要約のすすめ
あなたは、だれかと話をしているとき、相手の話している内容が複雑すぎて理解できなかったことはないでしょうか。
内容自体はそれほど複雑ではなくても、相手の話し方がごちゃごちゃしていて、わからないこともありますよね。
そんなとき、役に立つ技術が「要約」です。
「要約」というと、小中学校のころの国語の時間を思い出して、苦手意識を感じる方もいるかもしれません。
でも、だいじょうぶです。
学校の勉強ではなく、話の中で行う「要約」は、コツさえ覚えればだれでも使えるものです。
そして、その効果は絶大です。
ぜひ、やり方を覚えてましょう。
要約の効果
「いまのお話はこれこれこういうことですね」というのが、会話の中で行う要約です。
◯字以内にまとめなさい、という決まりもありませんし、間違えたらバツがつくこともありません。
長い相手の話を短くまとめて、相手に確認することが要約ですね。
これができるようになると、こんな効果があります。
複雑な話が整理できる
長い話、複雑な話にも、必ずテーマがあります。
相手はそれによってどう感じたのか、どういう影響を受けたのか、どう反応したのか、これからどうしたいのか、というのが、ほとんどの話の内容です。
話のテーマと相手の感情や行動を短くまとめることによって、複雑な話でも整理されて、お互いにわかりやすくなります。
話のすれ違いを防止できる
相手は言いたいことがあって話をしているのですが、それをうまく伝えるように話してくれるとは限りません。
前置きやどうでもいい説明ばかり長くて、どこに着地するかわからない話というのもよくあります。
相手自身も、なにが言いたいのかわかってないということもあります。
そんなとき、「相手がいいたいこと」と「あなたが受け取ったこと:要約」を照らし合わせることによって、すれ違ったまま会話が続くことを防げます。
「話をきちんと聴いている」ことが相手に伝わる
「いまの話をまとめると…」と言われたら、「聞き流しているんじゃなくて、ちゃんと聴いていてくれるんだな」と相手は感じるでしょう。
一般に、自分の話をきちんと聴いてくれる人には、信頼感を感じるものです。
相手との信頼関係を作る一助になります。
相手の感情をクールダウンすることができる
話していて感情が激してしまい、話している相手に伝えるというよりも、自分の感情を吐き出すことに夢中になってしまうと、聴いている側としては、なにがなんだかわからなくなってしまいます。
そんなときに「だいじょうぶですか? こちらで少し話の内容をまとめてもいいでしょうか? さっきのお話は◯◯ということですよね?」と伝えると、相手の意識は自分の感情よりも話の内容にフォーカスされるので、自然に気持ちを落ち着かせることができます。
要約でまとめる内容
要約の効果はわかったけど、実際に要約しようと思うと難しい。
そう感じる人も多いでしょう。
研修で傾聴の練習をしていて、「3分間相手の話を聴いて、最後に内容を要約してください」というワークをやってもらうと、「要約するために相手の話を覚えておこうと思うと、かえって聴くことに集中できない」という声をよく聞きます。
慣れればいい、と言われても、慣れるまでトライするのは勇気がいりますよね。
そんなときは、話のすべてを要約しようと思わず、どれかひとつ、とくに混乱しがちなところにフォーカスすると、比較的かんたんにまとめることができます。
人物とその関係
- 登場人物が多くて、その人物の間の関係がよくわからない話。
- ひとりの人に対して、話し手が「課長」と言ったり、「山田さん」と言ったり、呼び方が一定しない場合。
- 「あの人」「あいつ」等、代名詞が頻繁に出てきたり、そもそも主語がなくて、だれのことを話しているかわからない場合。
そのような場合、聴いている側はなんのことだかわからず、話の筋道も見失ってしまったりします。
そんなときは、「AさんとBさんが話をしているのを、Cさんが聞いていて、内容をあなたに伝えたんですね?」等、人物やその関係を確認するつもりで要約すると、相手もあなたが混乱しているのに気づき、適切に補足してくれます。
時系列
ある程度長い期間についての話で、エピソードがいくつか出てくる場合、最初から順番に話をしてくれる人は少ないものです。
