令和7年6月11日、労働施策総合推進法等の一部改正法が公布されました。この改正により、企業のハラスメント対策が大幅に強化されることになります。今回の改正内容について企業の皆様にとって重要なポイントを解説いたします。
改正の施行時期
今回の改正法は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。つまり、遅くとも2026年12月11日までには施行されることになります。ただし、女性活躍推進法については、2026年4月1日が施行日となっており、企業は段階的な対応が必要です。
カスタマーハラスメント対策の義務化
カスタマーハラスメントとは
今回の改正で最も注目すべきは、カスタマーハラスメント対策が事業主の義務となったことです。カスタマーハラスメントは以下の3つの要素をすべて満たすものと定義されています:
- 顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行う
- 社会通念上許容される範囲を超えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
事業主が講ずべき措置
事業主は、カスタマーハラスメントにより労働者の就業環境が害されることのないよう、以下の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません:
- 相談体制の整備:労働者からの相談に適切に対応するための体制づくり
- 抑止のための措置:カスタマーハラスメントへの対応の実効性を確保するための措置
- その他必要な措置:事業の特性に応じた適切な対応策
具体的な措置の内容については、今後厚生労働大臣が定める指針で示される予定です。
求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化
いわゆる「就活セクハラ」への対応
改正法では、求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止も事業主の義務となりました。これは就職活動中の学生やインターンシップ生等を対象とした、いわゆる「就活セクハラ」への対策です。
事業主が講ずべき措置
事業主は以下の措置を講じる必要があります:
- 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発(例:面談等を行う際のルールをあらかじめ定めておくこと等)
- 相談体制の整備・周知
- 発生後の迅速かつ適切な対応(例:相談への対応、被害者への謝罪等)
治療と就業の両立支援対策
今回の改正では、治療と就業の両立支援についても新たな規定が設けられました。事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、治療と就業との両立を支援するため、以下の措置を講ずるよう努めなければなりません:
- 労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- その他の必要な措置
この分野についても、厚生労働大臣が指針を定め、事業主への指導・援助を行うことができるとされています。
国・事業主・労働者・顧客等の責務の明確化
国の責務強化
改正法では、国の啓発活動が強化されます。国は、職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するため、規範意識の醸成がなされるよう、必要な啓発活動を積極的に行わなければならないとされました。
各主体の責務
カスタマーハラスメントや求職者等に対するセクシュアルハラスメントについて、以下の各主体の責務が明確化されました:
- 事業主:労働者の関心と理解を深め、研修の実施等の配慮を行う
- 労働者:問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に注意を払う
- 顧客等:労働者に対する言動が就業環境を害することのないよう注意を払う
女性活躍推進法の改正ポイント
情報公表の義務拡大
2026年4月1日から、従業員数101人以上の企業に対して、「男女間賃金差異」及び「女性管理職比率」の情報公表が義務となります。これまで301人以上の企業のみに義務付けられていた男女間賃金差異の公表が、101人以上の企業に拡大されます。
法律の有効期限延長
女性活躍推進法の有効期限が、2026年3月31日から2036年3月31日まで10年間延長されました。
企業が今すぐ取り組むべきこと
準備期間の活用
施行まで約1年6か月の準備期間があります。この期間を有効活用し、以下の準備を進めることをお勧めします:
- 現状の把握:既存のハラスメント対策の見直し
- 体制の整備:相談窓口の設置・強化
- 規程の整備:就業規則等の改定
- 研修の実施:管理職・従業員への教育
継続的な取り組み
ハラスメント対策は一度整備すれば終わりではありません。定期的な見直しと改善を継続し、働きやすい職場環境の実現に向けて取り組むことが重要です。
今回の改正は、すべての企業に影響する重要な変更です。早めの準備と対応により、法令遵守はもちろん、より良い職場環境の構築につなげていきましょう。ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。