映画『焼肉ドラゴン』公式サイト

さて、今回は特別企画で、『焼肉ドラゴン』をめぐって友人と語り合った感想を対談形式でお送りする。

もとの会話はチャットで行われたもので、当初は公開する意図はなかったので、好き放題けなしているし、言葉もきつい。
そのまま読むと誤解を生じそうなことばについては、多少書き換えたり省いたりしている。
また、話がいったりきたりしているので、読みやすくするために順序を大幅に入れ替えて再構成した。
会話のテンポやリズム感を残すように気をつけたつもりだが、うまくいっているかどうか。

というわけで、友人には確認してもらっているが、このブログのすべての文責はわたしにある。

わたしも彼女も在日朝鮮人である。彼女はわたしより5歳下だ。
気のおけない友人同士ではあるのだが、わたしのほうが歳上なので、彼女は敬語を使っている。
このあたりも、在日的だと言えるかもしれない。

同じ在日、とくくってしまうと共通点が多いようだが、実はけっこう対照的だったりする。
本文の中にもその話題が出ているが、そこに入っていない相違点を「彼女-わたし」という形で挙げておこう。

韓国の出身地が済州島-慶尚道
実家が総連-民団
民族教育を受けた-日本の学校しか行っていない

職業も違うし、プライベートでも異なる生き方を選んでいる。

共通点は、ふたりとも民族名を使って生活しているあたりか。
そして、映画好き。

こんなふたりが公開されたばかりの『焼肉ドラゴン』について、歯に衣着せず語ったのが以下の対話です。

在日のリアリティ?

友人

『焼肉ドラゴン』、個人的にはかなりイマイチなんですよね……。 私記事など紹介しつつも、実は作品そのものは一切ほめてないという……。


管理人

うん、わたしもぜんぜんのれなかったわ。
現代の韓国の俳優に在日一世の役をやらせるってところに期待したんだけど、そこがとくに期待はずれ。
あなたがた、ソウルから来たんですか? って感じw


友人

そうそう、一世を知ってる私たちにはどう見ても一世に見えない。現代韓国人ですよね。
その辺は日本人や(韓国の)韓国人にはわからないし。韓国に行ったとき、あっちの人に色々聞かれて結構話しました。


在日一世は、ほとんどが韓国の南部地方出身で、出身地のなまりそのままでしゃべっている。
キム・サンホ演じる父・龍吉と、イ・ジョンウン演じる母・英順は済州島の出身。日本でいえば沖縄のような感じで、別の言語のように、他の地方出身者には理解しがたい方言のはず。
しかし、この映画の中では、標準的な韓国語を話している。


管理人

両親の人となりが、あんまり見えなかったね。


友人

ですね。あと、私のまわりに働き者の一世男性がいなかったからというリアリティのなさも手伝ってしまいw
あんな優しい一世のお父さんいるの?!みたいなw
夫婦仲良しで。娘たちに寛大で。
ええ、私の環境が偏っているのは承知していますw
まあだから、監督にとってはあれがリアリティなのかな、と思うしかないです。


管理人

わたしのハラボジたちは両方共働き者だったよ。あんなにものわかりよくなかったと思うけどw


あの時代、わたしは小学校低学年で、けっこうはっきり覚えてるのね。
一世の祖父母と同居していて、どこにでも連れて行ってもらっていたから、他の一世もたくさん見てるし。

管理人

細かいことを言うと、自分たちのことを「韓国人」っていうの、民団系でももっとあとの話よ。 そうだ、民団も総連もまったく出てこなかったな。


友人

あ、私もそこ違和感! 「朝鮮人」ですよね。


管理人

「チョソンサラム」か、「朝鮮人」って言ってたよね。
「北」とかさぁ。 「コンファグッ(共和国)」か、日本語だとまだ「北鮮」って言葉が生きてましたよ。
いまは差別語だって広まっていてだれも使う人いないけど、当時は在日自身もそう言っていた。


そうそう、末っ子のいじめの話、進学校であれはないと思うよ。
おぼっちゃん学校でしょ?
いじめを免れるために、私立のいい学校に行くという動機だったんだから。


友人

そっか。しかしあれも造形がカリカチュアされすぎで辛かったです。


管理人

発語さえできなくなってるのに、ほったらかし。


友人

ああやって息子だけ進学校行かされた場合、家族嫌いになってバカにしつつ葛藤する、みたいなのが多いような。


管理人

うんうん。親はがんばって高い学費払ってるのに、日本語不自由な親を馬鹿にするっていうほうが、よっぽどありそう。


友人

ガリ勉になって出世目指しつつ。


管理人

医学部めざす。
そのへんの、将来の選択肢がほとんどないっていう閉塞感も見当たらなかったな。


職業差別が激しかった時代。
在日はいい大学を出ても、一流企業に就職するという道は、ほぼ閉ざされていた。
当時はまだ弁護士になるにも国籍条項があり、社会的にステイタスの高い職業で、在日がつけるものというと、医師くらいのもの。
なので、勉強のできる子は医学部に、というのが、在日の共通する思いだった。


