アラジン|映画|ディズニー公式より
実写版『アラジン』を見ました。
アニメ版の名曲の数々はそのままだったのですが、とくに印象に残ったのが、ジャスミン姫が歌うこの “Speechless” という新曲です。
字幕に「女の意見は不要 そんな時代は終わる」と出ていて、おっ、と思ったのですが、英語の歌詞はこうです。なるほど、うまい訳ですね。
Stay in your place
Better seen and not heard
But now that story is ending
ディズニープリンセスが時代に合わせてどんどんそのキャラクターを更新しているというのはよく言われるところです。
とくにこの『アラジン』は、オリジナルのアニメ版が1992年で、27年の間にジャスミンという同じキャラクターがどう変わっているかがはっきり見えます。
アニメ版のほうを見たのはずいぶん前で、記憶が薄れていたので、比較のために Amazon Prime Video でレンタルしてみました。
ついでに、1948年に菊池寛が訳した『アラビヤンナイトーアラジンとふしぎなランプ』が青空文庫にあるので、それも見てみましょう。
なお、ここから先は新作のネタバレが含まれていますので、まだ見ていない方は読むかどうかはご自分で選択してください。
さて、1948年の『アラビヤンナイト』では、どんな描写になっているのでしょう。
まず、「お姫さま」には名前がありません。ただ「お姫さま」と呼ばれています。
ジャスミンというのは、ディズニーアニメでつけられた名前ですね。
とても美しく、アラジンが夢中になったとあります。
その後、お姫さまはなにをするかというと、おばけに連れ出されて涙をぽろぽろこぼして泣き、魔法使いにだまされてランプを取られてしまい、アラジンの差金で魔法使いをだまして毒を飲ませ、さらにまた別の魔法使にだまされます。
結婚を決めるのは王様で、それについてとくに自分の意見はなく、ゆいいつお姫さまの意思が見えるのはこの1行だけです。
「お姫さまはアラジンをごらんになって、アラジンと仲よくしようとお思いになりました」
伝統的なお姫さまといえば、こんなものかという感じですが、はっきりいってイケてないキャラクターです。
美貌で王の娘という以外、これといってとりえがありません。
いや、この時代の女性観では、美貌で王の娘であれば、それ以外なにが必要か、というところでしょう。
こちらは名前もあり、自分の意思もあります。
愛のない結婚はイヤだとはっきり言い、求婚しに来たよその国の王子を、ペットの虎を使って追い出してしまいます。
王子の姿になったアラジンに気づき、うまくひっかけてほんとうのことを言わせるあたり、頭もなかなかよさそうです。
しかし、だれかと結婚するということについては、とくに異論はなく、結婚して相手が王になるのは、当然だと思っています。
魔法使いにさらわれてしまった後、アラジンが来たのに気づいて魔法使いをだます展開は元の物語を踏襲していますが、アラジンに細かく指示されたわけではなく、だます方法(色仕掛けですけどね!)はジャスミンが自分でとっさに考えたことになっています。
城に閉じ込められて育ち、虎以外に友だちもいません。
そして、今回のジャスミンはいままでとかなり違います。
おとぎ話や子供向けのアニメではなく実写ですから、人間としての厚みが、前よりも描かれています。
いままでなかった侍女というキャラクターが出てきて、女性同士の友情が描かれます。
魔法使いを色仕掛けでだます場面はありません。
ただ、父王を苦しめる魔法使いに対し、それをやめさせるために「あなたと結婚します」と叫ぶシーンはあります。
また、ここがいちばん重要な変更だと思いますが、将来自分が王国を継ぎ、国民のための政治をしたいと考え、それに向けて勉強もしています。
しかし、父である国王には「女が王になった例は2000年間ない」と言われてしまいます。
“Speechless” という曲は、魔法使いに囚われたシーンで歌うのですが、内容的にはそのような自分の境遇に向けたものですね。
「レリゴー」ほど話題になっていませんが、これもスタンダードになりそうな名曲です。
そして、魔法使いがやっつけられて大団円となるラストでは、ジャスミン本人が王になるのです。
ディズニーが描く現代のプリンセスは、自分の結婚だけでなく、社会や政治を自らのものととらえています。
ぐっと視野が広がっていますね。
そして、古い体制の象徴である王も、娘の意思を認める結末、これも新しい。
これからおとなになる少年少女たちは、こういう物語で育つのです。
30年近く前のものどころか、戦後すぐの価値観しかない人たちは、この映画を見るべきでしょう。
画面は絢爛豪華、青いウィル・スミスもとても魅力的なので、おすすめですよ。