講演開始前の荻上チキさん
講演開始前の荻上チキさん

チャイルドラインとちぎ主催の公開講演会、「ストップ いじめ!」に行って来ました。講師は、ストップいじめ!ナビ代表理事の荻上チキさんです。荻上さんについては、ネットだけでもお仕事は多岐にわたっているので、いったいどこにリンクしたらよいのかよくわかりませんが、荻上チキ | SYNODOS -シノドス-と、Session-22(TBSラジオ)のサイトをご紹介しておきましょう。

わたしは、ハラスメントというおとなの世界でのいじめの専門家でもあり、子を持つ親として、そして民族的マイノリティといういじめの高リスク層のひとりとして、いじめ問題には関心があります。きっと興味深い話が聞けるだろうと期待して出かけましたが、期待どおり、内容がみっちりつまった講演でした。

予定時間は2時間で、そのうち1時間半はチキさんのお話、あとの30分を使って、会場から募った質問に答える、という形式でした。

質問は、まずは休憩時間中に紙に書かれたものを集め、こちらはかなりの数がありました。その後、手を上げての質問も募ったのですが、挙手する人はなし。シャイな栃木県人には紙に書いて出してもらうというのはいい方法かもしれません。

いじめ問題だけでなく、教育問題というと、だれでも子供だったころ、学校に行っていたころがあるのでとっつきやすいのでしょう、門外漢がとんちんかんな議論を展開することもたびたび。門外漢どころか、教育評論家となのっていても、根拠のないしょうもない議論を展開し、そういう人がマスコミでもてはやされたりしています。わたしも、根性論、精神論、教師悪玉論、日教組悪玉論にはうんざりです。

今回の講演は、そういう適当な「教育論」とは違い、グラフや表を多用した現状の解説からはじまり、いまある資源をいかに活用するか、教師ができることはなにか、まわりのおとなや親ができることはなにか、とにかく具体的で論理的な話が続きます。

「ストップいじめ!ナビ」では、実際に相談窓口情報の提供や、いのちの生徒手帳プロジェクトなどの活動を行っています。

また、いじめ防止対策推進法がすでに施行されていて、各自治体や学校で「いじめの防止等のための対策に関する基本的な方針」が作られているので、それを「ストップいじめ!ナビ」で精査して、よいもの、ダメなものを見分けていく、というのも、法律の成立自体を知らなかったので、よい情報でした。

内容については、ちょっと古い記事なのですが、いじめを止めたい大人たちへ ―― 「ストップいじめ!ナビ」第二弾更新にあたり / 荻上チキ×井桁大介×明智カイト | SYNODOS -シノドス-と重なっている点が多く、参考になるかと思います。

「自殺するくらいならば、学校から逃げてもいい」という発想は重要ですが、不登校は不登校でまた、大きなリスクです。現実的に考えると、学校に行かなくなると履歴書に空白ができるので、就職などの面で大きなハンディキャップになります。「逃げてもいい環境」がなければ、そのセリフもまた、自己責任を押し付ける精神論になってしまう。

すべての生徒が適切に教育を受けられる環境を作るということ、学校を誰にとっても危険な場所ではない状態にすることが、当たり前のことではあるがベストだということは、忘れられてはいけないでしょう。

上の点については、「緊急避難的であり、周りの人が直接伝えるものであれば『学校なんて行かなくていい』のもあり。でも、不登校は本人にとって不利になるし、学校に行かなくなると学校の問題ではなくて、本人の個人的な問題にされてしまう・・・」という形でも触れていらっしゃいました。(言葉については、記憶で書いているので、チキさんが語ったそのままではありません)このあたりも、日頃自分が考えていることと重なるなぁと思って聞いていました。

心身の不調を感じたら、早めに休んだほうがいい、とはわたしも言っていますが、それは、そのままずるずると職場に行けなくなって休職や退職してしまうことがいいのではなく、できればいまいる職場で働き続けられることがよいわけです。職場自体は別のところに行ってもいいのですが、働くこと自体から逃げることは、本人の人生に大きなハンディになってしまいます。そこをきちんと切り分けていかないと無責任な議論になってしまいます。

また、いじめというのは、ストレスが強い場所でおこりがちなので、ストレスがかからないようにすることがいじめ対策になる、という点、そして、いじめ対策として特別なものがあるのではなく、学校であればいい授業をすることがまず第一というのが、印象的でした。

匿名でのアンケートを一定の期間ごとに継続すること、予防、発見、対策、検証のPDCAを回していくこと、なども、おとなの世界のハラスメント対策と共通する点です。

精神論ではなく、いまあるリソースを活かして、具体的にできることをする、なにが効果的なのか統計を用いて科学的・論理的に検証していく、という方法論をもっと広める必要があります。そのために、自分はなにができるのか、ということを改めて考えることになった講演でした。


 

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