友人

なんか、土台のリアリティ、人物のリアリティ、両方に欠けてて、ファンタジーなんですよね。最後の花びら?が象徴的かも。その意味で舞台的。
いつかきっといい日が来る、って言われてもw


管理人

あのセリフもぜんぜん一世ぽくなかった。 なんか朝鮮のことわざでも持ってきてくれるとよかったんだけど。


友人

なんかCMみたいでした。 まあファンタジーですよね。


管理人

うん。まったくリアリティが感じられなかった。衣装も微妙に違うしなー。
でも、直接知ってる人から見ると、それはしかたないかもしれない。


友人

はい。でも、そこを差し引いてもどうかなーという。

共感できない登場人物たち

管理人

日本人の役者が在日の役やるのは、まあ、あんなもんだろうと思うけど。しかたないわね。


友人

演出もなんかしらけるというか………。
なんか(悪い意味で)バカな人たちにしか見えなくて。
惚れた腫れたもいいのですが、薄っぺらいというか……。


管理人

そうそうそう! なんの自省もないし、つらいことを人のせいにしてるだけ。


友人

女をバカにしているのかな?とすら少し思ってしまいました。三姉妹のなかの誰ひとりにも共感できない。


管理人

ほんとだよね。薄っぺらかった。


友人

長女を好きだった韓国人男性かわいそうすぎるし……。
なんかあの辺は笑うところになっていたようですが、笑えませんでした。


管理人

長女ひどかったね。大泉洋とふたりで、自分勝手にまわりに不幸をふりまいてる。
そもそも、大泉洋が好きじゃないの。
それは映画のキズじゃないんだけどw


友人

あ、私は唯一よかったのが大泉洋ですw


管理人

わたしは根岸季衣かなw


友人

ああいうかぶれた在日いるよなー、みたいな、w
帰国しちゃう人とかにいそう、という。


管理人

そういうリアリティはあったよね。それだけに、にくたらしくて、溝っこにはまればいいのに、と思って見ていたw
あと、三女が日本人と結婚したがってるのに「日本人だからダメ」というのが出てこないのね。あれだけ、べらべらしゃべってる人たちが。


友人

しかし北への帰国にしても南への移住にしても、自主的にというより男についていくならそれはそれでいいんだけど、もっと迷いとかないのかなぁ?
彼女たち言葉もできない設定ですよ。 くっついてからは従順すぎるというか……


管理人

確かに。あの時代、とくに韓国に移住とか、ないでしょ・・・


友人

ええ、そう思います。 反共軍事独裁の貧乏国。


管理人

日本は景気よくていくらでも稼げたのに。


しかし、この映画、絵で語る映画らしさがないからこそ、わかりやすいから、商業的には悪くないかもよw


友人

いやー、無関心な文脈のわからない人にとっては話が面白くないのできついのではないかと。単なる姉妹の痴話げんか的な話にしか見えないと思います。
女が強い?たくましい?の意味が違いますよね……。


管理人

姉妹の恋愛のぐちゃぐちゃなら、それはそれでもっと描きようあるよね。中途半端。


友人

それと、あのキスシーンだけがアップで長いw 二女の。


管理人

ははは。ほかの部分から浮いてたねw


友人

意図がよくわかりませんでした。


管理人

井上真央にああいうことやらせたかっただけじゃないの?w


友人

かもしれません。なんか全体的に古臭いというか洗練されてない。

舞台劇と映画の違い

鄭義信作・演出による舞台「焼肉ドラゴン」は朝日舞台芸術賞グランプリ、読売演劇大賞および最優秀作品賞など数々の演劇賞を受賞。熱狂的な支持を受け2011年・2016年と再演を重ね、多くのファンを魅了しました。そんな演劇界では一流の演出家であり、映画界では『月はどっちに出ている』、『血と骨』などで脚本家としも名高い鄭義信が本作では初監督に挑みます。映画『焼肉ドラゴン』公式サイトより

管理人

鄭義信どうしちゃったのかしら。なまじ舞台の評判高かったから、そこから抜けられなかったのかな。


友人

舞台見てますか?


