
その一言、大丈夫?
「注文した商品が違っていたのに、謝ってもらえなかった。」
「コールセンターに電話したら、待たされたうえに対応がいまいちだった。」
こんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。お金を払っている以上、私たち消費者にはサービスを受ける権利があります。だからこそ、不満を感じた時には、その気持ちを伝えたいと思うのは当然のことです。
ただ、その伝え方を一歩間違えると「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と受け取られてしまうことがあります。
特に最近では、事業者側も従業員の安全を守るためにカスハラ対応マニュアルを整備し、従来よりも格段に早い段階で警察へ通報するケースが増えていることが注目されています。怒鳴ったり、相手を威嚇したりするだけでも業務妨害や脅迫とみなされる危険があります。つまり、感情的な一言が思わぬ警察沙汰につながる時代になっているのです。
この記事では、意見はしっかり伝えつつ、カスハラと誤解されないようにする方法を、具体例を交えてご紹介します。
カスハラとは何か?
厚生労働省によると、カスハラとは「顧客や取引先からの、要求の妥当性を超えた言動で、労働者に苦痛を与える行為」とされています。典型例としては次のようなものが挙げられます。
- 長時間にわたるクレーム電話で担当者を拘束する
- 大声で威嚇する、暴言を吐く
- 土下座など過剰な謝罪を強要する
- 製品の不具合を理由に過剰な金品を要求する
もちろん、消費者の意見や改善要望そのものは大切な声です。問題は伝え方です。正しく伝えれば受け止めてもらえますが、不適切な表現はカスハラと判断されるおそれがあります。
事例①:レストランでの対応
NG例
レストランで注文した料理が冷めていた。苛立った客が店員に向かって、
「こんな料理出すなんてありえないだろ!責任者を今すぐ呼べ!」と怒鳴りつけた。
→ 店員は萎縮し、謝罪もぎこちなくなる。その結果、客は「真剣に対応してもらえなかった」とさらに不信感を募らせた。さらに、最近の飲食店では「大声による威嚇」は警察に通報するマニュアルを持っている場合があり、こうした行動は即通報されるリスクがある。
OK例
同じ状況で、
「すみません、少し料理が冷めているようなのですが、温め直してもらえますか?」
と冷静に伝えた。
→ 店員はすぐに対応し、少し待たされたが温かい料理が提供された。
事例②:通販でのトラブル
オンラインショップで購入した商品が破損して届いたケース。
NG例
「お前らの管理はどうなっているんだ!二度と利用しない!」と感情をぶつけ、相手を責め立てる。
→ 受けた担当者は萎縮するだけで、解決策の提示が遅れる。場合によっては「今後の取引停止」という結論になることも。
OK例
「商品が破損して届いてしまい、残念に思っています。交換方法を教えてもらえますか?」
→ 相手は状況を確認しやすく、速やかに交換や返金などの対応をとることができる。結果的にスムーズでストレスの少ない解決につながる。
カスハラにならないための3つのポイント
店舗等の対応に不満があるとき、カスハラにならずに伝えるための具体的なポイントを3つご紹介しましょう。
1. 感情と要望を切り分ける
頭に血がのぼった状態で電話や店頭対応をすると、つい怒りの感情をそのままぶつけてしまいがちです。
ですが、企業や窓口の担当者が対応できるのは事実と要望です。
- 感情:「頭にきた!ふざけるな!」
- 要望:「返品したい」「交換してほしい」「謝罪がほしい」
この二つを区別し、自分が本当にしてほしいことを言葉にして伝えるのが解決への近道です。
2. 「Iメッセージ」を使う
「あなたが悪い!」と相手を責めるよりも、
「私は○○だと感じました」「私は△△してもらえると助かります」と、自分を主語にした伝え方(Iメッセージ)が有効です。
相手を攻撃するのではなく、自分の要望として受け止めてもらえるため、状況がスムーズに進みやすくなります。
3. 改善のためのヒントを添える
ただ不満を伝えるだけでなく、改善につながる建設的な提案を加えると好印象です。
例:「待ち時間が長かったのは残念ですが、予約制などがあればもっと利用しやすいと思いました。」
こうしたフィードバックは企業にとって貴重な情報源になります。お互いにプラスの関係を築けるきっかけになるのです。
「言いづらい」と感じたときの工夫
「クレームを言うなんて気が引ける」と思う人も多いと思います。そんなときには以下の工夫が役立ちます。
- 電話よりもメールや問い合わせフォームを使う(冷静に文章化しやすい)。
- 一度メモに整理してから伝える。
- 「相手に協力してもらう」というスタンスで、依頼口調にする。
これだけで、事業者側も落ち着いて対応でき、結果的に良い解決につながります。
伝える力があなたの印象を変える
不満や意見を伝えることは、消費者として当然の権利です。
しかしその伝え方が不適切であれば、相手に伝わらないどころかカスハラと受け取られる危険性があります。
さらに現在は、従業員を守る観点から事業者が警察への早期通報に踏み切るケースも増えており、怒声や威嚇的な態度が思わぬ法的トラブルへ発展することもあります。だからこそ、怒りをそのままぶつけるのではなく、自分が本当に望む要望を整理し、相手にとって受け入れやすい形で伝えることが大切です。
自分の気持ちを冷静に伝える力は、単なるマナーではありません。それは快適なサービス利用を叶える実践的なスキルであり、同時に自分自身を不要なトラブルから守る力でもあるのです。これからの時代、強い言葉よりも伝え方の工夫こそが、あなたの満足度と安心を高めてくれるはずです。