『眠れる美女たち 上』スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗 | 単行本 – 文藝春秋BOOKS
『眠れる美女たち 下』スティーヴン・キング オーウェン・キング 白石朗 | 単行本 – 文藝春秋BOOKS
いつから読んでたっけ? というくらい時間をかけて読了。
上巻はダラダラ読んでいたのだが、さすがに下巻に入ると勢いがついて、ほとんど一気読みだった。
息子のオーウェン・キングとの合作ということだが、言われなければほとんどわからない、キング印。ホラーというよりファンタジーだ。とはいっても、キングはキングなので、スプラッタな場面はけっこう出てくる。
で、ここから先はネタバレである。未読の方は、ご自分の判断でお読みください。
女たちが正体不明の疫病[1]実際は病気というわけではないのだが、そのように解釈されている。にかかり、眠り込んだまま目覚めなかったら、男たちはなにをするか。
暴れるのである。
病院には人が殺到し、眠り込まないために覚醒作用がある薬を求めて、ドラッグストアは荒らされる。まあ、ここまではわかる。
眠っている女たちは、繭に包まれている。なんとか起こそうとして、その繭を破ったりすると、おそろしく凶暴になって襲いかかってくる。このへんは、ゾンビものっぽい感じ。破ったものはたいてい殺されてしまう。そこで、そうなる前に火をつけて、眠ったまま焼き殺す。これも、そういう状況ならそうなるだろうなぁ、と思う。
そして、世界中で暴動が起こる。
えーと、暴動? 政府になんとかしろってこと? ここまで来ると、なにを求めているのか理解不能である。
要するに、ふだんなら止めてくれる女たちがいないから、好きなだけ暴発したということのようだ。
ミソジニストのクソのような、理屈になっていない理屈も、さんざん展開される。
男はどうこう、女はどうこう、という主語の大きな話はいただけないが、思考実験としてはそりゃこうなるよね、ということで、とても臨場感があり、あるあるある~、の連続である。
そして、眠った女性たちは、ただ眠っているのではなく、同じ地球上で同じ街なのだが、時間の流れが異なる別世界で目覚めている。
しばらく前に Twitter で #女だけの街 という話題があったが、まさに小説の中で、それが展開されるのである。これもまた臨場感たっぷり。
男がいなくても、なにも困らない。
いままで男に虐げられていた女たちは、平和な生活を手に入れる。
もちろん、女だって完璧なわけではないが、いさかいが暴力的に解決されることがあまりない世界である。女がいなくなって、男たちが暴れに暴れたのとは、まったく対照的だ。
妊娠している女性たちは、その街で出産するのだが、当然男の子も生まれてくる。また、話に出ただけで実現はしないが、精子バンクを探して、新たに妊娠する可能性も語られる。要するに、持続可能性もある。
そうなれば、女だけの街ではなくなるのだが、男がいないところで、女だけで教育した男は、それまでの男とはやはり違ってくるだろう。それが何世代も続いたら? ユートピアにはならないだろうけど、いまとはずいぶん異なった社会になるのは、容易に想像がつく。
結局、女たちは、主に息子かわいさに、元いた場所に戻ってくる。
これが違う結末だったら、SFになるわけよね。そういうのも見てみたいね。
References
↑1 | 実際は病気というわけではないのだが、そのように解釈されている。 |