ハラスメント相談の現場を見ていると、「典型的な行為者(加害者)像」にはいくつかの共通点があります。特別に攻撃的な人だけでなく、「仕事熱心」「口は悪いけど面倒見がいい」と評価されている人の中にも、その芽が潜んでいることが少なくありません。

ここでは、ハラスメント対応の専門家としていままで多く接してきた事例の中から、パワハラ行為者に多い思考や行動パターンを整理します。誰かを断罪するためではなく、周囲も自分も「要注意サイン」に気づきやすくするための視点をお伝えします。

パワハラ行為者に共通する思考パターン

パワハラ行為者の思考パターンには、以下のような特徴があります。

自分が常に正しい

自分の価値観や考え方を絶対視し、他者の意見や感情を軽視する傾向があります。
例えば、会議で部下が提案をしても、「いや、それは違う。これが正解だから」と一言で切り捨て、「ほかに意見ある人?」と確認もしない上司がいます。
一見「決断が早い上司」に見えますが、部下からすると「どうせ何を言っても決まっている」と感じ、発言を控えるようになっていきます。

傷つくのは相手が悪い

自分の行為を正当化するために、「これは指導の一環だ」「あれくらい言わないと伝わらない」といった歪んだ認識を持つことがあります。
例えば、人前で部下に対して「なんでこんな簡単なこともできないの?」「新人以下だよ」と繰り返し言い続ける上司が、「あれくらい言わないと彼は変わらないから」と話すケースです。

「そんなことで傷つくなんて、今どきの若い子はメンタル弱すぎるよ」と言う上司も、このパターンに当たります。
基準が「自分なら平気」になっているため、相手の感じ方とのズレに気づきにくくなります。

厚生労働省が令和5年度に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」でも、パワーハラスメントの相談は依然として最も多いハラスメントとして報告されています。現場のヒアリングや事例集を見ると、行為者は自らの行為を「業務上必要な指導だった」と捉える一方、受け手は「精神的な攻撃」と受け止めている認識ギャップが根強いことがうかがえます。

自分の怒りは良い怒り

怒りや不満を抑えられず、感情的な言動に走る一方で、自分の感情的な行動を「よかれと思って」「熱心さの裏返し」と正当化する傾向があります。
例えば、部下がミスをした際に、「何回同じこと言わせるんだ!」「やる気あるの?」と声を荒げ、机を叩いたり、ため息を何度もついたりする場面です。
その後で「君のためを思って厳しくしてんだよ」と締めくくることで、本人の中では「いい上司」を維持しようとすることも少なくありません。

このような行動は、部下を萎縮させるだけでなく、「ミスを報告すると怒られる」という学習を生み、結果として報告や相談の遅れ、隠ぺいにつながります。職場の心理的安全性が下がると、ヒューマンエラーや不正の発見が遅れるリスクが高まります。

コミュニケーションの一方通行性とその影響

パワハラ行為者の多くは、コミュニケーションを「発信すること」に重点を置き、相手の受け止め方や反応には無関心です。この一方通行的なコミュニケーションは、職場で以下のような問題を引き起こします。

ひどい発言でも意図がよければOK

行為者は、自分の言葉や行動が相手にどのような影響を与えるかを考えません。
そのため、相手が傷ついたり不快に感じたりしても、「そんなつもりはなかった」「冗談のつもりだった」と言い逃れることが多いのです。

例えば、上司が部下に対して「君さ、うちの部署の足引っ張ってる自覚ある?」「あいつに任せるとトラブルになるって有名だよ」と、周囲の前で笑いながら言う場面があります。
部下は深く傷つき、「ここにいてはいけないのではないか」とまで追い込まれることがありますが、上司は「場を和ませようとして、ちょっといじっただけ」と説明したりします。

自分が気に入らない反応には攻撃

相手からのフィードバックや反応をぞんざいに扱い、真摯に受け止める姿勢が欠けています。
これにより、被害者は「話しても無駄だ」と感じ、問題が表面化しにくくなる傾向があります。

例えば、部下が勇気を出して「先日の言い方は少しきつく感じました」と伝えたときに、上司が「それくらいでキツイとか言ってたら社会でやっていけないよ」「じゃあ次からは全部メールで淡々と連絡すればいい?」と、半ば皮肉交じりに返すケースです。
こうしたやり取りを一度経験すると、部下は「次はもう何も言うまい」と沈黙を選ぶようになります。