管理人

見てない。評判聞いてるだけ。


友人

私もです。だから余計、こんなんだったの?ってがっくり来ました。


管理人

『月はどっちに出ている』は脚本だよね? あれは 映画ぽくないという感想はなかったような気がする。


友人

はい。あと『血と骨』も? でも、原作ありますからね。 あと、監督ではないw


管理人

そうねぇ。原作あって映画用に脚本書くのはちゃんとできる人のはず。監督はぜんぜん話が違うってことかしらん。


友人

ですねー。わかんないですけど。
とはいえ、演出に際しての空間把握が全然違うんだろうとは思います。


管理人

ああー、なるほど。舞台ではよくても、映画にしちゃうと奥行きがないのよね、絵にも話にも。


友人

お話も、舞台はそもそも虚構の上に成り立ってる感が強いから、リアリティのあり方も全然違うんじゃないかと。


管理人

そうよね。舞台はお客も約束事の中で見てるし。
クローズアップして見せたいところ見せるとか、時系列も好きに扱えるとか、そういう映画のよさがなかった。
全体に舞台劇のしっぽが残りすぎ。


感動のシーンが、キム・サンホの長台詞というのも、違和感があった。
すばらしい役者なので、セリフで感動させることはもちろんできるのだが、とても演劇的。
映画なら、そこは映像で見せてよ、と思った。

キム・サンホは、『ビッグ・スウィンドル』で見たときから注目していて、好きな役者さんのひとりだ。
『楽しき人生』も韓国で見たということもあり、とても印象に残っている。
彼の存在感と演技力はこの作品の大きな部分を占めていて、そこには文句はないのだが、それだけにスクリーンの利点を活かしきれてない演出が惜しい! という気持ちが強い。

イ・ジョンウンも、日本語のセリフも含めて好演で、ちょっと演技過剰なくらいに在日のアジュモニ(おばさん)を見せている。

結局リアリティの話に戻ってしまうが、わたしたち二世三世にとって、一世の存在感が大きすぎて、その手触り、息遣いを、現代の韓国の俳優たちが表現するのは難しい、ということなのだろう。



管理人

あとねぇ、食べ物がほとんど映らないし、おいしそうに見えなかったんですけどw


友人

そうそう!そこも!!焼肉全然出ないじゃん!


管理人

ホルモンのうんちくとかあってもいいのにね。
ナムルだの豚足だの。


友人

すごく大事です!
映画にとって食事のシーン!


管理人

そこも舞台だと見せにくいところだから、かもね。

なにを描いていたのか

管理人

しかし、この感想、どうしようかな。
ブログに書いちゃうか。あんまり注目されてないブログだからw


友人

ぜひブログに。うちらには言う権利あるかと。在日だしお金払って見てるしw


管理人

権利! たしかに!
在日のリアルが無視されてるし、女はもっと無視されてる。


友人

ねー、2018年でこれかぁ、とは少し思いました。
なんというか、新しい切り口みたいなものがひとつもないというか。


管理人

邦画に力ないのが、そのまま出てる感じ。


友人

そういうことになりますかねぇ……。


管理人

お互いに連れ子がいて、再婚後の子供もいて、という複合家族なのに、それもなんのための設定かわからない。


友人

ふむ、たしかに。「家族」も全然描けてなかったですね……。
感動的な家族の話と言われても……。どこが?


管理人

逆にいうと、描いていたのはなんだろう?


友人

在日もいたのだ、という事実?


管理人

あのボロ屋だらけの集落のセットがすべてとか?


友人

こういう人たちがいて、南北日本バラバラになったりしたのだ、という。
人は移動してきてまた移動していくのだ。


管理人

あー、そうね。韓国と朝鮮に散っていくというラスト。


友人

その「リアリティ」でしょうか。
三姉妹という設定もすべてそのためのものかと。


管理人

ふむふむ。


友人

ただ、くっついた男によって運命が決まるってのがどうもあれでしたが。
そこに葛藤とかもっとないのかよ、って。


管理人

ひとりは民団、ひとりは総連、ひとりはノンポリだったりすると、わたしにとってはめっちゃリアリティあるw


友人

1人は日本人ですね。


管理人

そうね。帰化の話も出てこなかったね。


友人

なんか、三姉妹が離散家族になるというアイデアありきな感じがして。
舞台はそれでいけたかもしれないけど、映画だとキツいということでしょうか。


管理人

あああ。なるほどね。

在日の多様性を見せたい

管理人

同じ在日っていっても、わたしたちけっこう境遇違うよね。
わたしは三世だけど、二世? 三世?


