本田さんはさわやかなイケメンです。その上礼儀正しく親切なので、女性社員からの人気は絶大です。同期入社の豊田さんは、「本田ばっかりちやほやされて。女は顔しか見ていない。浅はかだよな」と内心おもしろくない気持ちです。

ある日、豊田さんが憎からず思っている女性社員の鈴木さんに対して、本田さんが話しながら軽くぽんぽんと肩に触れるのを見てしまいました。

豊田さんは、「オレが同じことしたら、鈴木さんは『セクハラしないでよ!』とにらみつけるに違いない。なぜ本田ならいいんだ・・・イケメン無罪かよ・・・」と落ち込んでしまいました。

豊田さんは気の毒といえば気の毒ですが、セクハラについての考え方が、かなりアブナイ感じです。

セクハラ(セクシュアルハラスメント)の定義は次のとおりです。

職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることです。

職場におけるセクシュアルハラスメント(pdf)

「意に反する」かどうかは、当然ながらセクシュアルハラスメントを受けた労働者の側の問題です。なにかについて、「許せる、許せない」と決めるのはその人本人で、他人がどうこう言うことはできません。この場合は、鈴木さんが、本田さんが自分の体に触れるのを許しているので、「意に反しない」、つまり、セクハラではないということになります。

鈴木さんが「許せる」と決めた理由は、本田さんがイケメンだからかもしれないし、日頃から本田さんと親しくしているからかもしれないし、そのとき励ましが必要で、だれかに肩をぽんぽんしてほしかったのかもしれないし、そもそも誰かに肩をぽんぽんされても別に気にならないだけかもしれません。

理由はどうでもいいのです。イケメンが理由でもいいのです。鈴木さんがどう決めたか、ということが重要です。

そして、豊田さんの想像どおり、豊田さんが鈴木さんの肩に軽く触れたら、鈴木さんが嫌な顔をして「セクハラはやめて」と言ったとします。

この場合は、鈴木さんが、自分が女性だから体に触られた(=性的な言動)と感じ、やめてほしい(=意に反する)ことで、会社で気軽に男性社員に触られるなんてぞっとする(=就業環境を害される)ということになるわけです。セクハラですね。

もちろん、1回肩に軽く触れてセクハラとして注意されたり懲戒される心配はほとんどありませんが、なにごとも程度問題です。励ましの意味だろうと、しょっちゅう気軽に体に触れていたら、セクハラ行為として問題にされてもおかしくありません。

豊田さんは鈴木さんのことが好きなのかもしれませんが、仕事中に性的な存在として扱われ、体に触れられることで、鈴木さんが感じる不快感については、なんとも思っていないようです。

また、本田さんに許すのなら自分にも許さないとおかしいと感じています。つまり、鈴木さんに、自分の体にだれが触れていいのか決める決定権があることを、ないがしろにしています。

こういう感覚を持っていると、セクハラ行為者(加害者)になる可能性が高いといえます。

豊田さんの想像はなかなかあたっているかもしれません。鈴木さんとそれほど親しくないのであれば、「セクハラだと言われるのがイヤだから体に触れない」という現在の方針をそのまま保っているのがよさそうですね。