中野 MIKAKO NAKAMURA の服は、コートを脱ぎクロークに預けた時に大事に扱ってもらえるように考える、ということで縫い目などの裏側の扱いが丁寧に作られています。そこをデザイナーも強く意識しているそうで、大切に扱われる服であり、大切に扱われ慣れている人が着る服だと思いました。たとえば、ブランドを代表するタイトスカートにはスリットがありません。ダーツだけで足さばきが出来るようになっていて、それはつまり軽くあしらわれない服、セクハラを受けない服だと思います。大切に扱われ慣れている人が安心して着られる服ですね。
唯一無二!どこへ行っても大切にされる、日本女性のための究極の服(中野香織,森岡弘) | FRaU
ここで話題になっている MINAKO NAKAMURA というブランドのサイトに行ってみましたが、ブラウス12万円、スカート15万円、コート24万円と、そういう価格帯のお洋服でした。
セクハラの行為者は、相手を選びます。ただし、一般に想像されるような、美人だから、とか、性的魅力があるから、という話ではなく、職場内での立場が自分より下の人、若かったり、キャリアが浅かったり、派遣社員だったり、アルバイト、パートだったり、という相手を選びます。つまり反撃されにくく、泣き寝入りしそうな相手ということですね。
それを考えると、この発言者[1] … Continue readingの言っていることも、あながち間違いではありません。十数万円の洋服を着ている女性は、自分もしくは、配偶者、親がお金持ちでしょう。社会的地位も高いかもしれません。そういう人がセクハラを受けることは少ないでしょう。
ただし、セクハラの場合は、「職場内での優越的な関係を背景とした」[2] … Continue readingという前提が必要なパワハラと違って、自分より優位な相手に対して行われることがあります。職場では、自分より職位が上の人に対して、学校では学生が教師に対して、上の服装の話だと、いかにもお金持ちそうな服装をしている人に対して、セクハラが行われる場合があるということです。
セクハラの定義を確認してみましょう。
事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
男女雇用機会均等法 第11条
太字が通常セクハラの定義と言われる部分です。「性的な言動」を行った側が、「労働者」よりも優位にある、という記述はありません。
先に述べたように、一般的にはセクハラもパワハラと同じく、自分より立場が下の人が対象になります。しかし、相手が女性の場合は、その立場も乗り越えられてしまうことがあるのです。
立場の上下よりも、社会全体に刷り込まれた男性優位の考え方が優先する、ということです。
それを考えると、正直なにを着ようが、どのような立場だろうと、女性であるというだけで、「セクハラを受けない」ということはありえないことがわかります。
また、「セクハラを受けない服」という考え方には、もうひとつ大きな問題があります。
「セクハラを受けない服」があるとしたら「セクハラを受けやすい服」もあるということですよね。服装によって、つまり被害を受けた側がどのように行動するかによって、被害を受けるかどうかが決まる、という考え方です。
とくに、性的被害を受けた人が「露出度が高い、挑発的な服装をしていたから」、という一般的なイメージがあります。
下に引用した記事を読めば、そのような考えは「神話」にすぎないことがわかるでしょう。
「あなたは何を着ていたの?」と題されたこの展覧会では、18の性的暴行被害の体験に焦点をあて、それぞれの被害者が当時着ていた服装を再現・展示した。
「あなたは何を着ていたの?」展の写真を見てみよう。そこに飾られている服は、必ずしも、「露出が多い、セクシーな服装」ではないのだ。
「あの服を着さえしなければ絶対に被害に遭うことはないだとか、単純に服装を変えれば性的暴力を排除できるだとかいった神話を、暴くことができればと思っています」(主催者の言葉)
「レイプされた時、あなたは何を着ていた?」 性暴力と服装の相関関係を問う、アメリカ大学の展覧会 | ハフポスト LIFE
「セクハラを受けない服」。
言いたいことはわからないではないですが、パブ記事のレトリックに簡単に使ってほしい言葉ではないですね。
Footnotes
↑1 | 「中野香織(なかの・かおり) 服飾史家・エッセイスト。母校の東京大学非常勤講師、英国ケンブリッジ大学客員研究員を経て服飾史家として研究・執筆・講演で活躍。2001年~2017年明治大学国際日本学部特任教授。現在、株式会社Kaori Nakano代表取締役として企業のアドバイザーを務めるほか、昭和女子大学客員教授。日本経済新聞、読売新聞ほか新聞・雑誌など連載多数、著書多数。」だそうです。 |
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↑2 | 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」 労働施策総合推進法 第30条の2 |