友人

二世です。ちょっと遅い子で。


管理人

そこも違うね。わたしが生まれたとき、祖父母はまだ40代だったのね。


友人

うちの父は大学出の総連インテリでわが家は土着っぽくなかったです。
そういうのも関係しているのかな?親戚や地域はベタベタでしたがw


管理人

おお、なるほど。うちの家庭は、けっこう典型的な在日像に当てはまるわ。
いなかもので学がなくて。
でも、近いところにはグレたのとか、ヤクザものはいなかったのよね。


友人

なんというか、田舎の在日と都会の在日の違いもありますよね。


管理人

だよね。わたしの住んでたところは在日あんまり多くなかったし。


友人

都会といっても下町ですが、零細の家内工業、飲み屋、なにやってるかわかんない人、活動家、みたいな感じでした。友だちの親の職業。
ひとり親も多かったし。


管理人

わたしが小学校のとき、うちはパチンコ屋で成功してもう裕福だったから、ろくでなしの同胞の話は自分が知ってるわけじゃなくて、まわりからの聞きかじりね。


いろいろ違うのに、この映画に関しては意見一致したわけねw


友人

ですね。
で、なんというか、『血と骨』みたいなだけでもないし、色んな在日がいて、色んな物語がたくさん世の中に出ていくのは本当にいいことだし必要なことだと思うのですが。


管理人

そうなんだよねー。だから、できれば多くの人に見てほしいんだけど、映画としてできがよくない。困った、っていう・・・

わたしたちは在日をめぐる物語になにを求めているのか

ほめるところがほとんど出てこなかったが、金返せというレベルだったわけではないし、たいくつで寝てしまったという話でもない。
前評判がよかったので、期待が大きすぎたということもあるだろう。

では、わたしたちは、在日をめぐる物語になにを期待しているのか。
「わたしたち」とあえて複数形で書いたが、わたしだけではなく、表現に関心のある在日で、同じ期待を持っている人はひとりふたりではないと思う。
そこが共通しているので、この友人との話でも、同じ感想がたくさん出てきたということだろう。

日本社会には、多くの在日に関する物語が流通している。

かわいそうな被差別者。
差別と戦う活動家。
三世四世の代でも、朝鮮の習慣をたいせつに保っている人たち。
キムチを食べ、チョゴリを着る人たち。

まあ、別に嘘ではないが、そういう面もあるよね、という程度の話。

それとは別に、まったく荒唐無稽な、レイシストたちの頭の中にだけいる「在日」。
日本を憎み、子供たちには反日教育をし、「在日特権」を持って、影で日本社会を支配している。
バカバカしい限りだが、これを信じている人たちがいる。

どれも、結局のところ物語なのである。
実態があるものでも、在日という、多様で多面的な存在の、ある一部分をとらえているに過ぎない。

だが、物語だからこそ、在日と呼ばれているわたしたちの存在の核のようなものを、他者に伝えることができる。
物語にはそういう力がある。

わたしたちは、そんな表現を期待しているのだと思う。
とても難しい課題であることは、十分承知しながらも。

マイノリティとして、社会の周辺においやられた、そして、人数的にもごく少ないわたしたちは、自分達の存在をそのようにして知ってもらいたいと思っている。

また、そのような表現が社会に受け入れられるには、エンターテインメントとしてレベルが高く、商業的に成功しなければならない。
これもまた、難しい課題である。

だから、そのような期待がない人たちがこの映画を見ると、まったく違ったものに見えることだろう。
自分のよく知っている世界か、見たことのない世界か、というだけの話ではない。

という背景があるからこその、この怒涛のダメ出しだということは、理解してもらいたい。

正直言って、わたしも、たぶん彼女も、見る前は全力で推そうと思ってたんだよね。
それだけの内容だと思っていたし。
なので、いま現在の心情を言うと、それができないので、困惑している。
文句いって喜んでいるのではなく、困っているのである。

なので、わたしたちのチャンソリ(小言、文句)はチャンソリとして、みんな見に行ってね。
不足な面はいろいろあるけど、くだらない、しょうもない物語ではないことは確かだ。
なにか発見があると思う。

さて、在日の通例にならって年上のわたしがえらそうにしているが、その見識、センスともに尊敬している友人の意見を、このような形でブログに取り入れることができたのは、光栄である。
こういう形にしたのは、彼女のアイデアでもある。
ありがとう。これからもよろしくね。

友人が語った「色んな在日がいて、色んな物語がたくさん世の中に出ていくのは本当にいいことだし必要なことだ」という言葉を繰り返して、しめくくりたいと思う。


メモ

邦題 焼肉ドラゴン
原題
監督 鄭義信
俳優 真木よう子(静花)
井上真央(梨花)
大泉洋(哲男)
桜庭ななみ(美花)
大谷亮平(長谷川豊)
ハン・ドンギュ(尹大樹)
イム・ヒチョル(呉日白)
大江晋平(時生)
宇野祥平(呉信吉)
根岸季衣(長谷川美根子)
イ・ジョンウン(英順)
キム・サンホ(龍吉)
製作国 日本
劇場/媒体 MOVIX 宇都宮
製作年 2018
観た日 2018/06/23