だれかに相談したいと思ったとき、実際に同じ体験をした人に相談する、これはだれでも考えることです。

相談する人が悩んでいることについて、相談を受ける人が同じような体験をしていた。
そのとき、どのように乗り越えたのか。
そこを聞きたい。

子育ての悩みであれば、子育て体験者の中高年女性。
仕事上の悩みであれば、会社の先輩。
自然ですよね。

でも、この人選は、少し問題があるかもしれません。

相談を受ける側からすると、自分の体験と同じようなことで悩んでいる人が目の前にいると、つい、自分が乗り越えた方法が万能薬であるかのように、勘違いしがちなのです。

その人の体験は、その人のものです。
どんなに似ていても、悩んでいる本人の性格や状況も違い、周りの状況も違います。
場合によっては、かなり前の体験で、時代が違うということもあるかもしれません。

ですから、必ずしも、現在の悩みについて、よいアドバイスができるとは限らないのです。

また、聞いている側は、最初は相手の話だと思って聞いていたのが、自分の過去の体験を思い出してしまうと、頭の中はそのことでいっぱいになってしまい、目の前で話している人から注意がそれてしまいます。
相手の語っている言葉を、自分の体験に引き寄せて考えてしまいます。
相手の言葉を虚心に聞いていないと、とんちんかんな応答になりがちです。

現実に起こった出来事というのは、とても強い力を持っています。
過去の体験はその人のものなのに、ひとつの物語として、それを見聞きする人に影響を与えます。
小説や映画なら、それは幸せな体験になるかもしれません。

でも、悩み相談の場面ではどうでしょうか。
現在の悩みの、過去の体験談とは異なる部分が無視されてしまうのではないでしょうか。

また、同じ体験をした人というのは、自分の体験に縛られてしまい、それ以外の発想が持てなくなってしまう、ということもあります。
せっかく他人の意見を聞こうと思って相談するのですから、どうせなら、自分とは違う角度から物事を見ている人に意見を聞くことも考えてみてはいかがでしょうか。

その物事をよく知らない人に状況をわかってもらおうとしたら、説明が少しめんどうかもしれません。
しかし、「知らない人に状況をわかるように語る」という、その事自体が、あなたがあなたの悩みを、新たな角度から見ることにもつながるのです。
他人にわかるように言葉にする、という作業は、めんどうではあるけれども、自分自身や、自分の悩みを理解するのに、大きな助けになります。

もちろん、最初から、他人のことではあるけれども、なんらかの参考になるかもしれない、ということを、語る方も、聞く方も、了解済みであれば、それほど問題はありません。
実際に参考になることも多いでしょう。
しかし、その限界を、お互いに知っておきましょう。