大学時代の友人に、卒業してまもなく会ったことがあります。
彼女は、銀行に就職し、仕事にあきたらなくて悩んでいました。
「高卒の子たちと同じように窓口業務をさせられる」と。
しかし、そのときわたしが思ったのは、
「高卒より高い給料をもらって同じ仕事をしているのでは、ほんとうに腹が立つのは高卒の子たちじゃないの?」ということでした。
もちろん、真剣に悩んでいる友人に、そんなことは言いませんでしたが。
欧米型の「同一労働同一賃金」は、ジョブ型雇用が前提
「日本企業は」、と書きましたが、欧米ではかなり違っているようです。
もちろん各国ごとに事情は違うでしょうが、ざっくりした話をします。
たとえば「銀行の窓口業務」という仕事(ジョブ)に時給という値段がついていて、それは基本的にどこに行っても大差はない。
学歴やそれまでのキャリアも関係ない。
これが、いままで労務管理の分野で通常言われていた「同一労働同一賃金」です。
では、その ジョブの値段はどう決めるかというと、産業別労働組合と会社側団体の交渉で決まります。
企業別労働組合が主流の日本とは、そもそも社会の仕組みが違うので、同じことができないのはすぐわかりますね。
「働き方改革」の中の「同一労働同一賃金」の意味
では、いま日本で言われている「同一労働同一賃金」とは、どういう意味なのでしょうか。
それは、この言葉が出てきた背景を考えるとわかります。
長い不況の中で、企業は正社員を非正規社員に置き換えて、生き残りを図ってきました。その結果、現在では非正規社員の比率が40%を超えています。
非正規社員と正社員の間には、給与の大きな格差があります。
パート・アルバイトは、主婦の家計補助や、学生の小遣いの足しであって、それがなくても路頭に迷うわけではないということから、低賃金でも構わないという慣習があるからです。
実際に数字で見てみましょう。
大卒初任給の相場は、だいたい21万円くらいです。
これを時給に直すと、ボーナスが5ヶ月分と仮定して、1,690円程度になります。
一方、パート・アルバイトの時給平均は1,142円(キャリアリサーチ調べ)です。
現実には、大卒正社員とパート・アルバイトが同じ仕事をしていることもよくあり、1.5倍以上という給与の格差が、能力の差かというと、そんなことはまったくないでしょう。
しかし現在では、パート・アルバイトで生計を立てている人も珍しくなく、その多くが若い人たちです。
言い換えると、子供を生む適齢期の人たちだとも言えます。
しかし、収入が少なくて、結婚することも子供を産むこともできない。
これを放置しておくと、ますます少子化が進んでしまいます。
というところから出てきたのが、日本版「同一労働同一賃金」です。
給与の違いを合理的に説明できればよい
2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)から、パートタイム・有期雇用労働法が施行されました。
この法改正によって、「同一労働同一賃金」が必要になったと言われていますが、その中身は「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止」されるということです。
「不合理な待遇差」とはなんでしょうか。
なぜその差がついているかということに対して、合理的(第三者から見ても納得できるような)理由があるかどうか、ということです。
「合理的な待遇差」は禁止されていません。
つまり、「同じ仕事であれば同じ賃金でなくてはならない」ではなく、
「同じ仕事で同じ賃金ではない場合、合理的な理由があればよい」ということなのです。
そうなると、会社としてやることは、非正規労働者の賃上げだけではありません。
給与の差がある場合、合理的な説明をする体制をつくる、ということです。
そのためには、職務に関連しない手当を削減する、等の小手先の対策ではなく、賃金制度自体の見直し、そして、人事評価制度を導入するということが必要になってきます。
若い層から選ばれる会社になるために
最近の若い人たちの会社選びの観点のひとつに、「その会社でキャリアアップできるか」ということがあります。
そのような若年層の期待に応えるためにも、人事評価制度の導入は必要だと言えます。
この給与はどのような理由で決まっているのか。
そして、どこをがんばれば、等級(給与)のアップにつながるのか。
ここを、会社がはっきり説明してあげることができなければ、若い人たちからはそっぽを向かれてしまうでしょう。
人事評価制度なんて、大企業のすること、うちみたいな小さいところには関係ない、とお考えの方も多いようですが、中小企業に向いた制度設計方法もあり、そのための経験をもっているのが社労士です。
せっかく入った若い社員が長く勤められるよう、ぜひご相談ください。