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職場で部下の女性に性的な発言を繰り返し、出勤停止と降格の処分を受けた上司の男性2人が「処分は重すぎる」と会社側を訴えた訴訟の上告審判決が26日、最高裁第一小法廷であった。金築誠志裁判長は「極めて不適切なセクハラ行為で、処分は妥当」と判断。処分を無効とした二審・大阪高裁判決を破棄した。 セクハラ発言での降格処分「妥当」 最高裁が二審破棄:朝日新聞デジタル

昨日、セクハラ行為の懲戒処分の妥当性が争われた裁判が最高裁で結審し、「処分は妥当」として、従業員側が敗訴しました。

各社はかなり詳しく報道しており、「セクハラ 最高裁」で検索するだけでも、事件の概要を理解することができますが、最高裁の判例情報にも、昨夜のうちに判決文全文が収録されています。この判決の重要性を印象づけるような状況ですね。

懲戒処分の有効性について裁判で争われると

一般的に、懲戒処分の有効性が争われる場合、論点は下記の4点です。

  1. 懲戒処分の根拠となる条文が就業規則に定められているか
  2. 行われた行為に対して、懲戒処分が重すぎないか、そのバランス
  3. 懲戒処分を行う前に、会社は適切な手続きをとっていたか
  4. 同種の懲戒が行われた他の社員に比べて、今回の処分が重すぎないか、そのバランス

今回の事件では、4についてはとくに論点になっておらず、2に関しては、「処分に値するセクハラ行為があった」ということで一審、二審とも一致しています。一審の大阪地裁は、1、2、3すべてで会社の主張を認め、処分は妥当としましたが、二審の大阪高裁は、3の手続きについて会社側に落ち度があり、処分が重すぎた、としていました。

処分の内容は、出勤停止と降格です。一般に解雇、懲戒解雇以外の処分については、会社の裁量権が大幅に認められる場合が多いのですが、今回は解雇に次ぐ重い処分であり、懲戒により給与などの減額も大きいということで争われました。この懲戒処分で上司二人が失った利益は、給与賞与合わせてそれぞれ、60万円、30万円以上であり、管理職手当などが受けられなくなることによって、将来にわたって月に7~8万円給与が減額になっています。

経営者や人事労務担当者としては、会社がどのような対策を行っていたから、上のような重い処分が妥当だと判断されたのか、気になるところですね。その点について、上記4点のうち、1と3、つまりセクハラ事案の懲戒について、裁判に勝つためにはどのような対策をとればよいのかについて、判決文の内容をお伝えしましょう。

懲戒処分の根拠となる条文が就業規則に定められているか

これは、そのものずばり、判決文に記載されていますので、そのまま引用します。

就業規則には,社員の禁止行為の一つとして「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」が掲げられ(4条(5)),就業規則に違反した社員に対しては,その違反の軽重に従って,戒告,減給,出勤停止又は懲戒解雇の懲戒処分を行う旨が定められていた(46条1項)。また,社員が「会社の就業規則などに定める服務規律にしばしば違反したとき」等に該当する行為をした場合は,上告人の判断によって減給又は出勤停止に処するものとされていた(46条の3)

ここまでは、どの会社の就業規則もだいたい似たような内容になっているはずです。これだけでも処分はできますが、ちょっと弱い気もします。裁判所が見て、きちんと根拠がある処分だと判断した理由はこれだけではありません。

この会社では、セクハラについては、平成22年11月に「セクシュアルハラスメントは許しません!」と題する文書(セクハラ禁止文書)を社員に配り、社内に掲示していました。
判決文によると、その内容は次のとおりです。

セクハラ禁止文書には,禁止行為として「①性的な冗談,からかい,質問」,「③その他,他人に不快感を与える性的な言動」,「⑤身体への不必要な接触」,「⑥性的な言動により社員等の就業意欲を低下させ,能力発揮を阻害する行為」等が列挙され,これらの行為が就業規則4条(5)の禁止する「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」に含まれることや,セクハラの行為者に対しては,行為の具体的態様(時間,場所(職場か否か),内容,程度),当事者同士の関係(職位等),被害者の対応(告訴等),心情等を総合的に判断して処分を決定することなどが記載されていた。

