世に炎上のネタはつきまじ、とつまらない地口を言ってみたくなる毎日ですが、現在ホットなのは、こちらの話。
夫婦は40代の共働きで、今年1月に生まれた長女の育児のため、それぞれ育児休暇を取得した。夫が復帰したのは4月22日。住宅を購入し、4月中旬に新居に引っ越したばかり。夫婦によると、夫に辞令が出たのは育休復帰明け翌日の4月23日。午前中、上司に呼ばれ、5月16日付で関西への転勤を命ぜられた。「組織に属している以上、転勤は当然だが、今のタイミングは難しいので1〜2カ月延ばしてもらえないか」と相談するも会社側は却下。有給休暇の申請も却下され、夫は泣く泣く5月31日付で退社した。
「育休復帰、即転勤」で炎上、カネカ元社員と妻を直撃:日経ビジネス電子版
男性の育児休業については、政府も数値目標(2020年に13%)を立てて後押ししており、とくに大企業の人事労務担当者は「実績を作りたい」と考えている人も多いでしょう。
しかしながら、現場の雰囲気はまったく違います。
とくに、製造業は、企業規模に比べて体質が古く、その昔の「24時間働ける」男性社員がまだまだ働き手の基準になっているような印象です。
狭い範囲の例で恐縮ですが、研修に行った先で、「男性の育児休業は取得実績ありますか?」とよくお尋ねしています。しかし、いままで製造業で現在の日本の平均値(2017年度 5.14%)を超える数字を聞いたことはありません。
「もし、男性社員が育児休業を取りたいと申し出たら」という話題になったとき、管理職や経営者から、「やる気あるのか」「ふざけてるんじゃないか」と反応してしまうのでは、という声も実際にお聞きしています。
ちなみに、当事務所に研修をご依頼いただく事業所様は、ブラック企業ではありません。
どの会社でも、現状に問題は当然ありますが、会社として対処したい、解決したい、という意思があり、実際に動いているところばかりです。
それでもこんな状況、ということです。
ひるがえって、実際に育休適齢期の30代男性社員に話を振ってみると、「ほんとうは取りたいが、とてもそんなことを言える雰囲気ではない」「(育児の負担がかかる)ヨメさんには悪いと思っているが、自分ではどうしようもない」という話を何度も聞いています。
管理職や経営陣(多くは50代以上の男性)にこういう話をすると「そうなの?」「ほんとにオトコが育休取りたいと思ってるのか」という反応で、そのギャップはかなりものです。
炎上案件に話を戻しましょう。
今回、特徴的なのは、「社員の妻」から話がでているということです。
入社のときに社員と秘密保持契約を結び、「人事に関する情報」もその範囲に入れ、退職後も守るよう求めている会社は多いはずです。
しかし、社員の家族には、その契約は及びません。
たとえ家族であっても、独立した個人ですから、「おまえの妻(親、兄弟、子供)に秘密を守らせる責任はおまえにある」などというのは、無理な話です。
Twitter 等の SNS で話が広められてしまっても、会社としてはなにもできません。
次に、「育休復帰直後の転勤命令は合法」という情報も、この話の中で広まっているということも、特徴的です。
カネカ炎上に加わっている人たちは、「会社の対応は違法だからひどい」ということで叩いているわけではありません。
「いくら法律の範囲内でも、現実にこんなことをされたらたまらない」という思いが、「ひとこと言いたい」という欲望に火をつけているように見えます。
そこには、「自分もほんとうは育休取りたかった」「子供ができたら育休取りたいけど、無理そう」という若い男性社員の思い、そして、その思いがまったく管理職や経営者に届いていない、という背景があるのです。
カネカは大企業だからこんな騒ぎになっているけど、自分のところのような小さい会社はだいじょうぶ、と、安心していませんか?
もちろん、ネームバリューに違いはありますから、規模の小さい会社だとこれほどの騒ぎにはならないかもしれません。
株式公開もしていなければ、株価にも影響はありません。
でも、多くの会社の悩みはなんでしょうか?
採用ですよね。
まともな応募者は、面接の申込をする前、面接に行く前に、必ず会社名でネット検索します。
小さい会社では情報自体が少ないので、社名を出して内情を書かれていると、それは必ず応募者の目にとまります。
「育休復帰直後に転勤を命じられて辞めざるを得なくなった」
「退職間際の有給申請も拒否された」
と書いてあったら、だれが応募してくるか、ということです。
今回のような案件は、決して「社員にうるさい妻がいたから起こってしまった偶発的な事故」ではありません。
日頃の労務管理と、管理職への教育で防げる内容です。
社内の常識は世間の非常識、という感覚を身につける必要があります。