ハラスメントの手段となる LINE

店長就任時から、営業成績改善に関して上司からLINE(ライン)を通じて、他店舗の店長などが閲覧できる状態で「会話すら成立しないなら店長下りろタコが」「納得できない返答や抽象的な内容は、まともな内容になる迄(まで)何時迄でもやり直しさせます」などの暴言を書き込まれたほか、一定の成果が出るまで残業を強要させられたりした。

岐阜のビッグモーターでパワハラ訴訟 上司から「店長下りろタコが」LINEで暴言、うつに(岐阜新聞Web) – Yahoo!ニュース

ハラスメントのご相談を受けると、「LINEでパワハラ(セクハラ)された」という訴えがよくあり、膨大な画面キャプチャが出てきたりします。

正直、なぜ LINE のように証拠の残るところでセクハラやパワハラをするのか、と、いつも思います。
もちろん、隠れてやればよいということではなく、「何考えてるんだ?」という驚きと呆れですね。
答えは、「悪いことだと思っていないから」というのは、わかっていますが。

いまや、ほとんどの人が LINE のアカウントを持っており、携帯電話での通話に代わる連絡手段になっています。
最初に引用したニュースのように、仕事の連絡で LINE を使っている会社も多いでしょう。

しかし、これだけ LINE でハラスメントの問題が出てくるとなると、会社としても、なんらかの対策を行う必要があります。

また、ハラスメント以外にも、LINE を業務使用することで起こる問題があり、こちらにも対処しなくてはなりません。

LINE を業務使用することの問題点とは

個人の LINE アカウントを、なんの管理もせずに業務に使用すると、下のような問題が起こりやすくなります。

(1)LINEアカウントを職場の人に教えたくない人がいる

LINE のアカウントは、原則として1台のスマホに対して一つしか作れません。
最近ではデュアルSIM のスマホも増えてきたため、どうしても LINE アカウントをひとつしか持てないわけではありませんが、複数台のスマホや回線を個人で使う人は少ないでしょうから、基本的に「ひとりにひとつ」であり、プライベートに強く紐づいたものであると言えます。

通常は、LINEアカウントを職場の人に教えるかどうかは個人の自由ですが、、「職場でグループチャット作るからアカウント教えて」、または、上司から「アカウント交換しよう」と言われたとき、ほんとうはいやでも、断れる人は少ないでしょう。
ましてや、「仕事の連絡に使う」と言われると、なおさら断りづらくなります。

職場の人間関係をプライベートに持ち込みたくないと思っている人にとっては、LINEアカウントを職場の人と交換するということだけでも、ストレスになります。

上司や職場の人に、アカウント交換を不本意なのに強要されたと感じると、仕事自体へのモチベーション低下にもつながりかねません。

(2)時間外に返信せざるを得ない状況になる

LINEの送信は、電話よりも、メールよりも敷居が低いため、業務時間外にも、仕事に関連する内容をどんどん送信してしまうということになりがちです。

業務に関して、返信が必要な内容が送られてきたら、「業務時間外だから、あとで返信しよう」と思える人は少ないでしょう。
わずかな時間のようですが、時間外に仕事をしたら、その分の賃金が発生します。
時間外割増もつきます。
未払い残業が発生する一因になってしまいます。

また、プライベートな時間に、いつでも仕事の指示や問合せが送信されてきて、対応しなければならないとなると、これも大きなストレスです。

サイコロジカル・デタッチメント(心理的距離)という言葉があります。
「仕事がオフのときは、職場から物理的な距離をとるだけではなく、気持ちの上でも仕事から離れることが、仕事のストレスや疲労の回復に有効である」という考え方のことです。

LINE によって常に仕事とつながっているという感覚は、睡眠やメンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことが考えられます。

(3)ハラスメントが起こりやすい

LINE を送信するとき、しゃべる感覚で、あまり考えずに送信してしまうと、最初に引用した記事のように、暴言等の不適切な発言を歯止めなくすることにつながってしまいます。

また、他の人が見ているグループチャットでの暴言がパワハラであるだけでなく、1対1のチャットは、個人的なことを根掘り葉掘り聞いたり、何度も食事に誘ったり、性的な発言をするという、セクハラの温床にもなりがちです。

