せたい自分の姿」を無意識に演じています。
たいていは、「有能で感じがよく、人を頼らずになんでも自分で解決できる人」というのが、その「見せたい姿」です。
心理学では、そのような「見せたい姿」を周りに見せることを「自己呈示」といいます。
「自己開示」と似ていますが、「自己開示」が自分の内面を素直に見せることであるのに対して、「自己呈示」は、必ずしも自分本来の姿ではなく、偽りや印象操作が含まれていることが多いものです。
といっても、意識的に嘘をついたり、自分をよく見せようとしているわけではなく、多くの場合、無意識に行っていて、ほとんど日常的に当たり前のようにやっていることなのです。
人に頼ったり、弱音を吐いたり、相談したり、というのは、多くの人にとっては、非日常のことですね。
しかも、だれにでも頼れるわけではありません。
上司は、本来困ったことがあるときに頼っていい相手なのですが、一方で、自分の評価をするのも上司です。
なかなか本音で話をするのが難しい場合が多いのです。
そういうわけで、たいていの人は、上司に「だいじょうぶ?」と聞かれると、「はい、だいじょうぶです!」と反射的に答えてしまいます。
上司の側からすると、このような心理的な側面を知っておき、「だいじょうぶです」という返事が、必ずしも言葉通りではないことを心得ておく必要があります。
あとから問題が大きくなり、「あのとき、『だいじょうぶです』と言ったじゃないか!」と相手を責めても意味がありません。
「だいじょうぶ?」のかわりに言うべきこと
「だいじょうぶ?」という声かけがまったく意味がないわけではなく、「あなたのことを心配していますよ」という気持ちは相手に伝わるでしょう。
でも、実際、だいじょうぶではないときに、そのことについて教えてくれたり、相談してくれたりすることは期待してはいけません。
では、なにか困ったことがあったときに、率直にそのことを話して、相談してほしいときは、どのように言えばいいのでしょうか。
「このプロジェクト/状況で、なにかひっかかっていることはありますか?」
具体的な内容について尋ねてください。
ふだんから部下の仕事の内容を把握していて、報告を受けていないと、このような具体的な聞き方はできません。
「ひっかかっている」ではなく、「悩んでいる」「思うように進んでいない」等の言い方でもいいですね。
「何か手助けすることはありますか?」
助けが必要かどうか、尋ねてください。
相手の悩みの具体的な状況がわかっていれば、「◯◯について、手伝える/アドバイスできると思うけど、どう?」というのもいいですね。
「最近、何か気にかかることはありましたか?」
もう少し、間口を広くした尋ね方です。
仕事以外のことで悩んでいる可能性も考えに入れた聞き方ですね。
「困りごとはあるにはあるんですが、プライベートなことなので…」と濁されることもあるでしょう。
そのような場合は、「無理に話してもらう必要はないけど、仕事以外のことでも、悩みの聞き役にはなれるから、いつでも話にきてください」と、相手に決定を委ねましょう。
「ちょっと元気がなく見えるんだけど、夜は眠れてますか/具合が悪いところがありますか?」
問題の内容ではなく、睡眠の状態や、体調を尋ねるのもよい方法です。
そこから、原因となる問題について話を聞こうとすると、相手も話しやすくなるでしょう。
このような質問は、部下が実際にどのような問題や困難に直面しているのかをより明確に把握するために役立ちます。
また、相手に安心感を与え、率直な答を引き出すこともできます。
口癖のように「だいじょうぶ?」と訊くのではなく、それぞれの場面に応じて具体的な声掛けを工夫することが重要です。