ハラスメントの申告を受けると、必ず心身の不調がないか、とくに睡眠の状況を確認します。ハラスメントの被害を受けている人だけでなく、行為者(加害者)にヒヤリングするときも、必ずこのことはお伺いします。
実は、ハラスメント行為者も、メンタル不調に陥っていることがあり、攻撃的になったり、平常心を失って、パワハラ、セクハラ、マタハラとして出てしまう、ということがあるのです。
適応障害やうつの症状というと、落ち込んで元気がなくなる、というイメージですが、「うまくいかないのはすべて回りの責任だ!」と、他責的になったり、攻撃的になるという症状が出てくる場合もあります。また、双極性障害で躁状態のときに、ケンカをしてしまったり、性的にタガが外れた行動をとることもあります。
メンタル不調までいかなくても、ストレス過多の状態ですと、心の余裕がなくなります。ふだんなら辛抱強く指導できる人も、それができなくなり、たいしたことでもないのに声を荒げたりしがちです。
実際、行為者からよくお話を聞くと、自分自身も上司からパワハラを受けていたり、業績をあげることへの会社のプレッシャーが強すぎたり、家族に病人や介護が必要な人がいたり、そのような事情が複数重なっている場合もあり、とうてい耐えきれないようなストレスに晒されている人も多いのです。ストレス性と思われる疾病に悩んでいる人もいます。
しかし、ハラスメント行為者として会社から調査を受ける段階になると、そこで「この人、だいじょうぶかな? 一度診てもらったほうがいいのでは?」と思って受診を勧めたくても、「会社は自分を病人扱いにして排除しようとしている」と受け取られる心配もあります。
もちろん、被害を受けている側からすると、病気の症状だろうと、自分の意思でやっていようと、ひどい目にあっているのは同じなので知ったことではないのですが、会社からすると、そういうわけにはいきません。
管理職は、そうでなくてもストレスがかかってくる立場です。プレイヤーとして仕事をし、マネージャーとして部署の業績や、部下の指導への責任を求められる。年代的にも中高年期にあたることが多く、子供の教育、親の介護、夫婦仲等、プライベートに問題を抱えていることもよくあります。
会社としては、ハラスメントを防ぐためにも、管理職のメンタルに配慮することが求められます。
具体的には、長時間労働になっていないかの確認です。管理監督者の場合、労働時間や休日の規制は受けませんが、健康管理のため、労働時間を記録する必要があります。時間外手当の必要がないからとここがおろそかになり、労働時間は本人の管理にまかせている会社がけっこうありますが、すぐに改めなければなりません。
上長との面談の機会を多くする等、コミュニケーション対策も大切です。さらに、実態を無視して数字だけを求めていないか、そこも点検する必要があります。
忘れてはならないのが、管理職のセルフケアの促進です。セルフケアは個人で行うストレス対策ですが、これも本人まかせにしておいてできるものではありません。
会社がメンタルヘルス研修を行う、セルフケアカード[1] … Continue readingを利用した個人ワークやグループワークを行う等、どうやったらセルフケアができるのか、教えてあげるところからです。
セルフケアのポイントは、睡眠、運動、栄養、ネガティブな考え方のクセを変える、ということですが、健康経営の取組とも重なる部分が多いのです。会社ぐるみで健康経営を推進することで、ハラスメント防止効果も期待できます。[2]当事務所代表 李怜香は、東京商工会議所認定の健康経営エキスパートアドバイザーです。健康経営について詳しくご説明します。
ハラスメント防止の対策はいろいろありますが、管理職のメンタルケアに着目することから、展望が開けてくることもあります。管理職に対して、「あれはだめ、これはだめ」というのではなく、サポートしてあげる対策、ぜひ考えてみて下さい。
Footnotes
↑1 | 当事務所では、セルフケアカードを使った社内研修や、人事労務担当者へのレクチャー、割引価格でのご注文を承っています。興味がある方はお気軽にお声がけ下さい。 |
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↑2 | 当事務所代表 李怜香は、東京商工会議所認定の健康経営エキスパートアドバイザーです。健康経営について詳しくご説明します。 |