2025年10月からの最低賃金の大幅な引き上げが発表されました。全国平均で63円または64円のアップ、ついに全都道府県で1,000円を超える水準となる今回の改定は、小売業や介護・飲食業など、多くのパート・アルバイトを雇用する事業主にとって、大きな関心事でしょう。

今後も、最低賃金の上げ幅は現在と同じレベルで続くと予想されています。この人件費の増加を単なる負担増で終わらせず、従業員との信頼構築や制度刷新のきっかけにできるかが、今後の事業継続力を左右します。

この記事では、中小企業の現場感覚に寄り添いつつ、特に「配偶者の扶養内で働くパート従業員」への対応や、社内の賃金バランス見直しの要点、社員のモチベーション維持の方法まで、実務的な視点で解説します。

このブログの最後に、わかりやすく説明した動画がありますので、合わせてご利用ください。

最低賃金の最新動向――2025年10月改定のポイント

今年の最低賃金引き上げは、全国平均で時給1,118円になる見込みとなりました。

全都道府県で1,000円を突破するのは社会的にも大きなインパクトがあります。都道府県別のランク分けでは、Aランク・Bランクは63円、Cランクは64円の引き上げが指標となり、あらゆる業種・業態が直接的な影響を受けることになりました。

そのため、特にパート・アルバイトを多く雇う現場ほど、速やかに新賃金への対応策を検討する必要があります。

扶養の範囲内で働きたいパート労働者の状況

最低賃金が大幅に引き上げられると、パート従業員の働き方にも大きな影響が及びます。

「夫の扶養内で働きたい」という女性パート従業員の希望は依然として非常に根強く、年収を130万円以内に抑えることで、配偶者の社会保険扶養に留まれることを重視しています。所得税上の被扶養配偶者になれる「103万円の壁」よりも、社会保険の被扶養者の条件である「130万円の壁」を超えるかどうかで、手取り額の減少幅が大きいためです。

栃木県の場合で考えると、これまで最低賃金が1,004円だったものが、2025年10月以降は1,068円、実務では1,100円以上の募集が主流になる見込みです。つまり、今までと同じ勤務日数・時間で働いても、あっという間に130万円の壁へ到達するため、管理者も労働者本人も意識改革が迫られています。

具体的に、時給1,100円で年収130万円未満を維持できる最大労働時間は、年間約1,182時間、週では約22.7時間です。

現実には、従業員数51人以上の企業では週20時間が、50人以下の企業では、「週20~22時間程度」が、社会保険の扶養のままで、ぎりぎり働ける水準といえます。そうなると、さらに時給の高い、戦力となる中堅パート従業員ほど「時間を減らしたい」という要望や相談が増えます。企業側は繁忙期やシフトの都合で「もう少し働いて欲しい」と思っても、本人の希望とのズレが生じやすい状況です。

最低賃金の大幅引き上げがもたらす最大の変化は、「壁」までの距離が縮まり、従業員の働き方選択がよりシビアになることです。無策のまま進めば、優秀なパートの勤務日数が減ったり、突然离職されるリスクも高まります。だからこそ、経営側も従業員側も、具体的な数字と現実的なシミュレーションで「納得できる道」を共有する必要があります。

今こそ、面談で「希望のすり合わせ」を

最低賃金が上がる局面は、従業員と腹を割って話し合う絶好のチャンスです。

該当するパート従業員一人ひとりと面談を設け、「現在の働き方で問題ないか」「収入増で扶養の範囲を超えそうだが、それでよいか」「今後、会社の希望するシフトや配属・役割も見直せるか」などを率直に確認しましょう。

いままでは「扶養の範囲内で」と言っていた従業員が、子供の教育費の増大等の家庭内の事情や、今般の賃上げに伴って「扶養を抜けてもいいからもっと稼ぎたい」という意向に変わることもあります。 

会社規模にもよりますが、年収130万円の社会保険加入ラインや、106万円の壁なども分かりやすく説明し、納得したうえで今後の働き方を一緒に考えていく姿勢が重要です。

多様な意向を持つ従業員がいる中で、個別の事情に応じた柔軟な対応が職場全体の安定や定着率アップにもつながります。

賃上げに伴う社内の賃金バランス調整

単純に、法違反にならないように最低賃金の引き上げをそのまま適用すると、ベテランと新人との時給差がほとんどなくなってしまい、「長年頑張っても評価されていない」といった不満が表面化する恐れがあります。

特に多数のパート・アルバイトを雇っている場合は、「誰がどのくらいの賃金にふさわしいか」「役割やスキルに応じた区分設定がなされているか」といった賃金制度や人事評価システムの見直しも検討しましょう。

能力や貢献度に応じた手当・昇給の仕組みを設けたり、パート同士だけでなく正社員とのバランスも確認することが肝心です。

不公平感を未然に防止し、従業員のモチベーションを維持しましょう。

これからのパート雇用管理――攻めと守りの両立を

これからのパート雇用管理は単なる対策ではなく、今後の人材戦略そのものです。

賃上げの機会を、新たな組織づくりや「働き方改革」のスタート地点とみなしましょう。

企業は従業員との対話を増やし、これからの希望や不安、キャリアについて率直に語り合う土壌を育てるべきです。そのプロセスの中で、全従業員に「企業としてどのように働く人を評価し支援したいか」というメッセージを伝え、求める働き方について一緒に考える場を作ることで、人材の定着や意欲の向上が期待できます。

ジョブローテーションなどで柔軟に働く機会を作りつつ、評価・福利厚生・やりがいといった賃金以外の魅力要素も意識的に強化していくことが、長期的に「選ばれる職場」づくりにつながります。

ここ数年続いている最低賃金の大幅な引き上げは、すべての雇用現場にとって大きな転換期です。単なるコストアップと捉えず、従業員の働き方や会社の人材戦略を見直す好機と考え、丁寧な面談や賃金制度の調整を進めましょう。

「扶養の壁」に悩むパート従業員だけでなく、全従業員がイキイキと働ける環境を整えることが、事業の安定と発展に不可欠です。

社会保険労務士として、最新の法改正動向や事業場ごとの悩みに寄り添い、具体策・ご相談のサポートを行ってまいります。お気軽にご相談ください