映画『新聞記者』公式サイト

アニメや Web 小説の実写化でもなく、高校生の初々しい青春でもなく、不治の病でもなく、いま、このテーマで映画を作ったというのは、やはり評価すべきところなんだろうなぁ。
それ自体、相当情けない話なのだが。

テーマ性以外にも、サスペンスの盛り上げ方とか、松坂桃李初め俳優たちの演技(本田翼除く)とか、よい点もいろいろあり、別にたいくつな映画ではない。
しかし、わたしにとっては、かなり「あかん映画」でした。
モヤモヤして帰ってきた。

モヤモヤポイント1-照明

内調の職員がおおぜい働いている部屋がめっちゃ暗い。
役職者の個室もかなり暗い。
新聞社等、職場のシーンはだいたい暗く、このあたりは演出だよね、と思える程度。
照明や色彩で語るのは、映画の見せ方として、わたしもけっこう好きだ。

しかし、これはやりすぎ。
労働安全衛生法(というか、衛生則)の照度の基準以下でしょ、違反じゃ、というのはおいといても。
現実にはこんなに暗いわけない事務室をここまで暗くしちゃうのは、悪の巣窟に見せたいのね、主人公の鬱屈した気分を見せたいのね、っていうのはわかるけど、幼稚に感じた。

モヤモヤポイント2-シム・ウンギョンの起用

シム・ウンギョンの出演作は、子役時代含めて、ドラマ、映画、かなり見ている。
最近では『ときめきプリンセス婚活記』という超しょうもない邦題の、内容もかなりしょうもない映画まで、劇場で見ている。
その芸達者ぶりはよく知っている。

しかし、日本語の第一声を聞いて思ったのは「こんな声だったっけ?」ということ。

声が硬い。細い。棒読み。

彼女ほどの役者をして、慣れない外国語で演じるとこうなっちゃうのかー、と残念だった。

もちろん、あの生硬なセリフ回しは演出という可能性もあるけど、雄弁な目の演技や、慟哭の表現を見ると、人物像として終始一貫してないよね。
目の演技にしても、セリフが弱いのを意識してか、ちょっとアップが多すぎ、きょろきょろしすぎという感もあった。
いくら目が美しくてもねー。実際、ルックスもほんと美しくなったねー、とは思ったけど。

そもそも、日本の俳優が尻込みして出ないから、韓国の俳優を使いました、っていうのが、話題作りかもしれないが、安易すぎる。

母親が韓国人っていうことで、明らかな韓国語なまりを説明したつもりかね?
アメリカで育ったという設定とは、矛盾してるけど。
いっそ、韓国育ちという設定であれば、まあおかしくはないけど、話の筋としては、高校のころから日本に住んでいる(大学について言及があったかどうか覚えてないので、仮にアメリカの大学を出たにしても)、4年も社会部で記者をやっていて、あの発音はないわ。
結局、韓国育ちにしなかった理由があるというわけだな。

こういうときだけ、ダブルルーツを便利に使うな、とムカムカした。

それに、彼女が出てくるシーンって、外でも、家でも仕事している場面ばっかり。
韓国人の母親はまったく出てこない。
やたらと食事をし、やたらと親族関係が描かれる韓国ドラマの見過ぎなのかな。
なんだか、人物描写が平板に感じた。
このあたりは、話の絞り方なので、このほうがいいのかもしれない。
でも、次のモヤモヤポイントに関わってくることでもある。

モヤモヤポイント3-女性観

シム・ウンギョン演じる吉岡には、まだ言いたいことがある。

「父の娘」であることが、このストーリーのポイントになってるけど、それについての、彼女の葛藤はぜんぜん描かれない。
そもそも葛藤自体ないのかな?
アメリカ人の記者に「あの父親の娘なんだからあなたならできる」と言われて、ちょっと困ったような、なにか言いたそうな顔をするんだけど、それで終わり。
日本で新聞記者になった時点で、なにか吹っ切れているのかもしれないが、それは観客にはまったく伝わってこない。
忠実な「父の娘」しか、そこにはいない。

