ハラスメント防止セミナーや研修をやると、あちこちで出てくる質問がこちらです。
「従業員が顧客からパワハラやセクハラを受けたら、どう対処したらよいか?」
いわゆる「カスタマー・ハラスメント」「カスハラ」と言われる状況ですね。
女性従業員が、営業に行った先で、酒席への同席を求められ、お酌やデュエットを強要された。
店舗で、従業員が顧客に、理不尽に怒鳴りつけられた。
こんな例があとを絶ちません。
会社としても、顧客をとがめることで、業績に悪影響があっては困るので、及び腰になりがちです。
この質問は、たいてい、経営者やそれに近い人から出てきます。
従業員は「会社はなにもしてくれない!」と思っている場合でも、上層部が問題を把握しており、どう対応していたらよいか苦慮している、というのが現在多くある状況のようです。
もっとも、そのまま「苦慮」を続けていたら、従業員の印象通り、「会社はなにもしてくれない」と思われてもしかたありませんね。
ことし1月に発表された「パワハラ指針」にも、この問題に対する記述があります。
「事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」という部分です。
簡単にまとめると、次のような対策が書いてあります。
(1) 相談体制を整備し、従業員に周知する
- 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。
- 相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにするこ
と。- 労働者が相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定めること。
(2) 被害者への配慮のための取組例
- 事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応をすること。
- 著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うこと。
(3)マニュアルの作成や研修の実施
どれももっとも、というか、やってほしい対策ではありますけれど、肝心なところが抜けています。
それは、迷惑行為をする顧客には、毅然として対応するということです。
たとえば、女性従業員が営業先でセクハラやパワハラを受けた場合、(2)に書いてあるように、その従業員を担当から外したり、別の従業員を同行させるという対策をとったらどうでしょうか。
自分にはなんの落ち度もないのに、担当を変更されたり、「やはり女性は使いづらい」という周囲の心無い視線に耐える必要があるでしょうか。
また、飲食店や小売店などで、従業員のささいな落ち度に激昂して、どなりつけたり土下座を要求する顧客がいたら、どう対処すればよいのでしょうか。
理不尽な顧客はいつ来るかわかりません。
混雑時などは、別の従業員が対応を変わる、いっしょに対応するなどの対処も難しいでしょう。
取引先であれば、社長やそれに準ずるような肩書の人が、迷惑行為をやめるよう申し入れをしに行く。
店舗でのできごとであれば、迷惑行為をする顧客に、出入り禁止を言い渡す。
従業員がほんとうに望んでいる対策、ダイレクトに解決に結びつく対策は上に書いたことではないでしょうか。
研修でこのようなことをお答えすると、社長さんたちは大きくうなずき、「そんなことは無理だよ」という反応はほとんど見たことがないです。
やらなければいけないことはわかっているが、やはり勇気がいることだからでしょう。
だれかに、「こうしなければいけません!」と言い切ってほしい、背中を押してほしいのだと思います。
顧客は確かに事業をする上では、大切な存在ですが、従業員も、それに負けず劣らず大切です。
これから、どんどん人が減っていく中、「仕事はあるけど、人が足りない」という状況は深刻化していきますから、従業員にそっぽをむかれては事業の継続ができません。
経営層には「カスタマーハラスメントが起こっていたら、まず従業員を守る」ことを、第一に考えてほしい、というのが、わたしの回答です。
そしてもうひとつ、パワハラ指針で言われている研修の中身も大切です。
自社の従業員にも、よそでカスタマー・ハラスメントをしないよう教育すること
こちらも合わせてお願いしています。
これからは、ハラスメント防止研修の中に、入れていかなければならない項目だと考えています。