(C) Lions Gate Entertainment Inc.

公開中の映画、『スキャンダル』を見てきました。

職場のハラスメント防止の専門家として、これは見ておかないと、という動機でした。
シャーリーズ・セロンが好きだということもありますけどね。

ネタバレ注意!
ここからの記事は、映画の内容について詳しく触れている部分があります。
未見の方は、ご自身の責任でお読み下さい。

女性が声をあげるまでのためらい

ハラスメントの相談を受けていると、セクハラ・パワハラされた! すぐに相談! という人がほとんどいないのは、体験的にわかっています。
「いつごろのことですか?」と尋ねると、数ヶ月前というのはふつうですし、長い人だと数年前ということもあります。

それほど、ハラスメントの被害者は悩み続けるのです。
そして、考えに考えた末に、やっと相談してきます。
その影には、ハラスメントを受けたと思うが、相談しようか迷って、結局そのままにしてしまった人が多数いることでしょう。

この映画の中でも、ニコール・キッドマン演じるグレッチェン・カールソンは、すでに覚悟を決めていますが、シャーリーズ・セロンのメーガン・ケリー、マーゴット・ロビー演じるケイラ・ポスピシル(この役は架空の人物)は、迷いに迷います。

メーガン・ケリーの独白の中で「一生セクハラされた女として見られる?」というような内容のものがあり、これがとても印象的でした。
セクハラを告発すると、一生その烙印がついて回る、と考えているわけですね。
実際、ケリーはニュース・ショーのアンカーとして、マスコミの表舞台に立っています。
一般のビジネス・ウーマンより、そのことを強く意識するでしょう。
しかし、一生かどうかはともかく、「セクハラされた女」という興味本位の視線、そして「告発する女」への反発は、必ずあることで、これは彼女の杞憂ではないのです。

多数の女性がセクハラを受けていますが、カールソンに続いて告発しようという女性はなかなか表れません。
それどころか、セクハラをしたロジャー・エイルズ[1]ジョン・リスゴー。好きな役者さんですが、この映画での演技もよかったです。を応援するという行動に出る女性社員も多数表れます。

告発に至るまでの女性たちのためらいに焦点をあてて描かれています。

性的欲求ではなく支配欲求

この映画では、セクハラをしている、されているシーンは、実はあまり出てきません。
その中で、セクハラが直接的に描かれるシーンがひとつだけあります。

エイルズのオフィスに呼び出されたポスピシルは、足を見せるようにと要求されます。
そもそもがかなり短いスカートなのですが、それをさらに持ち上げるようにと言われます。
ニュース番組の仕事がほしいがために彼女はそれに従うのですが、当然ながら屈辱の表情を隠すことはできません。
そして、恥辱と屈辱に苦しみながらも、FOXの中で絶大な権力を持っているエイルズに対して、さらに媚びるような表情も見せるのです。
ここは、マーゴット・ロビーの見せ場で、その表情などの演技がすばらしいなぁ、と思って見ていましたが、描かれる内容はかなり陰惨ですね。

エイルズは大金持ちです。しかも70歳を過ぎ、病気で体も不自由で、セックスに飢えているとはとても思えません。

その彼が、自分の支配下にある女性たちに、危険を犯しても性的な要求をするのは、この表情を見たいためだろう、というのがわかるようになっています。
彼の目的は性的満足というより、美しく賢い女性が彼の権力の前にひざまずくこと、それも喜んで自分からそうするのではなく、ふつうなら絶対に拒否するようなことも涙を流しながら従うこと、なのです。

ごくふつうの会社員でも、部下の女性に好意を示したら拒否され、「俺のいうことが聞けないのか」とばかりに、こんどはパワハラに転じる、というのがあります。
性的欲求だけなら、こうはならないでしょう。
セクハラに、支配欲がからんでいるのがはっきり見えるシーンでした。

陰謀だ!

自身にセクハラの嫌疑がかけられていると知ったエイルズが「陰謀だ!」と叫ぶシーンがあります。

やっぱり出たよ、という感じですね。

FOXというマスコミを牛耳っているわけですから、政治的にも、社内的にも敵がいて、陥れられる可能性というのは当然あるでしょう。
でも、そういう立場ではない一般の会社員でも、セクハラしたという訴えがあって会社側が話を聞くと、判で押したように「自分は陥れられた」と言うんですよね。
正直、かなりこっけいです。
大物ぶりっこはやめましょう。

最初に書いたように、セクハラの訴えをすることで、女性は大きなリスクを抱え、実際に職場を追われることも珍しくありません。
それほどの危険を犯して、あなたをやっつけたい人がいるとしたら、そりゃなにかやったんでしょう、と正直思ってしまいます。
もちろんこれは、それまでの調査で、セクハラの事実がかなり固いときの感想で、訴えがあったからといって、それが事実だろうと簡単に信じるわけではありません。

ほかにも、女性同士の連帯等、印象に残ることもいろいろあったのですが、長くなるので、とりあえずはこのへんで。
実話ベースの、まさにスキャンダラスな興味だけでなく、そして、ドラマとしてのおもしろさだけでなく、示唆に富んだ映画でした。

 

 

Footnotes

Footnotes
1 ジョン・リスゴー。好きな役者さんですが、この映画での演技もよかったです。