マイクロアグレッションとは、日常生活で無意識のうちに行われる、微妙な差別や偏見のことを指します。
これらは一見些細な言動ですが、受け手にとっては精神的な負担となり、長期的には深刻な影響を与える可能性があります。
職場の多様性が増す中、マジョリティの立場にある人たちが、これらの微細な差別行為に気づき、防ぐことは極めて重要です。

マイクロアグレッションの具体例をいくつか見てみましょう。

  1. 女性に対して:「女性なのに頑張っていますね」(能力を性別と結びつける)
  2. 外国人に対して:「日本語が上手ですね」(外国人は日本語が下手だという偏見)
  3. 障害者に対して:「あなたは本当に勇気がある」(障害を持つことを特別視する)

これらの例から分かるように、マイクロアグレッションは往々にして善意から発せられることがあります。
しかし、結果として相手を不快にさせたり、疎外感を与えたりする可能性があるのです。

では、マジョリティの立場からマイクロアグレッションに気づくための5つの効果的な方法を紹介します。

1. 自己認識を高める

自分の偏見や先入観を認識することは、マイクロアグレッションを防ぐ第一歩です。
私たちは皆、無意識の偏見を持っています。
これらの偏見が日常の言動にどのように影響しているかを意識することが大切です。

例えば、「女性は感情的だ」という固定観念を持っていないか自問してみましょう。
会議で女性社員が熱心に意見を述べた際、「感情的になりすぎないように」と言ってしまうのは、このような偏見から生まれるマイクロアグレッションかもしれません。

また、「障害者は常に助けが必要だ」という思い込みから、障害のある同僚に対して過剰に親切にしたり、その人の能力を過小評価したりしていないか考えてみましょう。

2. アンコンシャス・バイアス研修に参加する

職場でのダイバーシティ&インクルージョンの必要性が意識されるにつれ、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修が広く行われるようになりました。
これらの研修では、私たちが無意識のうちに持っている偏見や固定観念について学び、それらがどのように日常の言動に影響を与えるかを理解することができます。

研修では、例えば「理系は男性向き」「営業職は外国人には向いていない」といった無意識の思い込みについて考え、それらがどのようにマイクロアグレッションにつながるかを学びます。
また、「確証バイアス」「ステレオタイプ」などの心理学的概念についても学び、自分の思考パターンを客観的に分析する方法を身につけることができます。

このような研修に参加することで、自分の中にある無意識の偏見に気づき、それを意識的に修正する方法を学ぶことができます。

3. マイノリティの経験を聞く

同僚や友人など、マイノリティの立場にある人々の経験談を傾聴することは非常に重要です。
同僚が日常的に経験するマイクロアグレッションについて、直接話を聞くことで、自分では気づきにくい問題点が明らかになることがあります。

例えば、外国人の同僚から、「出身はどこですか?」という質問が頻繁に行われることで、常に「よそ者」として扱われていると感じる経験を聞くかもしれません。
また、障害のある方から、周囲の人が本人ではなく介助者に話しかけることが不快だという声を聞くこともあるでしょう。

同僚の話は、無意識の偏見に気づくために役に立つものですが、相手にとっては不快な体験を話してもらうことになるので、デリカシーをもった態度が重要です。
また、自分の学習のために相手を利用するような態度は厳に慎みましょう。

マイノリティにとっては、自分の同僚が職場環境をよくするために努力したいという意向を示すことは基本的にうれしいものです。
しかし、興味本位の「素朴な疑問(といいつつ、無神経な質問をすること=マイクロアグレッション)」にはうんざりしていますし、職場で傷つけられることを恐れています。
職場はマイノリティの同僚にとってあなたが想像するより大切な場です。
いま自分が我慢することでうまくいっているのに、いまより居心地が悪くなり、職場から去るはめになることは避けたいと考えています。

話を聞く際には、相手の感情に配慮しつつ、誠意をもって、自分自身がよい方向に変化したい、さらにすべての人にとって安心できる職場を作りたいので手伝ってほしいと、ていねいに伝えることが大切です。

さらに相手の話が自分にとって耳が痛いものであっても、非難されたと感じたり腹を立てたりせず、謙虚に聴くことを心がけましょう。

4. 言葉遣いに注意を払う

日常的に使用している言葉や表現が、意図せずに相手を傷つけていないか見直すことが大切です。
特に、慣用句や冗談の中に、差別的な意味合いが含まれていることがあります。

「めくらめっぽう」「気が狂った」などの表現は、視覚障害者や精神障害者に対する配慮に欠ける可能性があります。
これらを「やみくもに」「混乱した」などの言葉に置き換えることで、より包括的な言葉遣いになります。

また、「男のくせに」「女のくせに」といった性別に基づいた表現や、「ホモ、オカマ、レズ」等長年蔑称として使われてきた表現、「外国人だから〇〇が得意/不得意だろう」といった国籍に基づいた一般化も避けるべきです。

5. 継続的な学習と改善

マイクロアグレッションに関する新しい情報や研究を常にフォローし、自己改善に努めることが大切です。
社会は常に変化しており、以前は問題とされなかった言動が、現在ではマイクロアグレッションとして認識されることもあります。

例えば、LGBTQコミュニティに関する理解が深まるにつれ、「彼氏/彼女はいるの?」という質問が、異性愛を前提としたマイクロアグレッションだと認識されるようになりました。
代わりに「パートナーはいますか?」と尋ねるなど、より包括的な表現を学び、実践することが重要です。

また、障害者に対する接し方も変化しています。
以前は善意から「頑張っていますね」と声をかけることが一般的でしたが、これが障害者の日常を特別視するマイクロアグレッションだと認識されるようになっています。

マイクロアグレッションに気づき、防ぐことは簡単ではありません。
しかし、これらの方法を意識的に実践することで、より包括的で尊重し合える職場環境を作り出すことができるでしょう。
私たち一人一人が、自分の言動を見直し、継続的に学び、改善していくことが、真の多様性と包摂性を実現する鍵となります。

マイクロアグレッションは、往々にして善意から発せられることがありますが、それだけに気づきにくく、また根深い問題です。
しかし、私たちが意識を高め、学び続けることで、より公平で包括的な社会を築くことができるはずです。
一人一人の小さな気づきと行動の変化が、大きな変革につながるのです。