近年、管理職への昇進を望まない社員が増えていることが、たびたび話題になっています。それは、複数の調査からも裏付けられています。

パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」によれば、現在の会社で管理職になりたいと回答した人の割合は、2021年の24.0%から2024年には17.2%まで低下しました。特に20代に限ると、2021年の36.4%から2024年には28.2%へと、わずか3年で大きく落ち込んでいます。

コーチングサービスを手がけるmento社が実施した「管理職や昇進に関する男女意識調査」(2025年)でも、管理職になりたい人は男性で42.0%、女性で27.8%にとどまっています。なりたくない理由として最も多く挙げられたのは「責任・プレッシャーが重い」で、男性では「昇進しても報酬が魅力的でない」が続きます。

これらの数字が示しているのは、管理職離れが一部の意欲の低い社員の問題ではなく、管理職というポジションそのものの魅力が構造的に失われているという事実です。

人手不足により若手が早期に管理職へ抜擢される一方で、管理職自身の業務量はすでに限界を超えており、「あんな働き方をしてまで昇進したくない」と感じさせる上司の姿を、部下は日々近くで見ています。管理職が「罰ゲーム」と呼ばれるようになった背景には、こうした身近なロールモデルの不在があります。

「名ばかり管理職」という割に合わない取引

管理職になりたくない理由の核心にあるのは、多くの場合「名ばかり管理職」の問題です。

労働基準法41条2号は、「監督若しくは管理の地位にある者」、いわゆる管理監督者について、労働時間・休憩・休日に関する規制の適用を除外しています。この規定に基づき、企業は課長・部長クラスの管理職を管理監督者として扱い、残業代の支払いを免れるケースが少なくありません。

現実には、管理職手当は数万円程度にとどまることが多く、残業代の対象から外れることによる実質的な減収を補いきれていないケースが目立ちます。それにもかかわらず、部下の労務管理や成果責任に加え、自身も実務をこなすプレイングマネージャーとしての業務量は増える一方です。その一方で、部下の人事評価権限や予算執行権限、そして何より自分自身の労働時間についての決定権といった、本来管理監督者に伴うはずの実質的な裁量はほとんど与えられていません。

負荷だけが重くのしかかり、それに見合う金銭的な補償も、裁量権という緩衝材も伴わない。これが「割に合わない」という感覚の正体であり、管理職を敬遠する若手の判断は、むしろ合理的な反応だと言えます。

もともと労働基準法は、戦後の工場労働を主な想定として組み立てられた法体系であり、管理監督者という概念も、現場の労働者を直接指揮監督し、経営者側と利害を一体化させた「工場長」のような存在をモデルにしています。工場長であれば、生産ラインの拘束から外れた裁量ある立場だという整理は比較的すっきり成立します。

これを部下の管理をしながら自らも資料作成や対外交渉といった実務をこなすホワイトカラーの課長・部長にそのまま当てはめようとすると、実態との間に無理が生じます。名ばかり管理職の問題は、この「モデルと実態のずれ」が現場で噴き出している姿だとも言えるでしょう。

本来の管理監督者の定義と判断のポイント

管理監督者に該当するかどうかについては、2008年の日本マクドナルド事件判決を契機に、行政解釈がかなり整理されてきました。厚生労働省が示す判断基準は、大きく次の3点に整理できます。

①職務内容、権限及び責任の重要性 経営者と一体的な立場にあり、労務管理を含む経営上の重要な職務と権限、責任を有しているかどうかです。単に部下がいる、役職名がついているというだけでは足りません。

②勤務態様 自分自身の出退勤について、実質的に自らの裁量で決定できるかどうかです。タイムカードで厳格に管理され、遅刻や早退について一般社員と同様に扱われているような場合は、この要件を満たしません。ここで注意したいのは、就業規則上は出退勤が自由とされていても、部下より先に帰りにくいといった職場の空気や同調圧力によって、事実上の拘束が生じているケースです。行政の判断基準は明文化されたルールの有無を見る傾向がありますが、実務上はこうした「見えない拘束」まで含めて実態を確認する必要があります。

③賃金等の待遇 基本給や役職手当などにおいて、その地位にふさわしい待遇がなされているかどうかです。時間単価に換算した際に、一般の労働者の賃金水準を下回っているような場合は、管理監督者としての実態を欠くと判断される要素になります。

これら3点を実質的に満たしているのは、実際には役員クラスや工場長クラスなど、ごく限られた層にとどまるのが実情です。課長クラスを一律に管理監督者として扱う運用は、行政の判断基準に照らせば無理があると言わざるを得ません。

企業は管理職の待遇をどう設計すべきか

以上を踏まえると、企業がまず取り組むべきは、自社の管理職が本当に管理監督者の要件を満たしているかどうかの棚卸しです。

職務内容・権限、勤務態様、賃金水準の3点から実態を確認し、要件を満たさない場合は、割増賃金の支払い対象とするか、裁量労働制など別の労働時間制度の適用を検討する必要があります。

要件を満たしている場合であっても、管理職手当が実質的な処遇として十分かどうかは、定期的に見直すべきです。あわせて、人事評価権限や予算権限、労働時間の自己管理権といった、管理監督者に本来伴うはずの裁量を、名目だけでなく実態として付与することが欠かせません。これがなければ、法的な扱いを是正したとしても、管理職という立場の魅力そのものは回復しません。

法令遵守は、あくまで最低限の土台にすぎません。企業経営の根幹は、人をどう扱うかにあります。管理職という立場にある人材が、責任に見合った権限と処遇のもとで納得して力を発揮できる仕組みをどう設計するか——そこにこそ、管理職離れという現象に向き合う企業の本当の課題があると考えます。

具体的には、次のような手順が一つの目安になります。

  1. 管理職の職務分掌を書面で洗い出し、人事評価・予算・採用といった意思決定にどこまで実質的に関与しているかを確認します。
  2. 出退勤や労働時間について、規程上だけでなく職場の実態として自由度があるかを、本人へのヒアリングも交えて点検します。
  3. 管理監督者としての要件を満たさないと判断される場合は、割増賃金の支払いに切り替えるか、あるいは業務の性質に応じて裁量労働制などの別の枠組みを検討します。
  4. 要件を満たす場合であっても、手当額や基本給が時間単価換算で一般社員を下回っていないか、定期的に検証することが欠かせません。

こうした点検と是正は、行政の監督や訴訟リスクを避けるための守りの施策としてではなく、管理職という役割そのものの魅力を取り戻すための投資として位置づけることが重要です。

管理職不足は、人材不足の問題ではありません。責任だけを負わせ、権限と処遇を与えない制度設計の問題です。管理職という役割を「割に合う仕事」へと作り直せる企業だけが、これからの人材を確保していくことになるでしょう。