だれかに質問をされて、いやな思いをすることは、だれにでもあります。

その質問はどんな内容でしたか?

なぜ尋ねられるといやな気分になるのでしょうか。

質問の背景にある前提

いやがられる質問の典型を、ひとつ考えてみましょう。

「まだ結婚しないの?」

独身の人がこう聞かれたら、内心、「よけいなお世話だ!」と感じて、むっとする人が多いでしょう。
プライベートなことに踏み込んでいる、という以上の問題がこの質問にはあります。

しかし、質問の形は、「まだご飯食べないの?」「まだ帰らないの?」というのと同じです。
日常的に出てきそうな内容ですし、これで腹を立てる人はあまりいないでしょう。
どこが違うのでしょうか。

「まだ◯◯しないの?」という質問には、背景となる考え方があります。
それは、「すでに◯◯しているのが当然だ」というものです。

もうおわかりですね。
◯◯に「結婚」を代入すると、「あなたの年齢なら、とっくに結婚していて当然なのに、まだ結婚してないんだね。なにか問題でもあるんじゃないの?」と、聞かれた方は感じるのです。

質問をする場合、このように、なんらかの前提が隠れていることがあります。
そして、質問する側は、たいていその前提に気づいていません。

非難が隠れている質問

とくに、「なぜ?」と尋ねる質問には、非難の意味合いがこもりがちです。

「なぜ遅刻したんですか?」
「なぜ遅れるなら電話しなかったんですか?」

どう見ても、相手を責めている内容ですね。

ほんとうは相手を責めたいわけではなく、ただ理由が知りたい場合は、別の言い方をするといいでしょう。

ひとつの例として、こんな言い方はどうでしょうか。

「なぜ遅刻したんですか?」→「遅刻したのは、なにか理由があったんでしょう? それを教えてください」

「なぜ遅れるなら電話しなかったんですか?」→「ふだんなら遅れるときは電話くれますよね。できなかった事情がなにかあったんですか?」

また、自分の気持を伝えたいときも、非難がましく質問してしまうことがあります。

「1時間も待たされて、わたしがどんな気持ちになったかわかりますか?」

これも、相手に尋ねる形にするのではなく、自分の気持をそのまま表してみましょう。

「1時間も待たされて、わたしがどんな気持ちになったかわかりますか?」→「1時間も待ったんですよ。次の予定を考えると気持ちは焦るし、あなたになにかあったのではないかと心配でした。やっぱり腹も立ちましたよ。この気持ち、わかってほしいんです」

質問する必要がないことがわかります。

特定の価値観が隠れている質問

たとえば、職場でのこんな会話はどうでしょうか。

Aさん「昨夜子供が熱を出しちゃって、寝ずに看病したので寝不足です」
Bさん「それはたいへんでしたね。きょうは休んでお子さんのそばにいなくていいんですか?

Bさんはやさしい人だな、と感じる人も多いでしょう。

しかし、Aさんは、このように尋ねられて、内心むっとしました。

それは、Aさんが女性であり、「子供が熱を出したときは、母親が会社を休んでそばにいるべきだ」と言われたと感じたからです。
相手が男性であれば、Bさんはこのようなことは言わないだろう、とも思いました。

Aさんも、会社を休んで子供のそばにいたいのはやまやまです。
しかし、きょうはどうしても休めない事情があり、なんとか夫に頼んで、心配しながら出社したのです。

夫は引受けてくれたものの、不承不承というようすでした。
Aさんは、「わたしが休むのは当然で、夫が休むときは拝み倒さないといけないなんて不公平だ」と感じて心穏やかではありませんでした。
子供に対しても、そばにいてあげられない罪悪感を感じていました。

もちろん、Bさんはそんなことは知りません。
Aさんの顔色もよくないし、Aさん自身も休む必要があるような気がして、思いやりの気持ちから、このように質問したのでした。

しかし、Bさんは、相手が男性なら「会社を休んで子供のそばにいなくていいんですか?」と尋ねなかったでしょう。
Aさんが感じた「子供のことは母親がするべきだ。会社の仕事は二の次でよい」という価値観は、たしかにBさんの中にあります。

お互いに率直に話せる風土をつくろう

非難がましい質問はしないように気をつけることができますが、このように価値観がぶつかっている場合は、事前に防ぐのは難しいですね。

そもそも、相手が気を悪くするようなことは最初から言わないようにしよう、という考え方は、価値観が多様化している現代では、かなり無理があります。

では、このような場合はどうしたらよいのでしょうか。

Bさんがやさしい気持ちで言ったことなのだから、Aさんは不快な気持ちをがまんすべきでしょうか。

ひとつの提案ですが、Aさんが次にこのように言うというのはどうでしょうか。

「Bさんが思いやりから言ってくれたのはわかるのですが、他の人からそのように言われると、『母親なら会社を休んで子供のそばにいるべきだ』と言われているような気がして傷つきます。男性なら『休んで子供のそばにいれば?』と言われないですよね」

職場の世間話としては踏み込みすぎと感じる方も多いかもしれません。
こんなことを言ったら「めんどくさいやつだ」と相手に思われるかもしれない、と思って、ここまで言える人は少ないかもしれません。

しかし、Aさんがこう言わなくては、Bさんは自分の中にある固定的な男女役割分担をよしとする価値観に気づかないでしょう。

Aさんがこう言えるかどうかは、Bさんがおだやかに意見の違いを受け止めてくれるはずだ、という、ふだんのBさんの行動への信頼にかかっています。

Aさん、Bさん、双方に、ちょっとしたことからわだかまりを作らないような職場にする責任があります。

なにげない質問で、相手を不快にさせることを完全に防ぐことはできません。
しかし、その後の展開で、お互いに率直に話ができる職場風土を作ることもできるのです。