2026年10月19日、千葉県佐倉市は、病気で休職中にパチンコ店へ通っていた男性職員を、停職の懲戒処分にしました。
市は、地方公務員法が定める信用失墜行為にあたると判断したと報じられています(参考:休職中にパチンコ 佐倉市職員処分:毎日新聞)。

この報道を受けて、Xでは意見が分かれました。
「休職しているのだから、何をしようと自由ではないか」という声と、「休職中は療養に専念する義務があるはずだ」という声です。

どちらも一理ありますが、どちらも肝心なところを見落としています。
佐倉市が処分した理由は「信用失墜行為」、これは公務員に適用される規定です。
民間企業の従業員が休職中の行動を問われるときは、就業規則と療養専念義務という別の物差しが使われます。

この記事では、メンタル不調による休職の相談を受ける社労士として、休職制度の仕組みと、休職中の行動をめぐる裁判例を整理したうえで、会社と休職者にできる対応を解説します。

民間の休職は、法律ではなく会社の制度

休職制度とは、法律上、どのように位置づけられているのでしょうか。

民間企業の休職については、労働基準法などの法律に定めはありません。
つまり、休職制度を設ける設けないは、会社が自由に決めていいということです。
休職制度を設けていない会社もあります。

対象になる病気、休める期間、休職中の給与、復職の条件は、すべて会社が就業規則で決めます。
休職を取れるか、何か月休めるか、給与が出るかは、勤務先の就業規則を読まなければ分かりません。

会社が休職制度を設ける理由は、解雇の猶予です。
従業員側は労働を提供し、会社側はそれに対して給与や福利厚生を与える契約が労働契約です。
病気で働けない場合は、従業員側が契約で定めた労働を提供できないということです。
会社は本来であれば、それがわかった時点で契約を終わらせることができます。
しかし病気や怪我で長期間療養するのは、だれにでも起こりうることです。
長期に休むことができず、すぐに解雇になるのでは安心して働けないので、一定の期間を療養に充てて回復を待つのが、私傷病休職です。
休職期間が満了しても病気が回復せず、復職できなければ、退職か解雇になるのがふつうで、これも就業規則に定められています。

パチンコと家でのゲームを分けるもの

冒頭で取り上げたニュースを見て、パチンコがだめなのなら、家でゲームをしているのはどうなのか、という疑問を感じた人もいるはずです。

今回ニュースになったのは、地方公務員です。
公務員には、職員の信用を傷つける行為をしてはならないという信用失墜行為の禁止があり、違反すると、戒告、減給、停職、免職のいずれかの懲戒処分を受けます。
佐倉市が適用したのは、この規定です。

パチンコは違法ではなく、公務員であっても、遊技をすること自体は禁じられていません。
問題になったのは、パチンコという行為そのものではなく、休職中という立場だったからです。

公務員の休職は、職を保有したまま、一定期間、職務に従事させない措置です。
診断書で療養が必要とされ、公的な身分が保障されている人が、長時間パチンコ店にいる。
その姿を見た住民は、本当に病気なのかと疑います。

家でゲームをしていても、通常はその行為が他人に知られることはありません。
他人の目がない場合、信用失墜には当たりません。

民間での休職の場合は、もし会社に知られた場合、家でゲームをすることが病気の療養に悪影響があるのではないかという論点が出てきます。

裁判例は、遊技や旅行を問題視していない

民間企業で同じことが起きた場合の参考になるのが、マガジンハウス事件(東京地裁2008年3月10日判決)です。
雑誌社のカメラマンが、うつ病と不安障害の診断書を出して休職しました。
休職中は、オートバイで頻繁に外出し、ゲームセンターや場外馬券売場に出かけ、飲酒や宿泊を伴う旅行もしていました。
会社は、療養専念義務に反するとして解雇を主張しました。

