『アナと雪の女王』を見てきました。松たか子と神田沙也加の歌唱がすばらしいと聞いていたので、吹き替え版です。

確かに音楽も気持よく聞けたし、映像も美しく、劇場に出かけたかいがありました。

しかし、ストーリーとしては、かなりもやっとするシロモノでした。

(ネタバレしていますので、未見の方は、ここから先はご自分の責任でお読みください。)

舞台は、魔法の力が異端として排除されるキリスト教的価値観の世界のようです。

女王である姉は、雪や氷をあやつる魔法の力を持っているのに、小さいころに誤って妹を殺しかけたトラウマに苦しみ、力を隠そうとして閉じこもって過ごします。自分の身内から湧き出す大きな才能を抑えこもうとするのは、とても苦痛なことでしょう。その力を否定することは、自分自身を否定すること。魔力のすばらしさや、自分の持っている強みには思い至らず、人前に出ることに恐怖心をもっています。

妹の方は、姉に遊んでもらえないさびしさや、両親を失った痛みはあったものの、かなりお気楽に育ち、戴冠式の日にも姉の不安や緊張にはまったく思い至らず、浮かれるばかり。

きょう会ったばかりの青年に夢中になり、ひさしぶりに顔を合わせた姉のことは忘れていたのに、王国全部を冬にしてしまい、雪の山に逃げ出した姉を追いかけるときに言った言葉が、「こんなこと隠してる方も悪いわよね」(記憶で書いているのでセリフは正確ではありません)

姉の気持ちにはまったく興味がないのだなぁと、見ていてひやっとしました。

そして、王宮を捨て、雪の山中にわけいった姉が歌う曲が、この映画の主題歌になっていて、とても印象的です。ストーリー的には、さっきまでひどいショックを受けていたのに、急に自信満々になるのが唐突な感じですが。

いままで隠していた魔力を思うまま発揮し、自在に操れる爽快さ。否定してきた自分自身を解放する瞬間です。

ところが、追いかけてきた妹の希望は「王国を夏に戻してほしい」ということです。迷惑だからなんとかしてよ、というわけで、やっぱり姉のことはまったく考えていません。

結局、「真実の愛」にめざめた姉は、王国を夏に戻し、お城に戻ってめでたしめでたしとなります。そして、魔法の力は、王国の民を楽しませるために小出しにして使うだけ。

弓矢や刀で戦っている世界で、これだけの魔力があれば、世界征服もできると思うのですが、なにせこの映画は女の子の夢の世界なので、登場人物はだれも軍事力には興味がありません。

なんだか、自分の才能にめざめた長女が、家を継ぐというプレッシャーに対抗してやっと外に出たのに、「家族の愛」に負けて引き戻され、才能を生かし切れずに終わった物語、というふうにしか見えませんでした。

自由を歌い上げたあの曲の精神はどこにいったのやら。姉娘は、刷り込まれた気弱さを抱え、自己中心的な妹に振り回されつつ、これからも女王として優等生的に生きていくのでしょう。