デジタル技術の急速な進化により、企業を取り巻く環境は劇的に変化しています。
特に中小企業においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が増しており、多くの企業が新しい取り組みに挑戦しています。
また、コロナ禍による外出自粛の時期を経てリモート環境に慣れ、働き方への意識が変わった人も多いでしょう。
顧客のニーズや市場環境は常に変化しており、それに対応できない企業は取り残されてしまいます。
他にはない技術や商品を持っていて売上が堅調な企業こそ、競合他社が新しい技術を導入し業務効率を向上させているのをよそに、従来のやり方に固執してしまい、気がついたときには市場での競争力を失っていることがあります。
自分では同じ場所にとどまっているつもりでも、周りはどんどん動いているため、相対的には後退していくのです。
経営層や管理職はこのことに気付いていて、新たな取組をしようとしているのに、現場で働いている部下が消極的な態度に終止してついてこない。
こんな悩みをよく聞きます。
なぜ部下は新しいことに挑戦しないのか?
管理職が変革の必要性を熱く語っても、新しいことに挑戦したがらない部下の心の中には、気が進まない理由が渦巻いています。
それは、主に下の3つです。
失敗したら困る
- 新しいことに挑戦して失敗したら、その責任を取らされるのではないか。
- 経験がない仕事で、教えてくれる人もいないのに、どうやって進めたらいいのかわからない。
- 今のやり方なら確実にできるのに、わざわざリスクを冒す必要はないんじゃないか。
いまの仕事で手一杯なのに、仕事が増えるだけだ
- 毎日の業務で精一杯なのに、新しいことを始めたら残業が増えるだけだ。
- 今でさえワークライフバランスが取れていないのに、これ以上仕事を増やしたくない。
- 新しいことを覚える時間も労力もないし、今の仕事の質が落ちてしまうかもしれない。
挑戦する意義がわからない
- 自分にとってどんなメリットがあるのかわからない。
- 長期的な視点が見えないから、モチベーションが上がらない。
このような部下の不安や不満を取り除くために、管理職にできることはなんでしょうか。
実践的な3つの対策をお伝えしましょう。
対策1:安心して挑戦できる環境を整える
部下が新しいことに挑戦しない最大の理由は、失敗への恐れです。
「失敗したときには、自分が責任をとる!」と上司が断言しても、部下の心が動かず、シラけた様子なのは、上司の日頃の仕事ぶりや部下への要求がその言葉を裏切っているからです。
次の3つを常に心がけ、部下の失敗への恐れを払拭していきましょう。
失敗を学びの機会として捉える
管理職として重要なのは、失敗を否定的に捉えるのではなく、学びの機会として位置づけることです。
部下がなにか失敗したときに、ろくに事情も聞かず、「なにやってるんだ!」と叱りつけて終わりにしていませんか?
「言い訳を聞いてもしょうがない」と切り捨てるのではなく、「なぜうまくいかなかったのか」「次はどうすればよいか」を一緒に考える時間を設けましょう。
このような指導を続けることによって、部下は失敗から学ぶ姿勢を身につけ、次の挑戦への自信を得ることができるのです。
小さな成功体験を積み重ねる
大きな挑戦の前に、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。
新しい取り組みを始める際は、まず達成可能な小さな目標を設定し、それを達成させることで自信をつけさせましょう。
例えば、新規プロジェクトの一部分だけを任せるなど、部下の能力に応じた適切な難易度の課題を与えることが効果的です。
ポジティブフィードバックの活用
部下の新しい取り組みに対しては、積極的にポジティブフィードバックを行いましょう。
特に、プロセスや努力に対する評価を忘れずに伝えることが大切です。
「この新しい提案は、クライアントのニーズをよく理解していて素晴らしい」といった具体的な言葉で評価することで、部下の自信とモチベーションを高めることができます。
対策2:仕事の割振りを見直し、無理なく取り組めるようにする
部下の不満を解消し、新しいことに挑戦する余裕を作るためには、仕事の割振りを見直すことが重要です。
以下のような対策を講じることで、部下が無理なく新しいことに取り組める環境を整えることができます。
現在の各人の仕事の棚卸しをする
まず、現在の各人の業務内容と時間を記録し、優先順位をつけ直します。
重要度の低い業務や、自動化できる作業を特定し、それらを削減または効率化することで、新しいことに取り組む時間を確保します。
例えば、定型的な報告書作成にマクロを活用したり、会議の頻度や時間を見直したりすることで、大幅な時間節約が可能になります。
