3月16日に愛知県でおきた人質立てこもり事件ですが、続報を見ると、派遣のトラブルが原因になっているようです。

関係者によりますと容疑者はトラックの運転手をしていましたが、派遣先から「言う事をきかない」「クビにしろ」と派遣会社に連絡が来ました。

会社側が断ると、派遣先が仕事内容を変更したため容疑者が「納得がいかない」などと周囲に漏らし、その後、出勤しなくなったということです。

(容疑者名は引用者が削除)

「不当な解雇に腹が立った…」トラック運転手だった51歳の包丁男立てこもり事件 愛知県安城市(CBCテレビ) – Yahoo!ニュース

短い記述ですが、ここから推測できることを一般論として考えてみます。
実際の事件はここに書いてないこともいろいろあったでしょうし、当方の推測があたっているかどうかはわかりません。

派遣先から「言う事をきかない」「クビにしろ」と派遣会社に連絡が来た(派遣契約解除の要求)

派遣契約は、基本的には、途中で解約はできません。

また、派遣先が派遣労働者に対して「思うように働かない」というのはよくあることなのですが、原因が労働者の責任、つまり、反抗的で業務命令をきかなかったり、能力不足だということもあります。

しかし、よく話を聞いてみると、派遣先でパワハラの被害者になっていたり、契約書に記載の業務以外のことをやらせていたり、ということもあるのです。

もちろん、双方それぞれに問題があることもあります。

派遣元は派遣先の解除要求を断った

派遣元はこのような場合、派遣先、派遣労働者の双方から話を聞いて、「やむをえない理由があるか」「契約書の解除要件に当たる理由があるか」ということから判断します。

正当な理由がなければ「途中解除はできません」と断ることになります。

理由によっては、あるいは、派遣元と派遣先の力関係によっては、派遣元が途中解除に応じることもありますが、派遣先はなにもしなくていいわけではなく、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」により、次のような義務が定められています。

  • 派遣先の関連会社等、代わりの就業先を斡旋する。
  • 派遣契約の途中解除により派遣社員への休業手当が発生した場合、支払義務者である派遣元に対して、休業手当相当額以上の損害賠償を行う。
  • 派遣契約の途中解除により派遣元が派遣社員を解雇せざるを得ず、派遣社員への解雇予告手当が発生した場合、支払義務者である派遣元に対して、解雇予告手当相当額以上の額の損害賠償を行う。
  • 派遣元から求めがあった場合、当該派遣契約の途中解除理由の明示を行う。

このような条件を派遣先に伝えて「それはできない」と言われたら、やはり「契約解除自体できません」という回答になるでしょう。

派遣先が仕事内容を変更した

派遣契約は、業務内容をあらかじめ特定して契約します。
派遣先が業務内容を勝手に変更することはできません。

もちろん、派遣元・派遣労働者と話し合い、双方納得の上であれば変更はできます。
記事を見ると、「鈴木容疑者が「納得がいかない」などと周囲に漏らし」とあるところから、労働者の同意を得ていなかったか、形式的に同意をとったが本心は違ったということでしょう。

派遣労働者が出勤しなくなった

もし無断欠勤ということでしたら、今度こそ派遣契約解除の正当な理由になります。
しかし、ここまでの経緯を考えると、「派遣先が出勤しなくなるよう追い込んだ」という可能性もかなりあるようですね。

そして、この話の結末は、立てこもり事件という衝撃的な犯罪です。
どんな理由があろうと、このような暴力や犯罪は許されません。
しかし、もともとのトラブルがきちんとルール通りに処理され、本人にも説明がしっかりされていたら、ここまでになってしまったかな、ということは思わずにいられません。

派遣労働者を迎え入れるには、法で定められたさまざまなルールがあります。
派遣先は「よくわからないけど、派遣元がわかってるから」ですますことも多いようですが、少なくとも、派遣労働者について「気に入らなければいつでも切れる」という考えは、トラブルの元です。

派遣契約を結んだが、派遣元がいろいろ言ってきてめんどうだし、ほんとうにそれが正しいのかどうかわからない。
こんなふうに思ったら、ぜひ経験のある社労士にご相談ください。