感情を切り捨てる一方で感情的になる矛盾

パワハラ行為者は、職場における感情の扱い方において矛盾した態度を示すことが少なくありません。

部下の感情やプライベートの事情は無視

「仕事に感情を持ち込むべきではない」「いちいち感情の話をされても困る」という考え方から、部下や同僚の「つらい」「悲しい」といった感情を切り捨てる傾向があります。
例えば、部下が「家族の介護で少し疲れが出ていて…」と相談したときに、「プライベートの事情を職場に持ち込まないで」「体調管理も仕事のうちでしょ」と一刀両断する上司がいます。

このような態度は、被害者にさらなる孤立感を与え、職場の心理的安全性を損ないます。

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」でも、ハラスメントを経験した人の職場では「上司と部下のコミュニケーションが少ない」「相談しにくい雰囲気がある」といった特徴が高いことが示されています。

感情の起伏が激しく相手によって態度が変わる

一方で、自分の感情には甘く、不機嫌や怒りを周囲に撒き散らすことがあります。
とくに「相手によって態度が変わる」ケースは、パワハラ申告の“あるある”です。

例えば、役員がいる会議では終始ニコニコし、「いやぁ、いつも助けてもらってます」と部下を持ち上げるのに、役員が退出した瞬間に表情が一変し、「さっきの説明、ひどかったな」「恥かかせるなよ」と責め立てる上司。
あるいは、気に入った部下には「大丈夫?無理してない?」と気遣う一方で、苦手意識を持っている部下には、あいさつを返さない、メールの返信を後回しにする、目を合わせない、話しかけられても「あとで」とだけ言って放置する、といった態度の違いが現れる場合です。

こうした行動が続くと、職場全体が「今日は機嫌がいいか悪いか」「誰がターゲットになっているか」を常に探るようになります。
「仕事の中身」ではなく「上司の機嫌や好み」が行動基準になってしまうと、組織としての健全性が大きく損なわれます。

自己点検の重要性

ここまで挙げた特徴は、特別な人に限ったものではありません。
程度の差はあっても、多くの人が持ちうる傾向です。だからこそ、「あの人の問題」と切り分けるだけでは再発防止にはつながりません。

実務的には、次のような視点での自己点検が有効です。

相手の立場や感情を尊重する

「正しいかどうか」だけでなく、「どう受け取られるか」を意識することが重要です。
例えば面談の場で、指導の最後に「さっきの話、どう感じましたか?」「不安なところがあったら言ってくださいね」と一言確認するだけでも、認識のズレは見えやすくなります。

コミュニケーションの双方向性を意識する

一方的に指示や意見を伝えるのではなく、部下の反応や意見を積極的に引き出すことを心がけましょう。
会議の際に「何か意見ある人?」とざっくり聞くのではなく、「反対意見や別のやり方の案はありますか?」「心配に思っている点があれば教えてください」と、具体的な問いを投げかけることで、発言のハードルが下がります。

感情のコントロールを徹底する

自分の感情を適切にコントロールし、不機嫌や怒りを部下にぶつけないように注意することが大切です。
感情を押し殺すのではなく、「今、イライラしているから、少し時間をおいてから話そう」「一度深呼吸してから伝えよう」と、いまの自分の気持ちや状態を客観的に見直す習慣が有効です。

自己点検を習慣化する

日々の指導やコミュニケーションの中で、自分の言動が相手にどのような影響を与えているかを振り返る習慣を持つことが、パワハラの予防につながります。
例えば、指導後に部下の表情やその後の言動を観察し、「次も相談したいという雰囲気か」「以前よりも報告が減っていないか」をチェックし、「自分の言い方は適切だったか」を考えることで、次回に生かすことができます。

部下の感情への配慮は上司としてのマネジメント力

パワハラは、重大なトラブルとして顕在化したときにはすでに組織に深い影響を及ぼしています。
その手前の「なんとなく怖い」「あの人の前だと皆、口数が減る」といった違和感の段階で気づけるかどうかが、予防の分岐点になります。
行為者の特徴を知ることは、誰かを断罪するためではなく、その違和感に名前を与え、早期に修正できるようにするためのものです。

ここまで読んで、「こんなに部下に気を使わなくてはならないのか」「忙しいのに、いちいちそんなこと考えていられない」と感じた方は、業務は人間が行うこと、その人間が気持ちよく動くための当然の心遣いが上司としてのマネジメント力だと考えみてください。どんなに忙しくても、ここは効率化してはいけないところなのです。その視点で、もう一度、業務指示の中の優先順位を考えてみましょう。