職場のメンタルヘルスについてお話するとき、「同僚や部下の異変にいち早く気付くことがだいじです」という内容を、必ずお伝えしています。
でも、現実には、「ちょっとおかしいな」「いつもと違うな」と思っても、そのことをやんわり本人に伝えたとき、
「だいじょうぶです!」「なんともありません!」
と、相手が虚勢をはってしまうと、なかなかそれ以上つっこめませんよね。
いつも気を張って、きちんとしなければいけない、と思っている人は、弱音をはくことが、難しいものなのです。
でも、人間は機械ではありません。気分や体調の浮き沈みはあって当たり前。仕事がうまくすすまなかったり、体調がつらかったら、早く言ってくれたほうが、まわりも対処しやすいですよね。
部下や同僚が、困ったことがあってもなかなか相談してくれない。こちらから水を向けても、「だいじょうぶです!」とピシャっとドアを閉めるような返事しか返ってこない。そんなふうに感じたことはありませんか?
この問題のキーワードは「迷惑」です。
自分が不調になってスローダウンしてしまったり、休んでしまったりすると、周りに迷惑がかかる。「助けてほしい」といえば助けてくれるだろうけど、それは相手に大きな負担になる。
そう思っているから、なかなか相談できず、かえって問題が大きくなってしまうのです。
では、「迷惑をかける」ことを恐れている人に、相談してもらうには、どうしたらよいのでしょうか。
「いつでも相談してね」
という語りかけももちろん大切です。
そしてもうひとつ、あなた自身が「迷惑」という言葉をたびたび口にしていないか、考えてみてください。悩んでいそうな部下や同僚に対してではなく、一般論や、別の人について話していても、「この人は迷惑をかけられることが嫌いなんだな」と、相手に伝わってしまいます。
もちろん、迷惑をかけられることが好きな人なんていませんが、まずは「なにか事情があるのではないか」という、配慮の気持ちがあるかないかで、ことばや表情は大きく変わってきます。
「周りに迷惑」という言葉だったとしても、その内実は「自分に迷惑がかかる」と言っているも同然、ということも多いものです。
実際に自分や同じ職場の人の負担が増えることに対して、平静ではいられないかもしれません。でも、そこで「迷惑」というキーワードを出してしまうと、その人はもう二度と相談してこなくなります。
迷惑かどうか、という視点ではなく、問題にどう対処したらよいかいっしょに考える、というスタンスで受け止めてみてください。
迷惑はかけたり、かけられたりするもの。必死で避けようとするものではないよ。そうふだんから口にしていると、困ったときにあなたに相談したら力になってくれるのではないか、と思ってもらえるでしょう。