「社会人であれば、始業時間の10分前には会社に来て、仕事の準備をし、始業時間から仕事をはじめること」
新人の時に、こんな注意をされたことはありませんか? 実際に、このように行動している人のほうが多いでしょう。毎日始業時間ぎりぎりに飛び込んでくるのでは、自分はもちろん、見ているまわりの人も落ち着きませんね。
とはいえ、これはあくまでも「社会人としての心得」の部分です。つまり、強制力はありません。
しかしこれが、就業規則に書かれていたとしたらどうでしょう。
「第◯条 社員は始業時間10分前に出社し、仕事の準備を行うこと」
この条文を読むと、「仕事の準備」を会社が命令していると解釈できます。
就業規則の「服務規程」の項目には、さまざまな「心得」が書かれ、会社が社員に実行するよう求めているのがふつうです。しかも、その「心得」を守らないと、懲戒処分もあり得ます。それだけの強制力があるわけですね。
単に、一般的な「心得」を書いただけ、というわけにはいきません。
この就業規則の条文の最大の問題は、このように書いてしまうと「始業10分前の準備の時間」が「労働時間」にあたる可能性が大きいということです。
労働時間であれば、10分間の早出ですから、時間外手当を支払わなくてはいけなくなります。
判例を見ると、仕事の前の着替えや準備の時間も、労働時間であるとしたものがあります。
ただ、すべての準備時間が労働時間になるわけではなく、「使用者(会社)に準備行為を義務付けられていて、その準備行為が、仕事に不可欠なものである場合」は、労働時間としてみるべきだという条件があります。
では、就業規則に「10分前に出社し、仕事の準備をすること」と書いてあったら、準備時間は必ず労働時間になるのでしょうか。
たとえば、現実には、だれもそんな規定は気にしておらず、10分前に来なくても別になにも言われない、ということであれば、会社からの「義務付け」とはいえませんから、その時間は労働時間とはならないでしょう。
ただ、このような規定は、もし、労働者の側が、「準備時間について会社が義務付けているから、10分の早出について時間外手当を支払うべきだ」と主張した場合に、その根拠になってしまいます。
就業規則の服務規程のうち、労働時間に影響があるものについては、このような判例も踏まえた注意が必要です。