少し前に、Twitter でたいへん話題になったツイートです。
この回答は、相談者に必要な情報を与えており、そんなに問題視するものではない、という意見も見かけました。
しかし、わたしはそうは思いません。
すでに、父親に体に触らないように頼み、母親から注意しても、まったく効果がない。
そうはっきり書いてあるのに、「まず家族で話し合ったら」という回答はひどいものだと思います。

なぜひどいのか。
それは、父親と、中学生の子供の間の力の差を、まったく無視しているからです。
力の強い側が暴力を使っているときに、力の弱い側は抵抗することができません。
ですから、児童相談所等の公的機関の介入が必要なのです。
その前にまず話し合え、というのは、強い側が有利になるよう計らっていることになります。

また、父親の気持ちに配慮せよ、というのも、同じ意味で問題です。
相手の気持ちを考えるべきなのは、家庭内で権力を持っている父親です。
中学生の子供にそれを期待するのは、お門違いというものです。
また、弱い立場の者が嫌がっているのを知りながら、無理やり体を触るというのは、性暴力です。
どんなに朝から晩まで働いていようと、ストレスが溜まっていようと、免責する理由にはまったくなりません。

当事務所では、職場でセクハラの相談を受ける担当者を対象に研修を行っています。
セクハラの相談を受けた場合に、注意すべきことはいろいろありますが、とくに次のようなことは決してしないようにお伝えしています。
「◯◯するな」という形の注意はあまり好きではないのですが、大きな被害を相手に与えないためには、やはりこういう言い方にならざるを得ません。

相談に来た人に二次被害を与えてはいけないのはもちろんですが、会社の担当者がこのような態度で被害者を傷つけた場合、民事訴訟などで会社と担当者双方が不法行為認定されることもあります。
リスク管理の面からも、相談担当者への教育は重要です。

相談者を疑わない、責めない

相談を受ける担当者は、相談に来ている人がほんとうのことを言っているかどうか、判定するのが仕事ではありません。
まず必要なのは、相手との信頼関係です。
自分のことを疑ってかかっている人との間に信頼関係は成り立ちません。
相談に来た人にとって、話していることは真実なのだという前提で話を聞く必要があります。

また、ハラスメントの被害を受けると「自分にも悪いところがあるのではないか?」という気持ちから、なかなか解決のために動き出すことができない、というのはよく見られることです。
相談に来た人は、すでに心のなかで自分自身を十分責めています。
さらに相手に痛手を与える必要はありません。

行為者をかばわない

相談を受けた段階では、ほんとうに加害者かどうかわからないので、「行為者」という言い方をします。
相談を受ける人が、行為者と立場や年齢、職階が近かったり、個人的に親交があったりする場合、つい、行為者をかばってしまうことがあります。
自分を苦しめる相手の立場に立っている人を、どうして信頼できるでしょうか。
しかも、このような言葉は、相談に来た人をさらに傷つけます。
行為者が間違った行為をしていない、ということは、すなわち、相談者が間違っている、ということになります。
相手を責めているのと同じことです。

自分の興味本位で質問しない

セクハラの場合は、自分には責任がないのに、被害を受けたこと自体を恥と感じる心理に陥りがちです。
相談に来た人は、通常なら恥ずかしくて言いたくないことを、無理して話をしている場合がよくあります。
そのような相手の心情に配慮することが必要です。
事実関係の質問は、時系列をはっきりさせる、状況をはっきりさせる、など、その必要性を意識しながら行って下さい。
また、質問自体が相手を傷つけそうなときは、相手のつらい心情は理解しているが、必要があるから聞いている、と話しておくことも、打撃を弱める効果があります。

職場でハラスメントの相談を受けるのは、だれもがいやな思いをせずに、しっかり仕事に取り組めるようにするためです。
そして、弱い立場の人が、いつも我慢を強いられないよう、懲戒権や人事権を持った強い者(会社)が介入するために必要なことです。
その点を頭において、相談を受けることが、すべての基本です。