裁判所は、うつ病や不安障害は、健常人と同様の日常生活を送ることが療養に資することもあると指摘し、これらの行動を特段問題視できないと判断しました。

ただし、この事件で、解雇は有効とされています。
このカメラマンは、配転命令を拒否したうえ、休職中にブログで会社を批判していたからです。
裁判所は、配転命令の拒否に正当な理由はなく、ブログでの会社批判も療養の趣旨に反するとして、解雇を有効としました(参考:マガジンハウス事件:労働新聞社)。

この判決の線引きは、はっきりしています。
遊技や旅行は、病状に影響しなければ問題になりません。
療養の趣旨に反する行動は、解雇の理由になり得ます。

日本産業保健法学会も、趣味の活動を理由に直ちに懲戒処分を行うことは適当でないことが多いとしています。
ただし、医療者の判断に従わせ、会社秩序の観点から注意指導を行うことは可能だとしています(参考:産業保健職の現場課題 Q1:日本産業保健法学会)。
民間では、遊技や旅行だけを理由にして処分することは、難しいことが一般的です。
公務員は、信用失墜行為という別の物差しで見られます。
同じパチンコでも、立場によって結果が変わることがあるのです。

休職中の行動を分ける三つの物差し

民間では、休職中の行動が問題になるかどうかは、次の三つで判断します。

一つ目は、主治医の診断や指示と合っているかどうかです。
外出を控えるよう指示されているのに出かければ、療養の趣旨に反します。
主治医が気分転換の外出を勧めているなら、それは療養の一部です。

二つ目は、病状への影響です。
腰のけがで休んでいる人の登山は、症状を悪化させるおそれがあります。
意欲の低下が主な症状のうつ病なら、外出が回復に役立つこともあります。

三つ目は、会社に正しく説明したかどうかです。
聞かれたときに事実と違う説明をすれば、問題は嘘をついたことに移ります。
虚偽の説明をすると、会社から注意や処分を受ける可能性があります。

SNSの旅行写真が問題になるとき

職場でよくあるのが、休職中の旅行写真をSNSに投稿し、同僚に見つかって「元気ではないか」と問題になるケースです。

主治医の了解があり、病状にも影響しない旅行であれば、旅行そのものを理由にした処分は困難です。
問題になるのは、投稿の仕方です。
休職者が休んでいる間、その分の仕事を引き受けているのは、通常は同僚です。
好きなことをしていると職場に吹聴する行為は、同僚の感情を逆撫でします。
職場秩序を乱すものとして、処分などの人事措置が正当化される根拠になります。

このような場合、会社としては、いきなり懲戒を検討するのではなく、まず注意を促すようにします。
服務規律で、職場の秩序を守るために、休職中のSNS投稿を控えるよう求めることは問題ありません。

休職でトラブルにならないために、会社と休職者にできること

休職を巡るトラブルを防ぐために、会社として下のような対応をすることが原則です。

一つ目は、就業規則に、休職中の療養専念義務、必要な場合の主治医への意見聴取、会社が求めた場合の指定医への受診義務を定めておくことです。

二つ目は、休職者の行動を知ったとき、処分の前に事実確認と主治医の意見聴取を行うことです。
旅行や遊技が療養に役立つかどうかは、会社が感情で決めることではありません。
元気に外出できるほど回復しているのではないかと疑うなら、処分ではなく、主治医の診断書や産業医面談で、復職できるかどうかを確認します。

休職者にできることは三つあります。

一つ目は、外出や旅行を主治医に伝え、了解を得ておくことです。
診察のたびに記録を残してもらえば、後で説明できます。

二つ目は、会社に聞かれたら、事実を答えることです。

三つ目は、休職中は、SNSに旅行や遊びの投稿をしないことです。

公務員の休職者には、もう一つ加わります。
信用失墜行為の禁止がかかるため、人目につく場所での長時間の遊技は、主治医の了解があっても避けてください。

休職制度については、当然あるべきものだ、と思われていたり、病気で休んでいるのに外で遊んでいるとはけしからん、という感情論も起こりがちです。
会社の規定や、法律・判例の考え方を確認し、正しい知識で対応するのが、少しでも早く回復して復帰するという休職制度の趣旨に合う行動です。