「同じ立場の同僚から嫌がらせを受けている」「性格が強い人に押し切られてつらい」、こうした声は多くの職場で聞かれます。しかし、パワハラの成立には「優位性を背景にした言動」という要件があり、同僚同士の場合はその判断が難しいのが現実です。

そこで今回は、同僚間のパワハラにおける優位性とは何か、また、性格や体格の差だけでは優位性が認められない場合に会社がどのように対応すべきか、実務の視点から詳しく解説します。

なお、ここでは「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「労働者の就業環境を害する」――つまり、パワハラの2つ目、3つ目の要件は該当している前提で、優位性にフォーカスします。

同僚間で優位性が認められるケース

パワハラの要件にある優位性とは、単なる職務上の地位だけでなく、職場におけるさまざまな力関係を含みます。上司と部下だけでなく、同僚間でも優位性が認められる場合があります。

そのような同僚間で優位性が認められる主なパターンについて、具体的に解説します。

業務上の知識や経験、スキルの差

業務遂行に必要な知識や経験、スキルを持つ同僚が、その立場を利用して他の同僚に対し不利益を与える場合、優位性が認められます。

たとえば、業務を進める上で不可欠な情報やノウハウを持つ同僚が、意図的に情報提供を遅らせたり、必要な資料を渡さないことで相手を孤立させるケースです。こうした行為は、業務上の「過大な要求」や「人間関係からの切り離し」に該当し、優位性を背景にしたパワハラとされます。

集団と個人

複数人の同僚が結託し、特定の同僚を排除したり無視したりする場合、集団側に優位性が認められます。

たとえば、グループで特定の同僚をLINEグループから外す、会議や飲み会から排除する、日常的に無視や悪口を言うなどの行為です。集団による圧力は、個人が抵抗や拒絶をしにくい状況を生み出し、明確な力関係を形成します。

勤続年数や社歴、社内での影響力の差

同じ職位であっても、勤続年数が長い、または社内での影響力が強い同僚が、新人や異動してきたばかりの同僚に対して圧力をかけたり、業務上不利な扱いをする場合も優位性が認められることがあります。

たとえば、古参社員が「現場の慣習」などを理由に、新人に過剰な雑務や掃除を強要するケースなどが該当します。

業務分担や役割による優位性

業務上、特定の同僚の協力が不可欠な場合、その同僚が協力を拒否したり、必要な業務情報を意図的に渡さないことで優位性を発揮するケースもあります。

プロジェクトのキーパーソンが、気に入らない同僚にだけ重要な資料を渡さない、業務連絡をしないなどの行為がこれにあたります。

雇用形態の違い

同じ職場であっても、正社員と契約社員、派遣社員など雇用形態に差がある場合、立場の違いを背景に優位性を持つケースもあります。

たとえば、正社員の同僚が契約社員や派遣社員に対し、業務を一方的に押し付けるといった行為です。

身体的特徴や腕力の差

体格や腕力の差がある場合、特に威圧的な態度や暴力的な言動が伴えば、身体的な優位性が認められることがあります。

たとえば、体格差を利用して威圧的な態度を取る、物理的な距離を詰めて圧力をかけるなどです。ただし、単に体格差があるだけでは優位性とされにくく、言動や状況によって判断されます。

性格や体格の差だけでは優位性があると認められない

一方で、性格の強弱や体格の差だけでは、原則として優位性があるとは認められません。

たとえば、単に「性格がきつい」「気が弱い」「体格が大きい」といった主観的な要素だけでは、パワハラの成立要件である優位性に該当しないというのが判例の基本的な考え方です。

ただし、性格や体格の差が、集団性や業務上の関係性と結びつき、実質的な力関係を生み出している場合は、例外的に優位性が認められることもあります。

しかし、こうしたケースはあくまで例外であり、ほとんどの場合は性格の強弱や体格の差だけでパワハラとは認定されません。

パワハラ不成立の場合、会社が取るべき対応

それでは、他のふたつの要件(「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「労働者の就業環境を害する」)は該当していても優位性が認められず、パワハラとしては成立しない場合、会社はどのように対応すべきでしょうか。

ここで重要なのは、「パワハラに該当しないから何もしなくてよい」という考え方を取らないことです。たとえ法的なパワハラに該当しなくても、職場の人間関係トラブルや心理的負担が放置されると、生産性の低下や職場全体の雰囲気悪化、さらには離職やメンタルヘルス不調といった深刻な問題につながる可能性があります。

誠実に調査する

まず、会社としては相談があった時点で、事実関係を丁寧に調査し、当事者双方や周囲の同僚からも事情を聴取します。

そのうえで、パワハラには該当しない場合、その理由を相談者に分かりやすく説明し、納得感を持ってもらうことが大切です。このプロセスを丁寧に行うことで、相談者の不信感や不満を和らげることができます。

相談者への心理的なサポート

また、相談者が心理的なストレスや不安を抱えている場合には、産業医やカウンセラーによる面談を案内したり、必要に応じて一時的な業務負担の軽減や執務場所の分離など、柔軟な配慮を検討します。被害を訴えた人が安心して働ける環境を整えることは、会社の大切な責任です。

相手方に威圧的な言動等があれば注意する

一方、相手方の言動に業務上不適切な点や、職場の雰囲気を悪化させるような要素が認められる場合には、個別に注意や指導を行い、今後の言動に注意するよう促します。特に、感情的な言動や威圧的な態度が見られる場合は、コミュニケーション研修やアンガーマネジメントの受講を促すなど、再発防止のための教育的な対応も有効です。

職場全体のコミュニケーションの改善

さらに、職場全体でのコミュニケーション改善も重要です。トラブルの背景にコミュニケーション不足や相互理解の欠如がある場合には、雑談しやすい雰囲気づくりや、職場全体を対象としたコミュニケーション研修、心理的安全性を高める取り組みを行うことが、根本的な解決につながります。

事案終了後のフォロー

対応の経緯は必ず記録に残し、今後同様の相談があった場合の参考とします。

また、相談者には「今後も困ったことがあればいつでも相談できる」ことを伝え、孤立させない体制を整えておくことが大切です。もし今後、状況が変化したり、より深刻な言動が発生した場合には、再度調査や対応を行う旨も伝えておきましょう。

まとめ

同僚間のパワハラは、優位性の有無が判断の大きなポイントとなります。

業務上の知識や経験、集団性、社歴や影響力、業務分担や雇用形態、身体的特徴など、さまざまな要素が複合的に絡み合うことで、同僚間でも優位性が認められる場合があります。

一方で、性格の強弱や体格の差だけでは原則としてパワハラは成立しません。

たとえ法的なパワハラに該当しない場合でも、会社は職場環境の維持・改善に向けて積極的な対応を取る必要があります。相談者への丁寧な説明と心理的サポート、相手方への指導、職場全体のコミュニケーション改善など、多面的なアプローチが求められます。

「パワハラでなければ放置してよい」ではなく、すべての従業員が安心して働ける職場づくりのために、会社としてできることを一歩ずつ積み重ねていきましょう。