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2023年4月より、中小企業にも労働基準法の変更が適用され、月に60時間を超える残業は、時間外割増率が50%になりました。
そろそろ4月分の給与計算をするころですが、対応はお済みでしょうか。

さて、手当の変更があった場合は、健康保険/厚生年金保険の随時改定(月額変更届)の可能性がありますね。
今回の場合は、該当するでしょうか。

時間外手当は「非固定的賃金」だから該当しないんじゃない? と、随時改定の条件を知っている人ほど間違えやすいので、くわしく解説しましょう。

また、非固定的賃金か固定的賃金か、ということの他にも、変動月についても、通常考えるのとは、少し異なった取り扱いになります。

随時改定(月額変更届)の条件

協会けんぽ等の健康保険に加入している人の給与が、大幅に変わったときは、定時決定を待たずに標準報酬月額を改定します。
これを随時改定といいます。

次の3つの条件を全て満たす場合、随時改定を行います。

  1. 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
  2. 変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
  3. 3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。

基本給や手当の額が増減した、手当が新設されたり廃止されたとき以外にも、手当が「単価✕乗率」で計算されている場合、「単価」や「乗率」が変更した場合にも、「固定的賃金に変動があった」と考えます。
この場合は、時間外手当の割増率が変更したので「乗率」の変更になり、上の1の条件に該当することになります。

変動月の考え方

このように、手当が新設されたり、条件が変更になった場合は、起算月をいつにするか、という点で、少し特殊な取り扱いがあるので、注意が必要です。

もし、4月に60時間を超える残業があったとしたら、起算月は4月ということで、すんなり理解できます。
そうではなくて、5月、または6月に、初めて60時間を超える残業があった場合には、割増率50%で支給された最初の月が変動月になりそうな感じがしますよね。

しかし、そうではなくて、5月もしくは6月に初めて残業が60時間を超えた場合も、「手当の乗率に変更があった月=4月」が変動月になるのです。

つまり、随時改定の1の条件には、4月5月6月の3ヶ月間に1ヶ月でも60時間超の残業をした人が該当します。

2,3の条件にもあてはまれば、その人については、月額変更届を提出し、7月から健康保険料/厚生年金保険料が変更になります。

問7-2 非固定的賃金が新設された月に、非固定的賃金が支払われる条件が達成されなかったために初回の支払が0円となったが、次月以降は実際に支払いが生じたような場合、起算月の取扱いはどのようになるか。

新たに非固定的賃金の新設がなされたことによる賃金体系の変更を随時改定の契機とする際は、その非固定的賃金の支払の有無に係わらず、非固定的賃金が新設された月を起算月とし、以後の継続した3か月間のいずれかの月において、当該非固定的賃金の支給実績が生じていれば、随時改定対象となる。

標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集

ここでは、「非固定的賃金の新設」とありますが、今回のように「賃金(手当)の条件が変更になった」場合も、これと同じになります。

7月以降に、初めて60時間超の残業をした場合は?

さて、今回随時改定に該当するのは、4月5月6月の3ヶ月間に、初めて60時間超の残業をした人ですよね。
では、7月以降に、初めて60時間超の残業をした場合はどうなるのでしょうか。

非固定的賃金の新設以後の継続した3か月間に受けた報酬のいずれにも当該非固定的賃金の支給実績が生じていなければ、報酬の変動要因としてみなすことができないため、随時改定の対象とはならない。また、その場合には当該非固定的賃金の支給実績が生じた月を起算月とすることにもならない。

標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集

上の引用は、前項で引用した「7-2」の続きです。

つまり、初めて50%の割増率で時間外手当を支給した月が7月以降であれば、他の条件が該当したとしても、随時改定の対象になりません。
届出も標準報酬の改定もないので、給与から控除する健康保険料/厚生年金保険料の変更もないことになります。

4月5月6月の3ヶ月は長時間の残業に注意

定時決定(算定基礎届)の基礎となる月、つまり、計算に使う月は、4月5月6月の3ヶ月ですね。
この3ヶ月間に残業が多いと、7月以降は残業が少なくても、9月からの保険料が大幅アップということになりかねません。
ですから、ふだんの年でも、この3ヶ月間の残業がそれ以外の月よりも多くならないよう、注意が必要です。

とはいっても、忙しい時期が春先に集中している業種では、なかなか難しいですね。
年間平均で標準報酬を算定することもできますが、申立書を作成したり、従業員の同意を取ったり、新たな事務処理が発生します。

ことしは、特に上に書いた事情があるため、長時間の時間外労働にならないよう、働き方を工夫しましょう。