このところ、自治体や影響力のある大企業がカスハラに対する対策を発表したという報道が相次いでいます。
そのような動きでカスハラ防止の潮流が作られているのは、多くの働く人にとって歓迎すべきことでしょう。
しかし、現在の動きは、BtoC(企業対消費者)での迷惑顧客への対策が主になっています。
もちろんそれはカスハラの大切なポイントではあるのですが、ビジネスの世界全体を見ると、実は BtoB(企業間取引)においても、カスハラは多数発生しており、その対策は企業にとって重要な課題です。
本記事では、特にBtoB取引において自社の従業員が取引先にカスハラをしてしまった場合の対策について、管理職の立場から考察します。
BtoB におけるカスハラの特徴
カスハラとは、顧客による従業員への嫌がらせや過度な要求を指します。
BtoBにおけるカスハラは、取引関係や契約内容を盾に、不当な要求や圧力をかけるケースが多く見られます。
例えば、納期の無理な短縮要求、契約外の作業の強要、過度な値引き交渉などが挙げられます。
また、そのような立場の強さを背景に、関係先の従業員に対してセクハラ行為に及ぶということも起こっています。
このような行為は、ビジネス上の交渉の範疇を超え、相手企業の従業員の尊厳を傷つけ、心身の健康を害する可能性があります。
また、BtoB では BtoC よりもカスハラへの対策が困難となるような状況が多く見られます。
BtoB と比較してみましょう。
項目 | BtoB(企業間取引) | BtoC(企業対消費者取引) |
---|---|---|
関係性 | 長期的なビジネス関係が一般的で、契約に基づく取引が多い | 一回限りの取引が多く、個人の感情や気分に左右されやすい |
対応の難しさ | 取引先との関係維持が重要なため、対応が難しくなる場合がある | 個人客への対応は比較的柔軟に行える |
影響の範囲 | 取引先企業全体に影響が及ぶ可能性がある | 主に個人レベルでの影響にとどまる |
金銭的影響 | 大口取引が多いため、経済的影響が大きい可能性がある | 個人客の取引額は比較的小さいことが多い |
法的リスク | 契約違反などの法的リスクの可能性がある | 正当なクレームをカスハラと混同し、トラブルになる可能性がある |
管理職の責任と役割
管理職は、自社の従業員が取引先にカスハラを行うことを防ぎ、万が一発生した場合には適切に対処する重要な立場にあります。
具体的には、カスハラの予防、早期発見、迅速な対応、再発防止までの一連のプロセスを管理する責任があります。
予防は最も重要な対策です。
管理職は以下の点に注意を払い、自身の担当部門内でカスハラの芽を摘む努力をする必要があります。
まず、部下への適切な教育と指導が不可欠です。
人事部門や教育担当部署と連携し、ビジネスマナーや倫理観、コミュニケーションスキルの向上を目的とした研修の実施を提案・要請しましょう。
自部門内では、取引先との適切な距離感や、プロフェッショナルとしての振る舞いについて、具体例を挙げながら日常的に指導することが効果的です。
次に、職場環境の整備も重要です。
過度なストレスや過重労働は、従業員の判断力を鈍らせ、不適切な行動を引き起こす可能性があります。
上層部に適切な人員配置や業務改善の必要性を報告し、自部門内でのワークライフバランスの推進に努めましょう。
また、オープンなコミュニケーション環境を作ることも大切です。
部下が困難な状況に直面した際に、躊躇なく相談できる雰囲気づくりを心がけてください。
定期的な面談の実施や、全社的な匿名相談窓口の設置を人事部門に提案するなども効果的です。
カスハラ発生時の対応
万が一、自社の従業員がカスハラを行ってしまった場合、迅速かつ適切な対応が求められます。
以下の手順を参考に、冷静に対処しましょう。
まず、事実関係の把握が最優先です。
取引先からの申し立てを真摯に受け止め、詳細な状況を確認します。
同時に、当該従業員からも事情を聴取し、客観的な事実関係を整理します。
次に、取引先への対応です。
誠意を持って謝罪し、今後の対応について説明します。
具体的な再発防止策を提示し、信頼回復に努めることが重要です。
社内での対応も並行して行います。
当該従業員に対しては、行為の重大性を認識させ、必要に応じて処分を検討します。
ただし、一方的な責任追及ではなく、背景にある問題(過重労働、教育不足など)にも目を向け、組織として改善策を講じることが大切です。
再発防止と組織文化の醸成
カスハラ事案を単なる個人の問題として片付けるのではなく、組織全体の課題として捉えることが重要です。
管理職として、再発防止策の実施と長期的な組織文化の改革に向けて、積極的に提言し行動しましょう。
具体的には、カスハラ防止のための明確なガイドライン策定を人事部門や法務部門に提案し、その作成に協力します。
ガイドラインが策定された際は、自部門内での周知徹底に努めます。
また、定期的な研修や事例を基にしたディスカッションの実施を上層部に進言し、従業員の意識向上を図るための取り組みを支援します。
取引先との関係性の見直しも重要です。
営業部門や法務部門と連携し、契約内容の再確認やコミュニケーション方法の改善など、より健全なビジネス関係の構築に向けた提案を行いましょう。
管理職自身も、常に自己啓発に努め、リーダーシップスキルの向上を図ることが大切です。
部下の模範となるべく、高い倫理観と専門性を持って業務に当たり、必要に応じて社内外の研修への参加を上申することも検討しましょう。
まとめ:管理職に求められる姿勢
BtoB取引におけるカスハラ対策において、管理職の役割は極めて重要です。
自部門内での予防から対応、再発防止に向けた取り組みの推進、そして全社的な対策への積極的な提言が求められます。
最後に、管理職として心に留めておくべき点をまとめます。
過去には「お客様は神様」「顧客の要望は、自社の従業員を犠牲にしてもかなえる」というビジネスの考え方があり、それが身についてしまっている管理職も多数存在します。
そのような考え方を持っていると、逆に自分が相手のビジネスに影響力のある立場になったとき、「こちらが顧客なのだから、このくらいのことはいいだろう」「契約を取るためには、相手方は徹底的に努力すべきだ」と考えて、不当な行動をする可能性が高まります。
部下の行動を観察することはもちろんですが、まず自分自身がそのような考えに陥っていないか点検し、過去の商習慣に縛られず、現代にふさわしい倫理観を持ったビジネスパーソンとしてふるまうことが必要です。
そのような姿勢の上でこそ、部下がカスハラを行ってしまうという事態を防ぐことができるでしょう。