さらに、この映画には、ふたりの女性が出てくる。

主人公である杉原の妻。本田翼が演じている。

わたしは日本の芸能人にはうとく、この人の顔にも見覚えなかったし、名前はなんとなく聞いたことがあったけど、このブログを書くためにぐぐって、やっと顔と名前が一致した。
夫に対して、ずっとこびた感じの猫なで声でしゃべっているんだけど(というか、夫といっしょの場面しか描かれてないけど)、この人はもともとこういう声、しゃべり方なんだろうか。
甘ったるく、幼い感じの声で、でも、セリフの内容は、夫に対しての忖度ばかり。
出産間近の身で、ほんとうは夫にそばにいてほしいし、妊婦健診にも付き添ってほしいんだけど、それよりも夫の仕事がだいじ。
わたしは、がまんして、夫の前では笑顔でいるわ、という健気な妻。

超わざとらしくて気持ち悪い。

本田翼の演技力が足りなくてこうなってしまったのか、それとも、互いにいたわりあい、愛し合っている夫婦を描こうとしたらこうなってしまったのか。

先に破水して帝王切開になってしまい、やっとかけつけた夫に「出産を甘く見ていた。なにごともないと思っていた」と語る場面では、違和感マックス。
いつも夫の帰りが遅く、高層マンションの上階にひとりきりでいるのに、そんなわけないだろう。
不安でいっぱいなほうがふつうじゃないのかな。
能天気で、明るい性格なのかもしれないが、不満を押し殺していい妻を演じている雰囲気とそれも合わない。
このへんは完全に脚本の浅さだよね。

もうひとりは、杉原の元上司である神埼の妻、西田尚美。

こちらは、演技という点ではさすがに問題ないが、やっぱりやたらと物分りがよく、男から見るとこういう妻があらまほしいんだろうなぁ、という感じ。
ひとりならともかく、ふたりとも同じような感じなので、これは監督の女性観が出ているんだろうなぁ、と思った。

モヤモヤポイント4-結局私怨?

この映画は、社会の木鐸であり、全体の奉仕者であるという職業倫理が、政治がらみでおしつぶされそうになり、それに抗う個人が主人公になっている。

良心を貫こうとすると、自分自身の身が危ないし、職業人として潰される。
そういうぎりぎりのところで、もがき、なんとかしようと奔走する人間像を描いているはずなのに、ふたりとも、父や元上司の死によって動かされているように見える。
社会への指向性があるような、ないような。

このへんはもう、ないものねだりで、こういうストーリーじゃないと日本人には説得力がないってことなのかな、と感じた。

ヒットしたのはよかった

文句ばかり並べたが、この映画がヒットしたということは、素直によかったな、と思う。

社会派の映画、ときの政権に弓引く内容の映画が、興行的にはOKとなれば、当然次もある。
この先、松坂桃李が干されたりすることもなければ、韓国人俳優を使うなんていう変化球を投げる必要もなくなる。

レベルとしてはハリウッド映画にはかなわなくても、やはり日本では日本映画の需要が大きい。

わたし自身は、この先劇場で邦画を見ることはそんなにないだろうけど、映画自体の隆盛を考えれば、邦画もがんばってほしいのよね。


メモ

邦題 新聞記者
原題
監督 藤井道人
俳優 シム・ウンギョン(吉岡エリカ)
松坂桃李(杉原拓海)
本田翼(杉原奈津実)
岡山天音(倉持大輔)
郭智博(関戸保)
長田成哉(河合真人)
宮野陽名(神崎千佳)
高橋努(都築亮一)
西田尚美(神崎伸子)
高橋和也(神崎俊尚)
北村有起哉(陣野和正)
田中哲司(多田智也)
関連書籍 新聞記者 (角川新書) | 望月 衣塑子
劇場/媒体 MOVIX宇都宮
製作国 日本
観た日 2019/08/01