多くの人が締切をいくつも抱えて仕事をしています。
わたしも、もちろんそのひとりです。
研修や講演のご依頼が入るのは、本番の2ヶ月か3ヶ月前です。
受講者のみなさんの前でお話する数時間は、実は仕事の最後の仕上げで、ご依頼が入ってから当日までの間、ひとりで行う作業が仕事の大半です。
その間にやることはたくさんあり、しかも、個人事業主ですので、わたしを監督する人はだれもいません。
ちょっと自慢たらしくなりますが、資料提出の締切を違えたことは一度もなく、締切前に必死で長時間デスクに向かって仕事を片付けることもめったにありません。
たいていは、締切日の前日までには完成しています。
といっても、最初からそんなふうにできたわけではなく、過去には焦りで泣きそうになりながら、夜遅くまでかかって仕事を仕上げる、ということも何度もありました。
もっと昔の話をすると、学生時代は、夏休みの宿題は最後の1日に徹夜して片付けるタイプでした。
計画表も先生に作りなさいと言われるからやっているだけで、書いたはじから忘れてしまい、そもそも計画どおりにやろうという気持ちもありませんでした。
社会人になってからも、仕事の締切がわかっていながら、ぎりぎりまで先延ばしをし、間際になってあわてて取り掛かるのが、いつものことでした。
えー、わたしといっしょじゃん、でも、こういうのは性格だから治らないよね、と思ったあなた。
先延ばしグセは、性格ではありません。
たんなる悪い習慣です。
工夫次第で治すことができます。
先延ばしグセはなぜよくないか
先延ばししても、締切はちゃんと守ってるんだからいいでしょ、と思っていませんか?
実はそういうわけではないのです。
先延ばしグセには、こんなデメリットがあります。
品質の低下
締切ぎりぎりに仕事を片付けようとすると、最後は「えいや! これでいいや」になりがちですよね。
十分な時間をかけて取り組むことも、しっかり見直すこともできないので、不十分な内容のまま提出したり、ミスがあとから見つかったりします。
周囲を心配させ信用をなくす
いつもぎりぎりで、焦って仕事を片付けているあなたを、周りの人はよく見ています。
「だいじょうぶかな?」と心配してくれているうちはいいのですが、「またか。これではだいじな仕事は任せられない」と内心思われているかもしれません。
メンタルへの悪影響
先延ばしはしていても、忘れているわけではないので、いつも心のどこかに「ほっておいてだいじょうぶかな?」という気持ちがひっかかっています。
そして、いざぎりぎりになって取り掛かると、今度は締切までに仕上げなくてはならないというプレッシャーで、気持ちが焦ります。
他の人から「あれ、どうなってる?」「できてる?」と聞かれたり催促されるのも、ストレスになりますね。
なんとか締切には間に合ったものの、「またやっちゃった~。自分はダメなやつだ」という気持ちに襲われたりします。
これらのストレスはすべて、先延ばしグセがなければないはずのものです。
また、最後は長時間の作業になるので、身体的にも大きな負担がかかり、肩こりや腰痛になったり、なにもいいことはありません。
体に慢性の痛みを抱えることも、メンタルヘルスに大きな悪影響があります。
先延ばしグセをなくす5つの方法
では、こんな状態から抜け出すにはどうしたらいいのでしょうか。
5つの方法をご紹介しますが、強い意志は必要なく、ちょっとした工夫でだれでもできることばかりです。
まずは、ひとつでもふたつでも、やってみましょう。
方法1 まず10分でいいのでとりかかる
とくに、やったことのない仕事や、苦手意識を持っている仕事の場合は、とりかかるということに抵抗を感じ、ずるずる先延ばしになりがちです。
そんなときは、「まず10分やってみる」と時間を決めて、とりかかってみましょう。
10分やって、そこでやめていいのです。
まずは取り掛かってみると、だいたいどのくらいの難易度なのか、時間はどのくらいかかりそうか、ざっと見積もることができます。
また、必要な資料が足りないことに気づくこともあり、間際になって「あれが足りない! これが足りない!」という事態に陥るのを防ぐこともできます。
