ハラスメント事案が会社の相談窓口に持ち込まれたると、担当者としては頭が痛い日々が始まります。

行為者にヒアリングし、内容をまとめて報告し、さらに場合によっては行為者以外の第三者にもヒアリングをして報告する仕事が待っています。

さらに、ハラスメントに該当するのか、その後の処分や異動はどうするのか、重大な決定をするのですから、対策会議も一度では終わらない場合もあります。
会議の日程を調整し、たたき台となる資料を作り、会議後は報告書を作成し、関係者に通知する。

このようにしていると、1ヶ月や2ヶ月はすぐに経ってしまいます。

そんな日々の中で忘れがちなのが、会社に相談した人(ここでは「相談者」と言います)に進捗状況を報告することです。

相談した人は不安の中にいる

相談者は、勇気を出して会社にハラスメント被害を相談したものの、それですっきりというわけにはいきません。

相談から数日経った時点で、会社からなにも言ってこないと、ほんとうに自分がした相談は会社のしかるべき部署に伝わっているのか、会社として対処に動き出しているのか、このまま握りつぶされてしまうのではないか、という疑心が湧いてきます。

とくに、外部相談窓口や、担当部署ではない上司等に相談した場合は、会社として「相談を受理したので、これから対処に動きます」という点を、本人に知らせる必要があります。

当事務所でも、外部相談窓口としてご相談を受け、報告書を提出して数日後に「会社からなにも言ってこないが、ほんとうに報告したのか」という問合せがご相談者から来ることがあります。

当事務所では、ご相談があると、当日か遅くとも翌日には報告書を提出し、ご担当者からの受理したという返信を必ず確認するようにしています。
返信がないと、メールや、場合によっては電話をかけて確認します。

しかし、そのようなこちらの行動は被害者には伝わらないので、不安になるのは当然です。

このことは、社内のご担当者にも同じことが言えます。

ハラスメント相談についての経験が多い当事務所と比べ、ふつう事業所の担当者様は降ってわいたハラスメント事案の対策に追われていて、なかなか被害者の不安にまで思い至りません。
自分としてはがんばっているので、それが相手に伝わっていない、ということが、視点から抜けてしまっているのですね。

待っている被害者は、もう自分ではできることはないので、時間がとても長く感じます。
行動している担当者のほうは、他の仕事もある中で対処しているのでふだんより忙しくなり、時間が短く感じるくらいでしょう。
相手がそれほど長く感じていることに気づかず、「たった数日なのに」と感じ、催促されると「うるさい」とか「主張が強すぎる」と思ってしまうこともあります。

被害者への報告は定期的に

このような双方の陥りやすい心理の中で、適切な対処法は、「最初から期日を決めて、被害者に定期的に進捗を報告する」ということです。
期間としては、1週間程度がよいと思います。

「次に動きがあったら報告する」ということにすると、担当者としては手間が省けるかもしれませんが、待っている被害者からすると、ほんとうに動きがないのか、それとも忘れられているのかわからない、ということになってしまいます。

なにもない場合は「いまのところ進捗はありません」とメール等で伝えればよいだけです。

まだハラスメントを受けているのかどうかもはっきりしない時点で、相談者にそこまでする必要があるのか、と思うかもしれませんが、会社に相談するということは、ご本人はかなりつらい状況にいます。
ストレスによる身体反応や、うつの症状が出ていることも珍しくありません。
「報告することがないんだから、報告しなくてもかまわないでしょ」ということではなく、もう少していねいに接する必要があります。

担当者としても、報告するのかしないのか判断する必要がなく、機械的に現状を伝えるだけなので、連絡の回数が増えたとしても、かえって心理的な負担は少なくなります。
もちろん、報告忘れの可能性も減ります。

会社がハラスメント事案を知っていて放置すると安全配慮義務違反となることも

おおげさと思われるかもしれませんが、相談者に定期的に進捗報告をする、と決めておくと、さらに大きなメリットがあります。

それは、「待っている人がいるので、急いで処理しなければならない」というプレッシャーが担当部署や経営者に生まれることです。

実際のところ、ハラスメント事案の対処はスピード勝負です。
短い期間に調査し、重大な意思決定をしなくてはなりません。

対処が遅くなると、相談した人だけではなく、事情を聞かれたのに処分がなにも決まらない行為者のほうも、精神的に不安定になってきます。
また、職場の中にウワサが広がったり、相談した人に二次被害が発生してしまう可能性も高くなります。

会社としても、ハラスメント事案が発生していることを知っていながら、対処せずに放置していると、「なにもしない」という不作為の状態が、安全配慮義務違反、つまり、不法行為となることがあります。
こうなると、後に被害者から訴えられた場合に、損害賠償が認められる可能性が大きいでしょう。

そうなる前に、誠意をもって対処する。
会社のリスク管理のためにも必要なことです。
そのための後押しする「しくみ」があるに越したことはありません。

ハラスメント事案が起こったときの処理フローを、あらかじめ作成している会社は多くあります。
できれば、その中に「相談者には定期的に連絡し、進捗を報告する」という一項目を入れておきましょう。