「就活の相談に乗るよ」
その一言から、ある就活生の悲劇は始まりました。

2024年11月末、大手企業の社員(29歳)は、インターンシップで知り合った女子大学生を「就活の相談に乗る」と誘い出し、喫茶店での面談後、深夜まで居酒屋で飲酒。その後、学生の自宅に押し入り、性的暴行を加えたとして逮捕されました。
被害に遭った学生は「帰って欲しかったが、志望する会社に勤務していて就職活動の相談もしていたので、断りにくかった」と話しています。

この事件は、就活生が置かれている立場の弱さと、それを利用した悪質な犯罪の典型例といえます。

深刻な就活ハラスメントの実態

厚生労働省の調査によると、インターンシップ中にセクハラを経験した学生は30.1%、インターンシップ以外の就職活動中に経験した学生は31.9%にも上ります。

受けた就活等セクハラの内容としては、「性的な冗談やからかい」(38.2%)が最も多く、次いで「食事やデートへの執拗な誘い」(35.1%)、「不必要な身体への接触」(27.2%)の順になっています。

特に問題なのは、被害者の多くが就職活動への意欲が減退しただけでなく、「不安や怒り」を感じ、中には不眠や通院に至るケースもあることです。

安全な就活のために

もちろん、就活ハラスメントを防ぐための対策は企業が責任をもって行うべきもので、厚生労働省もさまざまな後押しをしています。

とはいっても、不心得者を完全になくすことは難しく、就活生の側も自衛策を取らざるをえません。
就活ハラスメントに遭わない、遭いそうになっても早期にやめさせるために、下のような対策を知っておきましょう。

1. 危険シグナルの早期発見

就活ハラスメントは、多くの場合、些細な逸脱行為から始まります。
最も警戒すべきは、企業の採用プロセスから外れた「個人的な接触」の要求です。
正規の選考とは異なる時間帯での面談依頼や、個人的な連絡先の交換要請は、重大なハラスメントの前触れかもしれません。

そのような場合は、下のように対応しましょう。

  • 個人連絡先の要求:LINE等、学校アカウントのメール以外の連絡手段を求められても断る
  • 時間外・個室面接:夕方6時以降の面接や個室での1対1面談は原則拒否
  • 選考外の質問:家族構成・交際状況・容姿に関する質問は回答不要

2. 記録の徹底管理

まず重要なのは、面接やインターンシップの記録を詳細に残すことです。
日時、場所、対応者名、そして違和感を覚えた言動があれば、その内容も含めてメモに残しておきましょう。
スマートフォンのメモ機能やカレンダーアプリを活用すれば、簡単に記録を残すことができます。

具体的には下のような方法で記録しましょう。

  1. 面接日程は必ずカレンダーに記入(企業名・担当者名・時間帯)
  2. 不審なメッセージはスクリーンショットで保存
  3. 音声録音機能を常時オンに(スマホのボイスメモアプリ推奨)

3. 断り方のフレーズ集

不適切な要求を受けた際の対応も重要です。
「申し訳ありませんが、本日は予定がございますので」「選考に関係する内容でお願いできますでしょうか」といった、丁寧かつ明確な断り方を準備しておきましょう。
このような返答は、相手を刺激することなく、自分の意思を伝えることができます。

シチュエーション適切な返答例
私的な質問「選考に関係する内容でお願いします」
夜間面接「規定時間外のため日程調整可能ですか」
飲み会誘い「学業優先のため参加できません」
SNS追加要求「連絡は公式チャネルでお願いします」

4. オンライン面接対策

コロナ禍以降、一般的となったオンライン面接では、新たな形のハラスメントにも注意が必要です。
画面の向こうという安心感から、より踏み込んだ質問をされることもあります。

下の対策を覚えておきましょう。

  • 背景はバーチャル背景を使用して、個人情報が写り込まないようにする
  • 全身映す要求には、「選考に関係ありません」と拒否するか、「カメラの調子が悪いようです」と伝える
  • 録画許可を得ずに面接を録画する企業には即座に中止を要求してよい

5. 緊急時の対応フロー

不適切な状況に遭遇した場合、まずは、自分の身の安全を優先しましょう。

そして、一人で抱え込まないことが大切です。
大学のキャリアセンターや就職支援室に相談することで、適切なアドバイスを得ることができます。
また、労働局の相談窓口も利用できます。
ただし、SNSでの情報発信は慎重に行う必要があります。感情的な投稿は、かえって状況を複雑にする可能性があります。
まずは信頼できる相談窓口に連絡を取りましょう。

被害を受けてしまった場合は、次のようなフローが考えられます。

  1. その場で「不快です」と意思表示
  2. 大学キャリアセンターに24時間以内に報告
  3. 労働局相談窓口へ証拠添付で通報
  4. SNSでの情報拡散は控え、正式な手続きを優先

おわりに

就活ハラスメントは決して被害者に落ち度があって起こるものではありません。
上に書いたことは、あくまで知っておいたほうがいいことで、このように対応したから決して被害に遭わないわけではありませんし、「自分の対応が悪かったから被害に遭ってしまった」と自分を責める必要はありません。

不適切な要求や行為に対して「おかしい」と感じる感覚を大切にし、一人で抱え込まず、大学のキャリアセンターや専門機関に相談することが重要です。

あなたには、安全に、自分らしく就職活動を行う権利があります。
この記事で紹介した対策を実践し、自分を守りながら就職活動を進めていってください。