妻の家事ハラ白書
旭化成ホームズの「妻の家事ハラ白書」画面キャプチャ。

「ハラスメント」という言葉の使い方

「セクシュアル・ハラスメント」「パワー・ハラスメント」を通して、「ハラスメント」という言葉は、すっかり一般的になりました。

いままで泣き寝入りしていた人たちに勇気を与え、職場のコミュニケーション対策を会社が考えるようになるなど、大きな効果があったことは確かです。

一方で「セクハラ」という言葉が、揶揄やポルノに使われたり、「パワハラ」という言葉で、とくに問題のない上司からの指導への不満を表したり、ということも、よく目にします。

言葉が多くの人の口にのぼるようになると、元の意味を離れていろいろな使い方をされるのは、ある程度しかたのないことではあります。しかし、だれでも知っている大企業のこのキャンペーンは、見過ごすことのできない、大きな問題をはらんでいます。

旭化成ホームズの誤用

このキャンペーンとは、ヘーベルハウスの旭化成ホームズがサイトで行っている「妻の家事ハラ白書」というものです。

上の写真はその画面キャプチャで、CMも制作されています。

旭化成ホームズ「共働き家族研究所」(※1)の設立25周年を機に、30代~40代の共働き・子育て夫婦を対象に「妻の家事ハラ」に対する実態調査(※2)を実施しました。
(中略)
「共働き家族研究所」では、この夫の家事協力に対する妻のダメ出し行為を、「妻の家事ハラ」と定義し、当事者へのアンケート調査によりその実態に迫りました。
(強調は引用者)
平成 26 年 7 月 14 日 旭化成ホームズ株式会社 ニュースリリース(pdf)

調査方法はインターネットによるアンケート調査で、対象者は、「全国 30 代~40 代、子育て中(末子 6 歳以下)、共働き夫婦(妻がフルタイム勤務)/1,371 名 」だそうです。

旭化成ホームズが「家事ハラ」と定義する「夫の家事協力に対する妻のダメ出し行為」とは、具体的には次のようなものです。

1 位は「やり方が(妻のルールや手順)と違う!と指摘を受けた(42.6%)」、2 位は「やり方が雑、ちゃんとしていない!と指摘を受けた(39.8%)」、3 位は「やり方が下手!と指摘を受けた(26.3%)」

要するに、夫が行った家事の内容について、妻が不足だと思っている点を指摘した、ということです。

これは、「ハラスメント」ではありません。まったくの誤用です。

それどころか、家事のやり方を指導されたことについて「文句付けられたからやる気がなくなった」という理由で、夫が家事をネグレクトしたら、そのほうが妻に対するハラスメントでしょう。

セクハラ、パワハラとの比較

夫がいやな思いをしているのだから、それはハラスメントではないのか? というご意見もあるようです。セクハラでは、受けた側が苦痛を感じたら、ハラスメントになる、ということからの類推でしょう。

セクハラは「性的な言動」によってひきおこされるものです。性的なことというのは、基本的に業務と関係なく、仕事の場で行う必然性のないものです。そのような合理性のない言動で、他人(多くは行為者より弱い立場にある女性)に苦痛を与えることが許されないのは、いうまでもありません。

しかし、家事というのは、共働き家庭では、夫・妻双方が担っていかなければならない「仕事」です。

家事の技術が高い側(多くは妻)が、家事に慣れていない側(多くは夫)に対して、「ダメ出し」をするのは、上司や先輩が、部下や後輩に行う指導に似た行為だと言えるでしょう。

もちろん、皮肉を言ったり、声を荒らげたり、ものに当たったりして、必要以上に相手を傷つける「ダメ出し」は、家庭の平和を乱すものでしょう。また、要求する家事の水準についても、議論の余地はあるかもしれません。

しかし、職場での指導や指示が、業務での合理性を持ったもので、相手の人格を否定したり、回数ややり方が常識はずれのものでない限り、受けた側が「つらい」「いやだ」と感じても、それはパワハラではありません。

同じように、妻が夫の家事の不備を指摘したとしても、指摘すること自体はハラスメントではなく、必要な行為です。

逆に言うと、夫の下手くそな家事で、妻は苦痛を受けている、ということになってしまいます。

「家事ハラ」という言葉の出所

「家事ハラ」という言葉は、わたしも今回初めて聞きましたが、少し検索してみると、このような本が出ており、そこから出た言葉のようです。

日本社会では、家事労働は無視され、時に蔑視され、これを担った人々は、十分に外で働けないため、経済力や発言力を奪われがちな状態が続いています。これが、「家事労働ハラスメント」です。

岩波新書 家事労働ハラスメント

ここで言われていることが「ハラスメント」にあたるかどうかはともかく、旭化成ホームズの定義とは、逆の方向性を持った言葉だということは間違いないでしょう。

子育て中の働く妻への攻撃

わたしも経験がありますが、就学前の子供を持ち、フルタイムで働く妻というのは、1日24時間では足りないくらい、毎日きりきりまいで働いています。自分の時間など皆無、という方が多いのではないでしょうか。

統計上からも、それは明らかに出ています。

総務省の「平成23年社会生活基本調査」によると、共働き家庭において1日当たり(月~日までの合計を7で割った)炊事、掃除、洗濯などの家事に費やす時間は、男性は子どもの有無に関わらず十数分であるのに対し、女性は子どもがいない場合は150分、子どもがいる場合は207分となっている。

共働き妻は夫の20倍家事を背負っている | 家事代行サービスはワーママを救えるか? | 日経DUAL

個別の事例については、確かに妻の心ない言い方に問題がある場合もあるでしょう。「妻の不用意なダメ出し」は、夫を不愉快にさせ、家事から遠ざけているのかもしれません。とはいっても、疲れていて心身に余裕がないと、気に入らないことを目にしたときに、おだやかに反応するのは難しいものです。

共働きの妻に重い家事負担がかかっている状態で、「夫の家事にダメ出しをする」というささいな行動を「家事ハラ」と仰々しく名づけて攻撃することが、ほんとうに「家の中でも協力し合える『共働き家族』」を作るために必要なことなのでしょうか。

わたしには「ハラスメント」という言葉を使って、立場の弱い側を叩く、卑劣な行為にしか見えません。

ハラスメントへの無理解、子育て中の働く妻への攻撃、どちらも、住宅メーカーとしてはあってはならないことです。強い怒りを感じます。

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