シャトレーゼを書類送検 労働基準法違反の疑い 甲府労基署 山梨(YBS山梨放送) – Yahoo!ニュース

2025年5月22日、菓子メーカーのシャトレーゼが甲府労働基準監督署により労働基準法違反の疑いで書類送検されました。白州工場では半年以上にわたり月45時間を超える残業を、豊富工場では月100時間を超える残業をさせていた疑いです。

このニュースを見て、「月45時間の残業?うちの会社でもやってるよ」と思われた皆さん、その感覚、実は非常に危険です。

2019年の働き方改革関連法により、残業時間には厳格な上限が設けられ、これを超えた場合には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が企業に科されるようになりました。つまり、「月45時間以上の残業がしょっちゅうある」という状況は、法的に完全にアウトなのです。

現在の労働時間規制と、それを守らなかった場合の影響についてお伝えしましょう。

36協定の上限規制を正しく理解する

労働基準法では、36協定を締結した場合でも原則として月45時間・年360時間を超える残業は認められません。この上限を超えることができるのは、特別条項付き36協定を締結し、かつ以下の条件を満たす場合のみです。

  • 月45時間を超える残業は年6回まで
  • 臨時的・特別な事情がある場合のみ
  • 年間720時間以内
  • 月100時間未満(休日労働含む)
  • 2〜6ヶ月平均で80時間以内(休日労働含む)

重要なのは、「臨時的・特別な事情」とは決算業務や納期のひっ迫、大規模なクレーム対応など、突発的で一時的な事情を指すことです。日常的な業務量の多さは、この条件に該当しません。

是正勧告から書類送検に至る段階的プロセス

とはいえ、時間外労働の上限規制を守らないと、必ず書類送検されてしまうかというと、そうではありません。

労働基準監督署は法違反が発覚しても、いきなり書類送検を行うわけではないのです。おそらくシャトレーゼでも、今回報道される以前に労働基準監督署と下記のようなやりとりがあったはずです。

第1段階:是正勧告
労働基準監督署の調査で法令違反が発見されると、まず「是正勧告書」が交付されます。これは行政指導であり、法的強制力はありませんが、指定期日までに改善し「是正報告書」を提出する必要があります。

第2段階:再監督
是正期限後に実施状況の確認が行われます。完全是正率は、たとえば大阪労働局では45%程度に留まっており、多くの企業で改善が不十分な状況が続いています。

第3段階:書類送検
是正勧告を無視したり、虚偽の報告をしたりした場合、労働基準監督官が司法警察権を行使し、検察庁に書類送検します。厚生労働省は「躊躇なく司法警察権限を行使する」方針を明確にしています。

シャトレーゼが示すコンプライアンス違反の連鎖

シャトレーゼの問題は労働時間違反だけではありません。同社は短期間で複数の法令違反を犯しています。

  1. 下請法違反
    2025年3月27日、公正取引委員会から是正勧告を受けました。下請け業者に発注した包装資材約2,383万円相当を正当な理由なく受け取らず、無償で保管させていました
  2. 外国人労働者への休業手当未払い
    2025年5月2日、出入国在留管理庁から改善命令を受けました。特定技能の在留資格を持つ外国人労働者約160人に対し、総額約4,100万円の休業手当を支払っていませんでした。

これに、今回の労働基準法違反が続いたわけです。ひとつだけでも経営に悪影響がありますが、下請け業者、外国人労働者、さらに自社社員に対して、法令を無視して一方的に会社の都合を押し付けていたと報道されたわけですから、影響は深刻です。

一つの法令違反が発覚すると、他の違反も次々と明るみに出る負の連鎖といえるかもしれません。

書類送検による企業への深刻な影響

今回のように労働基準法違反で書類送検されると、下記のような深刻な影響が待ち受けています。

・刑事罰のリスク
労働基準法違反で6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

・社会的信用の失墜
書類送検は必ずと言っていいほど大々的に報道されます。シャトレーゼの事例でも、複数のメディアで報道され、企業の社会的信用に大きな傷がつきました。

・人材確保への悪影響
労働法違反企業として公表されれば、優秀な人材が集まらなくなる可能性があります。

恒常的な長時間労働を改善するために

月45時間の残業を具体的にイメージしてみましょう。週5日勤務で月23日出勤の場合、1日あたり約2時間の残業を毎日続ける計算になります。9時〜17時勤務なら、毎日19時〜19時半まで働くことになります。

多くの職場では、恒常的に仕事の量が多すぎるために残業が発生し、特定の人に業務が集中している状況があります。これは人員配置や業務分担の問題であり、個人の努力だけでは解決できません。

このような状況から抜け出すにはどうしたらよいのでしょうか。

経営層への働きかけ

まずは経営層に法的リスクを正しく理解してもらうことが重要です。シャトレーゼの事例が示すように、是正勧告を軽視すれば最終的に書類送検され、企業の信用に取り返しのつかない傷がつきます。

業務の棚卸しと負担の明確化

各部署で業務分掌を明確にし、誰がどの業務をどれくらいの時間で行っているかを可視化しましょう。これにより、業務の偏りや非効率な作業を発見できます。

コミュニケーションの改善

上司と部下が気軽に相談できる関係性を築くことで、業務量の調整や優先順位の見直しが可能になります。雑談ができない関係では、残業の相談もできませんし、法令違反の兆候も見逃してしまいます。

労働時間管理のしくみを作る

次のような取組を日常的に行うことで、違法な長時間労働を防ぐことができます。

  • 定期的な法令遵守状況の点検
  • 外部専門家による定期監査
  • 労務管理システムの導入(リアルタイムでの時間外・休日労働時間の管理)

長時間労働対策は健全な企業経営のための投資

「月45時間の残業なんて当たり前」という感覚は、もはや通用しない時代になりました。シャトレーゼの書類送検は、この認識がいかに危険かを示す典型例です。企業には法令遵守の義務があり、従業員には健康で働きやすい環境で働く権利があります。

長時間労働問題への対処は、単なるコスト削減ではなく、法的リスクの回避と従業員の健康保という重要な投資です。

従業員一人ひとりの人格を尊重し、良いコミュニケーションを通じて働きやすい職場環境を実現することが、結果として企業の持続的な成長と社会的信頼の確保につながるのです。