つまり、禁止すべき具体的な行為の内容、それらの行為が就業規則の懲戒事由にあたり、処分される可能性があることが、明確に書かれていたということです。

さらに、就業規則ではありませんが、判決文の中では、下のように、会社ぐるみのセクハラへの取組が評価されています。

上告人(注 会社のこと。引用者)においては,職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け,セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに,セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど,セクハラの防止のために種々の取組を行っていた

やはりセクハラ防止研修の開催は、必要です。それも毎年、全員参加、というところから、会社の本気度が伝わってきます。

また、今回の事件では、会社を訴えた二人はこの研修に参加していながら、まったく自分の行いを改めなかったこともポイントになっています。セクハラやパワハラをやってしまいがちな社員ほど、人ごとだと思っていて研修に出たがらないものですが、全員に受講させないと、会社のセクハラ防止の取組が弱かったということになってしまいます。

懲戒処分を行う前に、会社は適切な手続きをとっていたか

二審の大阪高裁では、

被上告人(懲戒を受けた社員二人)らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人(会社)の具体的な方針を認識する機会がなく,本件各行為について上告人から事前に警告や注意等を受けていなかった

として、社員側が勝訴していますが、最高裁ではここが否定されています。

では、具体的に会社が行ったことを見てみましょう。

被上告人X2(懲戒された社員のひとり)は,以前から女性従業員に対する言動につきD社(セクハラの被害者が所属していた派遣会社)内で多数の苦情が出されており,また,平成22年11月に営業部に異動した当初,上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていた

訴えたうちのひとりは、懲戒前にも女性従業員への言動について、会社から注意を受けています。

被害者から会社にセクハラ行為を受けたという申告があったのが、平成23年12月です。会社は行為者の社員から事情聴取を行い、それに基づいて、24年2月17日付けで懲戒処分を行っています。

そして、懲戒処分に基づく降格を決定する審査会を2月23日に開き、出勤停止の処分を理由に3月19日付で降級を通知しています。

会社としては、被害の申告からかなり迅速に、そして、就業規則に決められた手続きによって、懲戒処分や降格処分を実行していることがわかります。

また、被害の申告の前に、会社が注意するべきであったかどうかについては、判決文ではこのように言っています。

本件各行為(セクハラ行為)の多くが第三者のいない状況で行われており,従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において,上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の事実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれない

つまり、セクハラ被害を会社に伝えることのできる窓口がきちんと機能していれば、それ以前には、密室で行われた行為について、会社がなんらかの対応をとることまでは求められていないということです。知らないものについては、対応できないので、当然ですね。しかしこれも、「セクハラ被害を申告する窓口」があるということが前提です。

とくに重要な3つの対策

以上、判決文から読み取れることをまとめると、下記の3点が、セクハラ事案の懲戒処分を適切に行うために、重要な対策だということがわかります。

  1. 就業規則やセクハラ禁止規定などに、具体的な禁止行為の内容と、それに対する懲戒の内容や方法等が定められており、社員に周知されていること
  2. セクハラ防止の研修を定期的に行い、全員参加としていること
  3. セクハラ行為を申告する窓口があり、申告があったときには就業規則等に規定された手続きを踏んで、迅速に対応すること

もちろん、セクハラ対策はこれだけではありません。

今回は、セクハラの被害者から訴えられたのではなく、セクハラ事案で懲戒した行為者から訴えられたものです。基本的なセクハラ対策は、「セクハラ被害を防止する」「被害が起こってしまった場合は被害者を救済し、会社の秩序を取り戻す」「再発させない」ことを主眼として行うものです。

セクハラについては、どのような対策を行うべきかということは、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」として、厚生労働省の告示が行われ、その内容は義務とされています。上に書いた3つの対策は、その中の一部なのです。

くわしくは、厚生労働省が発行しているパンフレットをご覧ください。

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