会社や団体などからご依頼を受けてカウンセリングをすると、同僚、上司部下など、職場で接している方たちの双方から話を聞くことがあります。
お互いに相手の悪口を言っている、なんてのは、実はそんなに珍しいことではありません。
もちろん、カウンセラーとしては、目の前にいるクライエント以外の人の話を聞いているなどはおくびにも出さず、現在のクライエントに集中して、共感しつつ話を聞くわけです。
人物の評価として、互いに「あいつはひどいやつだ」と思っているのは、十分両立する話で、とくにどちらかがウソを言っているわけではないのですが、ひとつの事実について語っているのに、まるで別の話のように食い違ってしまう、ということもあります。
ハラスメントの被害者(その時点では、ほんとに被害者かどうかはまだわからないが、被害を受けていると思っている人。以下同文)が会社の相談窓口に相談し、会社としては、調査をしなくてはならないのだが、適当な人材が社内にいないので、当事務所にご依頼いただいたとき、よくそのような事例にぶつかります。
被害者、加害者(と言われている人。まだほんとに加害者かどうかはわかりません。以下同文)双方に話を聞くと、芥川龍之介の『藪の中』ばりの話というのは、ふつうに転がっているのだなぁ、とよくわかります。
ある「被害者」から見れば、「いつも無理難題を押し付け、質問したくても不機嫌な顔で取り付く島もない。ミスでもしようものなら、ねちねちいつまでも叱りつける」という「加害者」が、本人に言わせると「仕事を与えてもメモも取らず、期限になってもできあがらない。どうしたのか聞くと、わけのわからない弁解ばかりし、人のせいにする」(←被害者のこと)部下に悩んでいる上司になるわけです。
この程度のすれ違いはざらですが、さらに自分の立場をよくしようとどちらか、もしくは両方がウソをついていたり、事実ではないことを事実だと思いこんでいたりすると、話はもっと複雑怪奇になります。
もちろん、会社には捜査機関のような権限はありませんので、調査といっても双方の話を聞いて、どちらの話がより確からしいのか判断するということになります。実際のところ、真相はわかりません。
とはいっても、小説家でも役者でもないふつうの人間がウソを並べても、たいがいどこかで整合性がとれなくなるので、経験のある専門家にはバレてしまうと思っておいたほうがよいでしょう。人間の考える言い訳なんて、それほど独創性がないものです。