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政府は中小企業の残業代を引き上げる検討に入った。2016年4月をめどに、月60時間を超える残業には通常の50%増しの賃金を払うよう企業に義務付ける。現在の25%増しから大企業と同じ水準に引き上げて、なるべく長時間労働を減らすよう促す。やむを得ず残業する人の収入は増えるようにして、消費を押し上げる狙いもある。
残業代 中小も5割増 長時間を抑制、政府検討  :日本経済新聞

この記事の後段にも書いてありますが、月60時間を超える時間外労働について、割増率を 50% にするという労働基準法の改正は、すでに平成20年に行われており、大企業は22年から適用、中小企業は当分の間猶予、ということで、いつ実施されるか決まっていませんでした。[1]後記:その後、2023年4月1日より中小企業の猶予措置は廃止、つまり大企業と同じく60時間以上で50%割増をつけなければならないと決定しています。

「残業代を引き上げる検討に入った」というのは、残業代を引き上げるかどうかの検討をしているのではなく、引上げ自体はすでに決まった路線で、実行する時期が確定に向かっている、ということです。

長時間労働を抑制したいのか、残業代を増やしたいのか、いまいち狙いがよくわからない感じの施策ですが、すでに決まったことです。実施されてからあわてるのではなく、実施の日に向けて、対策を考える必要があります。

60時間? うちはそんなに残業している人はいないよ。パートさんが多いしね。

と、のんきに構えている社長さんもいるかもしれません。

実際のところ、パート以外は管理職ばかりで、時間外手当を支給する社員の数は少ない、という会社は多いものです。

ところが、会社が把握している残業時間がさほど多くないからといって、安心してはいられません。

管理職の残業時間は記録していますか? 60時間を超えている人がけっこういるのではないでしょうか。

全国の労働基準監督署は12年度にサービス残業をさせていた1277社を指導して、10万人の働き手に計105億円の残業代を払わせた。中小の割増率を引き上げると、人件費を抑えるために残業を減らす効果が期待できる。一方で、かえって残業代を払おうとしない企業が増えてしまう可能性もあるため、厚労省は労働基準監督署による監視の強化も併せて検討する

(強調は引用者)

これは、最初にリンクした記事の後の部分です。

会社としては残業が月に60時間を超えている社員はいない、サービス残業はさせていない、という認識でも、監督署の調査が入ると、ひっくり返されてしまう可能性があります。

時間外手当の対象にならない、労働基準法の「管理監督者」というのは、単純に管理職という意味ではありません。会社としては、管理職だから残業手当を支給しなくてよい、と思っていても、監督署の基準で見ると、「管理監督者」に当てはまらず、残業代を支給しなさい、と指導されることがあります。

そう、「名ばかり管理職」問題です。

とある、経営学の大学教授が、授業をあまり聞いていない学生に「名ばかり管理職とはなにか?」と尋ねると「無能で、部下に仕事を押しつけて、自分はスポーツ新聞を読んでるだけで高い給料をもらっている人」という答が多いという話を聞いたことがあり、思わず笑ってしまいましたが、本来の意味は違いますね。管理職としての権限や、それに見合う給与ももらっていないのに、管理監督者として残業手当の対象から外されている人、ということです。

管理監督者かどうかの主な判断基準は、次のようなものです。(昭和63.3.14 基発150号)。

  1. 労働条件の決定や労務管理の実施にあたって経営者側の立場に立ち
  2. 労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職責と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者で、
  3. 更に一般労働者に比し待遇面でその地位に相応しい優遇措置が講じられていること

よりくわしい内容については、厚労省発行のパンフレット(pdf)をごらんになるか、当事務所にご相談ください。管理監督者の範囲だけでなく、残業削減の方策についても、ご相談にのっています。

60時間、という数字だけにとらわれていては、遡って多額の時間外手当を支払うことになるかもしれません。中小企業も管理職の権限や待遇も含めて、検討に入る時期なのです。

Footnotes

Footnotes
1 後記:その後、2023年4月1日より中小企業の猶予措置は廃止、つまり大企業と同じく60時間以上で50%割増をつけなければならないと決定しています。