直接的な暴言がなくても、上司や先輩からの LINE には急いで返信し、相手の機嫌を損ねないように言葉遣いにも気をつけないと、と思っていると、これもストレスになってしまいます。

なかには、「LINE の返信が遅れると、翌日職場で期限が悪くなり、きつく当たってくる」という上司もいます。

便利で気軽に使える連絡手段のはずが、「気軽にハラスメントできる」手段になってしまうのです。

会社がとるべき対策は

1.業務用の連絡手段について、会社の方針を明確化し、周知する

冒頭に引用した記事の会社では、社用携帯に仕事専用の LINEアカウントを入れて運用していたようです。[1]ビッグモーター「改革第一弾」はLINE削除 次期社長から全社員に:朝日新聞デジタル

個人のスマホや LINE アカウントを使用するのとは違い、会社の目が行き届きそうなものですが、会社自体にハラスメントを許容するような雰囲気があると、それも歯止めになりません。

基本的には、スマホも LINE アカウントも会社支給にするほうがよいですが、それができない場合も、業務用の連絡手段の管理方法や、ハラスメントを許さないこと、業務時間外に使わないこと等、会社の方針を明確化し、それを従業員に周知しておく必要があります。

就業規則の中に、LINE やメール、SNSの使用についての規程を置くのもよいですね。

2.業務用の連絡ツールは会社が用意する

仕事の連絡手段に使うのであれば、スマホも会社支給、使うアプリも会社が選定して全員が同じものを使うというのが、管理もしやすく、従業員の負担もない、よい方法です。

全員に社用スマホはちょっと厳しいということであれば、業務用の連絡に使うアプリだけでも、会社でひとつに決めて、会社が管理するというやり方がベターです。
もちろん、業務用のチャットツールはたくさんありますので、LINE にこだわる必要もありません。

LINE の業務使用は、会社が知らないうちに、部署ごとのグループチャットでなしくずしに始まっていたり、管理職が個人的にLINEで業務指示をしていたりということが多いものです。

まずは、実態を調査し、「業務連絡であれば、会社の管理下にある」という原則に則った対応をしましょう。

3.プライベートな使用で問題が起きないよう教育する

業務使用については、会社が管理することである程度問題を防げますが、職場の人とプライベートでも親しくなり、LINEアカウントを交換することまでは、会社が止めることはできません。

いくらプライベートな問題であるといっても、会社の上司や同僚間で LINE を使ってハラスメントが行われることも十分考えられ、そうなると会社も無関係とは言えません。
また、会社の責任問題だけではなく、人間関係のごたごたで従業員が仕事へのモチベーションをなくすことも防ぎたいですね。

LINE等をプライベートで使用して、会社の従業員の間で不適切な発言や侮辱的な言動、プライバシー侵害が起こらないように、適切な使い方や発言の仕方を、会社が教育する必要があります。

社内のコミュニケーションをよくする教育の一部であると考えましょう。

4.問題が起きたときに、ちゅうちょなく相談できる窓口を整備する

1対1のチャットで不適切な発言があっても、他の人の目には触れないところですので、被害を受けた側が会社に相談しないと、実態の把握は難しいですね。

「なにか困ったことがあったら、とりあえず相談」と、従業員が考えるような会社への信頼、そして、使いやすい相談窓口の整備が必要です。

法律で設置が義務化されていますので、どこの会社でもハラスメント相談窓口は社内にありますが、機能しているかどうかは、あやしいところが多いようです。

LINE での問題に限らず、相談窓口の周知と、相談担当者の教育等の対策をとることで、問題が小さいうちに対処することができます。

便利さの裏にある危険性に気づき、対策を行おう

LINEを始めとしたチャットツールは、電話やメールにない利便性があり、もうこれを使わない生活は考えられないという人も多いでしょう。

必要不可欠なものであるからこそ、問題を起こしそうな部分には最初から対処して、みなが気持ちよくコミュニケーションできるよう、会社の配慮が求められます。

一度、全社で LINE の使用方法について、検討してみましょう。
具体的な規程はどのようにしたらよいのか、従業員への周知はどのようにしたらよいのか、迷いがある場合は、ぜひご相談ください