社労士としては15年のキャリアがあります、といばっているわたしですが、講師としては、実はまだそれほど年数がたっているわけではありません。
正直いって、人前で話すのはとても苦手でした。
いまでは、日常的に行っていますので、苦手意識はさすがにありませんが、滑舌よく、すらすらと話すというタイプではありません。努力はしていますが、「あのー」も多いし、かんでしまうこともしょっちゅうです。
そんなわたしが、講師として人前で話すためにやってきたことを、きょうは少しご紹介してみましょう。
まずは原稿を作る
セミナーや講演のご依頼があると、まずすることはなんでしょうか?
レジュメやパワーポイントのスライドなど、資料を作るという方が多いかと思います。
わたしは、原稿作りから入ります。一言一句、そのまま話すつもりで原稿を書くのです。最初の頃は、2時間だろうと3時間だろうと、全部原稿を書いていました。自己紹介や、雑談も全部書きました。
いまはさすがに全部は書きませんが、新しい内容を入れるときは、その部分だけ書いています。
その原稿は、当日読むためのものではありません。本番には持っていきますが、いままで、読んだことはいちどもありません。
では、なぜわざわざそんな手間のかかることをするかというと、自分の話の展開にムリなところ、不自然なところがないか、説得力があるか、分量のバランスはどうか、などを点検するためです。
これは、わたし自身がどちらかというと視覚からはいる情報がわかりやすいタイプなので、話を聞くより、文章を見るほうが内容をつかみやすい、ということもあるかもしれません。
また、原稿になっていれば、字数を見ればよいので、時間配分も簡単に組み立てられます。
もうひとつ、万一あがってしまって話す内容をすべて忘れても、原稿を見れば書いてあるので、安心して本番に臨むことができます。お守り代わりですね。
先ほど書いたように、まだ一度もその手を使ったことはありませんが、はじめのころは、落ち着いて話すために、これがずいぶん役に立ったと思います。つまり、万全の体制をとっていれば、あがることもあまりなくなるのです。
もちろん、慣れなかったころも、いまでも緊張はしますが、原稿というお守りが手元にあれば、舞い上がってしまってなにがなんだかわからなくなるということはありません。
一般のかたがプレゼンをするときには、時間的には20分、30分程度のことが多いでしょうから、原稿を書くというのは、現実的な対策ではないでしょうか。
リハーサルは録音・録画する
原稿もできた。当日映写するスライドなどの資料もできた。
さあ、これで人前でもだいじょうぶかというと、そうはいきません。
リハーサルをする必要があります。
原稿はいったん置いておいて、読むのではなく、本番と同じようにスライド(実際はパソコンのディスプレイですが)を見ながら、話してみます。
そして、それは必ず録音して、聞きながら原稿とつきあわせ、不自然なところ、耳から入ってわかりにくいところはないか、内容をもう一度調整します。いえ、一度ではすまず、二度、三度と行います。
ここまでやれば、内容は完全に頭に入ります。
できれば、三脚をたてて、ビデオ録画し、それを点検すればいちばんいいですね。
ただし、これはかなりつらいです。自分が話すところを見て、そのたどたどしさ、声のこもっていること、目が泳いでいることに絶望します。
でも、これはわたしの場合だけかもしれませんが、本番のときに録音したり録画したりして、その内容を見ると、けっこうほっとするものです。カメラに向かって話すのはとても話しづらく、目の前に人がいて反応してくれる方が話しやすいので、リハーサルのときよりは、本番の方がたいていましになっているからです。
機器の準備も万全に
さて、当日です。
わたしの場合は、自分のノートパソコンを持ち込んでそのデータを映写することが多いのですが、パワポのファイルは、パソコンのデスクトップと、ハードディスクの別の場所、そして、USB メモリにもデータをコピーして持参します。
そして、参加者の方に資料としてお渡しするのは、パワーポイントのデータをプリントアウトしたものです。資料に入れないものを映写するのは、最小限にしています。
これは、人によってやり方はいろいろだと思いますが、わたしがこのようにしているのは、なんらかの機器の故障があったときも、参加者の手元にプリントアウトがあれば、説明には支障がないからです。
延長コードも持参します。わたしのノートパソコンは、3時間くらいであれば余裕でバッテリーがもちますが、やはり電源につないだほうが安心です。コンセントが遠くて届かない、ということもときどきあります。ただ、慣れている主催者の方や、社内研修の場合は延長コードの準備があることも多いので、実際に使うことはあまりありませんが。
もうひとつ、持参するのはホワイトボード用のマーカーです。貸会場などでは、マーカーがかすれて出ない、ということもたびたびあるからです。
あとは、腕時計は必須、タイマーとICレコーダー、電池もいつも持っています。
ここまでやれば、自信を持って人前で話せます。気持ちに余裕があれば、会場の雰囲気や、参加者の表情を見て、内容を多少アレンジすることもできます。
合言葉は「念には念を」ですね。
得意分野でなくてもだいじょうぶ
だれにでも、得意不得意があります。
これはちょっと苦手、わたしにはムリ、と思っているものも、当然ひとそれぞれあるでしょう。
ただ、仕事でどうしてもやらなければならないこともあります。
そんなとき、自分の弱点が最初からわかっていれば、それに合った対策を立てればよいのです。
苦手と思っていたことでも、しっかり準備をすることによって、かえって、なにも考えずにすらすらできる人よりも、いい結果を出せるかもしれませんよ。