残業の場合はタイムカードの打刻が優先

タイムカードの集計について、経営者からよく出る質問があります。

仕事が終わってからも、職場でぐずぐずして、15分か20分たってから、やっとタイムカードを押して帰るような人の場合も、タイムカードどおり、1分単位で払わなきゃいけないの?

経営者としては不満かもしれませんが、ふだん給与計算をタイムカードに基づいて行っている場合は、タイムカードの打刻通り計算して、給与を支払わなければなりません。

しかし、会社が時間外労働を所属長の指示によるものとし、それを従業員に徹底して運用していた場合、タイムカードの打刻よりも、「業務指示書」や「残業許可書」等の文書で残っている労働時間が正しいものだと認められることもあります。

ひとつ判例を見てみましょう。

被告(会社)においては,就業規則上,時間外勤務は所属長からの指示によるものとされ,所属長の命じていない時間外勤務は認めないとされていること,実際の運用としても,時間外勤務については,本人からの希望を踏まえて,毎日個別具体的に時間外勤務命令書(乙9ないし28)によって命じられていたこと,実際に行われた時間外勤務については,時間外勤務が終わった後に本人が「実時間」として記載し,翌日それを所属長が確認することによって,把握されていたことは明らかである。
 したがって,被告における時間外労働時間は,時間外勤務命令書によって管理されていたというべきであって,時間外労働の認定は時間外勤務命令書によるべきである。

ヒロセ電機事件判決文(平成25年5月22日/東京地方裁判所/判決 太字は引用者)

まとめると、この会社では、時間外勤務について次のように運用していました。

  1. 就業規則に、時間外勤務は所属長の指示によるものであり、所属長の命じていない時間外勤務は認めないと明記されている。
  2. 毎日、本人の希望を聞いて、個別具体的な「時間外勤務命令書」で時間外勤務を指示していた。
  3. 時間外勤務が終わった後、実際の時間外勤務時間を本人が申告し、所属長が確認することによって把握していた。

逆にいうと、ここまでやらないと、会社が用意した「時間外勤務命令書」という文書の信用性はないということになります。

「残業は許可制」と就業規則に書いてあっても、実際の運用は、上司の指示もなく本人の判断だけで時間外労働をしており、それが給与計算にも反映されているとしたら、やはりタイムカードの打刻が労働時間の証拠として採用されることになります。

つまり、残業については、原則としてはタイムカードの打刻が信用できるものとされ、それを覆すような事情が証明できれば、タイムカード以外の証拠が採用されることもある、ということです。

就業時間前はタイムカードの打刻より始業時間

では、始業時のタイムカードの打刻についてはどうでしょうか。

通常、出勤したときにタイムカードを押すので、打刻は始業時刻よりも前になります。
この場合も、タイムカードに打刻された始業前の時間は、労働時間(時間外労働)として扱わなければならないのでしょうか。

これについては、終業後の打刻とは逆で、原則は始業時刻から労働時間が始まるとしてよいのです。

始業前の時間は、会社に来てはいるものの、会社の指揮命令下にあるわけではなく、それぞれ自由に過ごしています。
ですから、始業時刻が9時の場合、8時40分にタイムカードの打刻があったとしても、20分の早出(時間外労働)をつける必要はなく、9時から計算すればよいということになります。

しかしこれも、始業時刻の前に、会社からの指示があって仕事をしていたという事情が証明されれば、労働時間として認められます。