ただ、いままでやっていた仕事をやめようとすると、自分のやっていたことがムダだと言われたように感じ、抵抗する部下が出てきます。
なぜ不要な業務を削除して時間を確保しようとしているのか、意義を十分に説明し、部下の言い分を聴くようにしてください。
チームの業務分担を再検討する
次に、チーム全体の業務分担を再検討します。
特定の部下に仕事が集中していないか確認し、必要に応じて業務の再分配を行います。
また、新しい取り組みを始める際は、いままでやっていた業務の一部を別のメンバーに移管することも検討しましょう。
これにより、部下の負担を軽減しつつ、新しいことにチャレンジする時間を作り出すことができます。
新しい取組は段階的に行う
新しい取り組みを段階的に導入することも効果的です。
一度にすべてを変えようとするのではなく、小さな目標から始めて徐々に範囲を広げていくアプローチを取ります。
例えば、週に1時間だけ新しいスキルの学習時間を設けるところから始め、徐々に時間を増やしていくなどの方法があります。
新しい挑戦を正式な業務として位置づける
最後に、部下の成長と新しい取り組みへの挑戦を、正式な業務の一部として位置づけることも重要です。
これにより、「余計な仕事が増えた」という認識ではなく、「自己成長のための必要な時間」という前向きな捉え方ができるようになります。
基本的には働き方改革で長時間労働防止のために行う取組と同様ですので、厚生労働省が出している先行事例等を参考にすることができます。
このように、仕事の割振りを適切に見直すことで、部下は無理なく新しいことに挑戦できるようになり、結果として個人の成長と組織の発展につながります。
管理職として、部下の声に耳を傾けながら、柔軟に対応していくことが求められます。
対策3:挑戦の意義を明確に伝える
挑戦したところで、自分にはなにもいいことがないのではないか。
こんな部下の気持は、次のような対策で変えていくようにしましょう。
個人の成長と市場価値の向上を強調する
新しいことへの挑戦は、個人のスキルアップと市場価値の向上につながることを具体的に説明しましょう。
例えば、「このプロジェクトで得られるデータ分析スキルは、今後のAI時代に不可欠なものです。これらのスキルを身につけることで、あなたのキャリアの幅が大きく広がります」といった具体的なメリットを示すことが効果的です。
また、業界のトレンドや将来の展望を共有し、新しいスキルがどのように活かせるかを明確にすることで、長期的な視点を持ってもらうことができます。
組織の目標と個人の役割を結びつける
新しい取り組みが組織全体の目標にどのように貢献するのか、そしてその中で個人がどのような重要な役割を果たすのかを明確に伝えましょう。
例えば、「このシステム導入により、我が社の生産性が20%向上すると予測されています。あなたのチームの成功が、会社全体の競争力強化につながるのです」といった具体的な数字や目標を示すことで、自分の仕事の意義を理解しやすくなります。
成功事例の共有
他社や他部門での成功事例を具体的に共有し、新しい取り組みがもたらすポジティブな変化を示すことが重要です。
例えば、「まずは1週間、新しいシステムを使って日報を作成してみましょう。その結果、作業時間が半分になったという報告が他部署から上がっています」といった具体的な目標と成果を示すことが効果的です。
継続的なコミュニケーションと進捗の可視化
新しい取り組みの進捗状況や成果を定期的に共有し、可視化することが重要です。
例えば、月次のミーティングで「先月導入した新システムにより、顧客対応時間が平均15%短縮されました」といった具体的な成果を共有します。
また、部下の努力や成長を具体的に評価し、フィードバックすることで、挑戦することの意義を実感してもらうことができます。
これらの対策を通じて、部下に挑戦する意義を明確に伝え、モチベーションを高めることができます。
重要なのは、一方的な説明ではなく、双方向のコミュニケーションを心がけ、部下の疑問や不安に丁寧に応えていくことです。
まとめ
部下が安心して新しいことに挑戦できるような環境を作ることは、組織全体の活性化につながります。
「うちの部下は言われたことをやるだけで自分から動こうとしない」「新しいことに挑戦する気概がない」と嘆く前に、上にあげた対策と相反するような言動を管理職自身がしていないか、点検することが必要です。
上に挙げた対策の中で、いままで取組が弱かったところ、早急に改善したいところを見つけ、優先順位をつけて、管理職自身が動いてみましょう。
職場の要である管理職が具体的に動くことで、部下の動きも明らかに変化していくでしょう。