「最低賃金、時給1500円なら夢ある」若者らデモ:朝日新聞デジタル

現在の最低賃金は、全国加重平均で823円です。もっとも高い東京都でも932円。
1,500円というのは、過大な要求ではないか、そんな金額にしたら中小企業が成り立たなくなる、と感じた人も多かったようです。

だが、社労士になって以来、最低賃金の変遷を見てきた者としては、それほど夢物語とは思えません。
今年、来年、1,500円になることはないにしても、最低賃金は今後も大きく引き上げられるでしょう。

理由は、ここ数年、最低賃金の引き上げ幅が大きくアップしているから、そして、政策的に大きな潮流の中でそのような個別の現象があるからです。

最低賃金のアップは政府の方針

安倍晋三首相は24日、経済財政諮問会議で、現在は全国平均798円の最低賃金を毎年3%程度引き上げ、将来は1千円程度にするよう求め、関係閣僚に環境整備を指示した。過去最大だった平成27年度(18円増)を上回る賃上げで、パートやアルバイトの待遇改善にもつながる。名目国内総生産(GDP)600兆円達成に向け、足踏みする個人消費を刺激するのが狙いだが、賃上げに対する政府の関与が一層強まった格好だ。
安倍首相、最低賃金の「年3%引き上げ」を指示 将来は約1000円に 初めて具体的水準に言及 – 産経ニュース2015.11.25

安倍総理は最低賃金の3%引き上げとともに、特に人件費の負担が増える中小企業への支援を強化する考えを示しました。現在の最低賃金は全国平均で798円で、3%引き上げると822円になります。一方、政府は今年度のGDP(国内総生産)の成長率について、物価の変動を踏まえた名目での見通しを3.1%から2.2%に下方修正しました。最低賃金の引き上げ幅は成長率の見通しを上回ることになります。
安倍総理、最低賃金3%引き上げを関係大臣に指示(2016/07/14 テレ朝ニュース)

上に引用したように、安倍総理は、一昨年、昨年とも、最低賃金の3%引き上げを指示しており、1,000円をめざすということは、この状況はしばらく続くということになります。
このデモは、政府の方針に沿っていて、「もっとがんばれ」と言っているようなものです。

実際に、どの程度上がっているのか、グラフと表で見てみましょう。

最低賃金全国加重平均(円) 前年比(%)
2001 663 0.61
2002 663 0.00
2003 664 0.15
2004 665 0.15
2005 668 0.45
2006 673 0.75
2007 687 2.08
2008 703 2.33
2009 713 1.42
2010 730 2.38
2011 737 0.96
2012 749 1.63
2013 764 2.00
2014 780 2.09
2015 798 2.31
2016 823 3.13

10年前、2006年の最低賃金は673円でした。この10年間で20%以上アップしています。
さらに、ここ5年で見ると、前年比の上げ幅も年々増えている状況です。
物価や給与全体の伸びを反映したものでないことは、明らかでしょう。

低所得層の賃金引き上げについては、自社内の時給1,000円以下の労働者の賃金アップをする中小企業に対して、助成金を支給するという行政の後押しもあります。

業務改善助成金特設サイト

少子高齢化対策に欠かせない若者の経済的安定化

そもそも、なぜこのような政策がとられているかというと、少子高齢化という問題がその根源にあります。


(グラフ出所 第1部 少子化対策の現状(第1章)|平成28年版 少子化社会対策白書(概要<HTML形式>) – 内閣府

日本の労働力人口は、どんどん減り続けています。
人手不足という単純な問題だけでなく、年金制度も維持していくことができないし、税収も減少するなど、社会全体が縮小し、貧困化することが予想されています。

子供を増やすためには、20代30代の世代に期待するしかないのですが、ここには大きな問題が横たわっています。
若者世代の所得の減少です。
正社員を非正規社員に置き換えることによって、企業は生き残ってきました。しかし、そのツケが若い世代に押し付けられているのです。
生活がかつかつで、将来収入が増えるという希望もなければ、子供を産み育てることはできません。

20代、30代の所得分布をみると、20代では、1997(平成9)年には年収が300万円台の雇用者の割合が最も多かったが、2012(平成24)年では、200万円台前半の雇用者とほぼ同じ割合となっている。また、30代では、1997年には年収が500~699万円の雇用者の割合が最も多かったが、2012年には300万円台の雇用者が最も多くなっている。
平成28年版少子化対策白書「若い世代の所得の伸び悩み」

最低賃金の急ピッチの引き上げ、働き方改革、すべてこの文脈の中で推進されています。

少子化に歯止めがかからない現状では、このトレンドはさらに推し進められることはあれ、逆行することはありえません。
企業経営も、このトレンドを意識して乗っていくことが必要になってきます。

個人消費を伸ばして景気対策にもプラス

個人消費は、GDPの中で6割を占め、景気に大きな影響を及ぼす存在です。
最低賃金近辺の給与で働いているような層は、貯蓄に回すような余裕は少なく、給与が上がれば消費に回すことが確実です。
そういう意味でも、低賃金層の給与が底上げされることは、経営する側にとってもプラスの材料になります。

従業員の賃金は安ければ安いほうが利益が出る、という単純な経営手法は、他方から見ると、モノやサービスを買ってくれる客をつぶしていることになります。
いままでは、このやり方でやってきたのだから、これからも、という考えは通用しなくなっています。
変化することを恐れていては、そこから脱却できません。

自分の会社ではどうしたらいいのか、どこが問題なのか、どこから手を付ければいいのか。
迷っているよりも、専門家の知恵を頼りにしてください。

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