労働時間は丸めて切り捨ててはいけない

大手回転ずしチェーン「スシロー」を運営するあきんどスシロー(大阪府吹田市)が、過去に5分未満の労働時間を切り捨ててその分の賃金を支払っていなかったとして、中央労働基準監督署(東京都文京区)から是正勧告を受けていたことが11日、分かった。

スシロー運営会社に是正勧告 5分未満の賃金未払いで―労基署:時事ドットコム

大手企業で、いまだにこの問題が出てくるとは、驚きです。
といっても、すかいらーくが労働時間切り捨てで行政指導を受けたのは2022年で記憶に新しいところですし、セブンイレブンも過去に同様の問題が浮上しています。

筆者が社労士になったばかりの25年前、顧問先企業の担当者に「労働時間は1分単位で集計し、切り捨ててはいけません」と話して、「そんなわけない、どこでも15分とか30分単位で集計して、端数は切り捨てている」と言われ、信じてもらえなかったという苦い思い出があります。
この報道を見ると、それは決して昔話ではなく、いまだにそのような運用をしている会社も多数あることが類推できます。

労働時間は、5分、15分、30分、どんな単位であろうとも、切り捨ててはいけません。
基本は、1分単位です。

時給者の給与計算がめんどうだから、計算しやすく1日の労働時間の数字を丸めたい、というときには、「切り上げる(労働者に有利なように、実際よりも労働時間を多くカウントする)」しかありません。

労働時間を丸めて切り捨て続けるとなにが起こるか

ただし、時間外・休日・深夜などの割増計算の場合には、次のような例外が認められています。

「1か月の労働時間を全部合計して、そこに30分未満の端数が出たときにだけ、切り捨てることができる。30分以上は切り上げとする」

1か月単位なら30分未満切り下げ、30分以上切り上げが違法ではないと言っても、そこまで1分単位で計算しておいて、1か月単位の計算だけ端数が出ないようにする、というのも、あまり合理性のない話です。

給与計算はパソコンソフトやクラウドを使うのが当たり前、勤務時間の集計もシステムで自動計算が珍しくない昨今、「1分単位の集計が事務の負担になる」という言い訳は、もはや使えないでしょう。

そうすると、残るは「労働時間を少なめに集計して、人件費を少しでも浮かせたい」という、明らかに労働基準法違反の意図しかありません。

「いままでこうやっていたから、これでよいはずだ」という考えで、時給者の労働時間や時間外労働の時間を15分単位等に丸めて、切り捨てていると、そのうち労働基準監督署の調査が入り、「賃金未払い」を指摘されて是正勧告が出るということになります。

さらに重大な問題は、従業員から「この会社は、労基法違反(賃金未払い)をするのも平気なんだな」と思われることです。
法律さえも守らず、自分たちの正当な報酬を削ろうとする会社を、信頼できる従業員がいるでしょうか。

労働人口が減少し、人手不足に拍車がかかっている中でそのような考え方では、従業員の退職に歯止めがかからないということになってしまいます。

法令遵守、とくに労働基準法を守ることは、社外に向かってのポーズではなく、従業員からの信頼を得るために、会社として必須の行動なのです。