たいていは、自分のいちばん印象に残った話から始まります。
また、話しているうちに「そういえばこんなこともあった」と別の話が始まると、その話は、さっきのエピソードより前なのか後なのか、聴いているほうはわからなくなってしまいます。
そんなときは、「いまのお話で、最初に起こったのは◯◯で、次が△△ですよね?」と確認しましょう。
「時系列に沿って説明してもらえますか?」といってもいいのですが、そうすると、そこからまた長い話が始まったりします。
あなたが受け取った順番をを要約して提示したほうが、仮に間違っていたとしても相手は短くそれを指摘してくれるので、わかりやすくなります。
相手の感情
どのようなことがあったとか、なにをしたという以外に、相手の感情に着目するのも、要約の一つのやり方です。
たとえば、「◯◯ということがあって、不安になったんですね」というふうに伝えます。
相手は「不安」という言葉を使っていなくても、自分が相手の話全体から不安な気持ちを感じ取ったときには「不安」というまとめ方で構いません。
いろんなことを話しても、自分の気持に言及しない人は多いものです。
そんなとき、要約しながら相手の感情にフォーカスをあてると、「きちんと受け止めてもらえた」と感じてもらえます。
やるべきこと
これは、ビジネスの場では、基本的な心得ですね。
いろいろ話をしたあとで、「では、わたしはこれから、◯◯と△△をいついつまでにやります」と確認する。
これも要約のひとつです。
とくに会議ではなくても、だれかと話をしたときは、最後に話したことを要約し、とくにやるべきことをお互いにまとめておくと、すれ違いがなくなり、「自分の役目だと決まったのに、その後忘れてしまった」というミスを防ぐことができます。
要約の注意点
さまざまな効果があり、便利な要約ですが、注意点もあります。
回数は少なめに
要約は便利な方法ではありますが、相手の話の腰を折ることにもなりがちです。
あまりたびたびやるものではありません。
要約をするタイミングは、次のようなときです。
- 相手の話についていけなくて混乱してしまったとき
- 相手の話の不明点を確認したいとき
- 相手の話が堂々巡りしているとき
- 相手が感情的になってしまったとき
- 話が一段落したとき
- 会話が終わったとき
ひとつのまとまった会話にせいぜい1回、多くても2回くらいと覚えておきましょう。
相手に確認する気持ちで行う
「結局、◯◯ですよね」
いろいろ話した後、相手がこんなふうに一刀両断に短くまとめてしまったら、上から目線を感じてもやっとすることがあります。
要約は、自分の解釈を相手に押し付けるのではなく、話をスムースにするために確認する、という気持ちで行いましょう。
「わたしは◯◯というふうに受け取ったのですが、これでだいじょうぶですか?」
言葉に出さなくても、気持ちとしてはこんな感じです。
「これで合っていますか?」と尋ねなくても、要約したら相手の表情に注意しておきましょう。
自分の言いたいことと要約が違っていたら、はっきり指摘しなくても、たいてい表情に出るものです。
表情が物語るものを受け止めると、「上から目線」「押し付けがましい」と思われなくなります。
「ちょっと違う」と言われたら素直に受け止める
要約したら、相手に「ちょっと違うんですけど」と言われたり、相手の顔に疑問や不満が浮かぶときがあります。
うまく要約できなかった理由が、相手の話がとてもわかりづらかったり、要領が悪かったりということも多いでしょう。
しかし、「話がヘタでわかりづらい」ということを相手に伝えても、いやな印象を与えるだけで、なにもいいことはありません。
「自分が話の内容をうまく聞き取れなかった」ということにして、「すみません、そうじゃないんですね。では、どのあたりが違うのか、教えてもらえますか?」とていねいに尋ねましょう。
要約がうまくいかなくても、がっかりする必要はありません。
今度は相手が、長くてわかりにくい話を簡潔にまとめてくれます。
要約をうまく使うと、有能な人、信頼できる人、という印象を与え、感情のすれ違いやミスを防ぐこともできます。
ぜひ、使ってみてください。