実のところ、STAP 細胞についても、小保方さんの女子力についても、ほとんど興味がなく、記者会見なども見ていません。ニュースについては、ネットで見出しをちらちら見ていた程度でした。
ということで、いままで STAP 細胞なり小保方さんなりについては、まったく発言したことはありませんでしたが、この話題に関しては、ちょっと語りたいものがあります。
「小保方さんを解雇したら違法」弁護団が理研・懲戒委員会に「弁明書」提出(全文)|弁護士ドットコムトピックス
研究不正に関する懲戒処分は、諭旨退職又は懲戒解雇を原則とする極めて重い処分が就業規程に定められているところ、そのバランスからすれば、研究不正とされる行為は、重大な違反行為に限られると考えなければならない。労働契約法15条も、行為と処分との均衡原則を明らかにしている。
長い弁明書ですが、研究不正の事実認定に関する部分は読んでもまったく判断できませんので、割愛します。
かりに、小保方さん側の弁護団の研究不正の事実に関する主張には根拠がなく、理研側の主張が正しい、つまり、懲戒解雇に値するような事実があった、ということで考えてみましょう。
懲戒解雇とは、労働者にとって死刑宣告とも言えるようなものであり、裁判所の判断もかなり厳しくなります。
本人の起こした問題が懲戒事由にあたることが明白な場合も、なんらの指導もせず、懲戒解雇より軽いほかの処分も一度も行わなかった場合、解雇権の濫用として無効となる可能性があるのです。
たとえば、会社の支店長がセクハラを理由に懲戒解雇になったものの、その処分が無効であるとして支店長が会社を訴えた裁判がありました。(Tm社事件 東京地裁 平成21年4月24日)
以上の諸事情に照らして考慮すると、原告の前記各言動は、女性を侮辱する違法なセクハラであり、懲戒の対処(ママ)となる行為ということは明らかであるし、その態様や原告の地位等にかんがみると相当に悪質性があるとはいいうる上、コンプライアンスを重視して、倫理綱領を定めるなどしている被告が、これに厳しく対応しようとする姿勢も十分理解できるものではあるが、これまで原告に対して何らの指導や処分をせず、労働者にとって極刑である懲戒解雇を直ちに選択するというのは、やはり重きに失するものと言わざるを得ない
ということで、原告のセクハラ支店長の主張が認められ、解雇は無効、会社には解雇になった後の賃金相当額の支払いが命じられました。
さらに、相手が抵抗してくるのがわかっていたのに、厳正な手続きをとらなかったことは、理研にとっては大きな失点でした。
解雇するときは、解雇理由が十分にあっても、手続きが適正に行われていなければ、解雇自体が無効になる場合があります。懲戒解雇であれば、なおさらです。解雇の手続きは、単なる形式ではなく、解雇が適法であるかどうかの、重要な要件なのです。
第5 手続違背について
1 弁明の機会を与えられなかったこと。
2 調査委員会の構成
(略)
3 再調査開始に関する審査手続について
(略)
弁護団は上記3点を主張しています。研究の内容とは違って、記録も残っているはずですし、簡単に証明できることですから、この点については根拠のある主張をしている可能性が高いと思われます。
懲戒処分を下す際には、弁明の機会を与えるのは基本です。さっさと片付けてしまおうということだったのかもしれませんが、ここを怠ったことは、手続き上の重大な落ち度になりますね。
また、調査委員会の委員に不適格なものが含まれていたことについては、似た判例として、賞罰委員会規程の欠格事由に該当する委員が複数含まれていたことが、解雇無効の理由のひとつになったものがあります。(日本工業新聞社事件 東京地裁 平成14年5月31日)
というわけで、研究不正についての事実認定が苦しくても、懲戒解雇や諭旨退職処分については、上に書いた理由から十分に理研に対抗できるのではないかな、というのが、わたしの予想です。
つまり、解雇の際は、それも、事実認定について争いがあり、相手が対抗してくるのが目に見えている場合は、念には念を入れて手続きを適正に行う必要がある、ということなのです。
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