最もだいじなことは、「まだ取り掛かっていない仕事=未知のもの」が「取り掛かった仕事=既知のもの」になるということです。
これで精神的な抵抗はぐっと減ります。
方法2 締切を前倒しする
実際の締切の数日前に、自分独自の締切を設定しましょう。
時計の針を早めるようなもので、自分で「この時計は実際の時間より早い」とわかっているので無意味だと思うかもしれません。
やってみるとそうでもなく、自分で決めた締切だけを覚えておいて、ほんとうの締切は忘れてしまうことができます。
わたしの場合は、締切がたくさんあるのて、いちいちどれが何日、と覚えていられません。
Google カレンダーや、タスク管理アプリに入力したものが頼りです。
自分で決めて前倒しした締切だけを入力し、ほんとうの締切はメールやチャットワークを探せば出てきますが、探さないとわからない状態になっています。
通常は、自分の締切だけ意識し、守っていればOKですし、万一急な体調不良やプライベートな用事が入ったときも、数日余裕があるので安心です。
方法3 タスクごとのデッドラインを逆算して設定する
仕事を細分化したひとまとまりを「タスク」といいます。
たとえば、最初に書いた「研修の依頼」という仕事であれば、その中には、ざっと次のような「タスク」があります。
- お客様からご希望内容をヒアリング
- 見積り、プランを作成して提出
- プランを展開して資料をつくる
- 時間配分を決める
- 当日のためにリハーサルする
「方法2」で自分の締切を決めたら、これらのタスクにかかる時間を見積もり、締切から逆算して、それぞれのデッドラインを決めます。
もちろん、見積もった時間よりも余裕をもたせるのを忘れずに。
こうしておけば、いつまでになにをするかがはっきりしており、そもそも逆算して計画を立てたので、締切には必ず間に合います。
締切をたくさん抱えていても、いつも心は安らかです。
方法4 タスクの優先順位や計画は毎日見直す
「方法3」で、それぞれのタスクをいつやるか決めたのですが、完成まで最初の予定どおり進むことはまずありません。
仕事は毎日新しいものが入ってきますし、緊急のプライベートな用が出てきたりします。
それに合わせて、毎日タスクの優先順位や計画を見直します。
こう書くとたいへんなようですが、わたしの場合は、毎日5分程度の所要時間でできます。
朝、仕事を始める前にやっていますが、仕事終わりに翌日の分をやるというのもいいかもしれませんね。
方法5 プライベートの時間や睡眠時間は仕事に使わない
いい年になっても先延ばしグセがある人を見ていると、体力に自信があり、最終的には徹夜してでも、という気持ちがあるように感じます。
わたし自身も「土日にやればいいか」と休日に仕事を入れることがありますが、それもせいぜい2~3時間です。
夕方は4時ころ仕事を終えることも多いですし、土日は基本的にお休みです。
この自分で決めた「オフ」をきっちり守る、という気持ちが大切です。
そうしないと、家族や大切な人との約束を反故にしたり、睡眠不足が重なったりして、生活が破壊されてしまいます。
自分としては、「最後にがんばって締切に間に合った」と思っているかもしれませんが、そのための代償は大きいでしょう。
「強い意志は必要ない」と書きましたが、これだけは少し覚悟がいるかもしれません。
そうはいっても、「がんばる」のではなく「がんばらない」と決めるのですから、無理をするわけではなく、自分の気持ち次第です。
締切をたくさん抱えていても焦りがない生活をしよう
上に書いた内容は、すべて個人的に工夫して効果があったものです。
いまは、先延ばしをして締切ぎりぎりになっても、がんばってなんとかなるかもしれません。
しかし、人間はだれでも年をとります。
集中力は短時間しか続かず、何時間もデスクに向かっていると肩こりや腰痛に悩まされ、なにより無理がきかなくなる、そんな日があなたにもやってきます。
そのときに、先延ばしグセをもったままだとどうなるでしょうか。
その前になんとかしたいものですよね。
引受けられる仕事には、物理的に限界がありますが、その範囲内なら、いつも心が穏やかで、粛々と仕事に取り組んで、満足感をもって1日が終わる。
そんな生活をめざしてみませんか。